繁殖という作業は、キーパーにとって、非常に手間の掛かる作業です。当然、その分だけのやりがいと喜びを得られるものではありますから、魚種・生物種を問わず、毎年、多くのキーパーたちがシーズンの到来を待ちわび、そしてトライして行くのではないかと思います。
 今回、繁殖について詳しく触れた項目を作ることになり、内容構成をどうするか、ずいぶんと悩みました。しかし、ここは「外産飼育種」として最も一般的であり、そして、私自身が最も愛する種であるヤビーを題材に使うべきではないか・・・ということになったのです。
 ヤビーの繁殖は、ザリガニの中においても、アメザリに次いで簡単な部類に入るとされています。これは、種としての環境適応能力や変化に対する耐性が、アメザリ同様の優秀さを持っていることを証明するものですが、だからといって、キーパーが「何もしなくていい」わけではありませんし、たとえそれで仔がとれても、万全の形で次代に残し、つなげて行くことはできません。そういう意味では、ヤビーの繁殖を経験することで、じっくりと「繁殖の基礎」をマスターし、難しい他種の繁殖作業に応用できるようにして行くことが大切ではないかと思います。そういう意味では、「そこまでやらなくても・・・」という点について、いくつか触れています。実際、ヤビーの繁殖は、そこまで気をつかわなくてもできてしまうケースが多いのですが、ここでの経験を「応用編」へとつなげて行くために、あえて触れておきました。
 私などの場合、どうも「基礎編」であるはずのヤビーにどっぷりとハマってしまって、何年たっても、他種の繁殖にメインを移せないでいるのですが、現在、マロンやその他の種の繁殖に向けて心血を注いでいるメンバー諸氏も、ヤビーの繁殖は、アメザリの「入門編」をクリアした後、一度は通った「基本編」であるといえましょう。ヤビーが好きかどうかはともかく、ザリ・フリークなら、ぜひ一度は繁殖させていただきたい種、これが、ヤビーではないかと思います。それでは、さっそく始めてみましょう。



御 注 意

 本編は、あくまでも「累代繁殖」を念頭に置いて書き進めてあります。従いまして、一般的な熱帯魚などの繁殖記事と比較し、構成や着目点が若干異なる部分があります。あらかじめ御了承下さい。
 また、本文中における数値データ及び細かい方法論などにつきましては、すべてヤビー繁殖での事例を基準に記載してあります。さらに、基本的には「繁殖適正期(ヤビーの場合、春産卵)」における繁殖事例を念頭に置いて書き進めてあります。従いまして、繁殖季節が異なる場合や、他種の繁殖を行う場合は、必ずしも記載通りにならないケースが充分あるものと思われますので、あらかじめ御承知おき下さい。



も く じ


  第1講 種親を選ぼう
  第2講 種親を育てよう
  第3講 繁殖可能個体の見極め
  第4講 ペアリング開始のタイミングとセッティング
  第5講 ペアリングを始めよう
  第6講 交尾の見極めと産卵
  第7講 「安定期」の飼育ポイント
  第8講 孵化と稚ザリの扱い
  第9講 稚ザリ期の餌管理
  第10講 稚ザリ期の水槽管理
  補講その1 連続繁殖について
  補講その2 親の引き離しについて
  補講その3 卵数・卵質アップ大作戦 〜前編〜
  補講その3 卵数・卵質アップ大作戦 〜後編〜
  補講その4 稚ザリ期の共食いは避けられないものなのか?
  補講その5 産卵後の水換えについて