繁殖講座 補講(その3)

卵数・卵質アップ大作戦

〜後 編〜



 卵数・卵質を上げるためには、何をおいても「存分な栄養」が不可欠ですが、これらの成否は、必ずしも餌のみで決まるわけではありません。特に、脱皮で成長を続けるザリガニにとって、この「脱皮」をどこにはさむか・・・が、意外と大きく影響してくるものです。後編は、この部分について考えてみましょう。



卵数・卵質アップと「脱皮」

 エビ・カニ類メスの中には、「産卵前脱皮」といって、繁殖活動に入る前に必ず脱皮する種類が数多くいますが、ザリガニの場合、必ずしもそうではありません(それと似た傾向はあり、その方が調子のいい場合が多く見られますが・・・)。ですから、冬眠後に春の脱皮をしないまま交尾し、産卵してしまうケースもあれば、脱皮直後、殻が固まるか固まらないかのうちから、交尾に入ってしまうケースもあります。
 この際、
卵数・卵質の点で心配なのは後者のケースで、供給されるべき栄養が、親個体の甲殻硬化と卵の形成とに分散されてしまうのではないかといわれています。もちろん、これについては学術的な裏付けがなされていませんから、絶対的な正論か・・・となると、多少難しい部分もありますが、キーパー諸氏の繁殖データを総合する限り、この傾向はあるものだろうと考えねばなりません。
 となると、やはり重要なのが
「メス個体は、繁殖に入る前に一連の脱皮活動を完了させておく」ということでしょう。ヤビーの場合、繁殖は基本的に春から始めるので、冬越しが終わった段階でただちに脱皮をさせ、充分に外殻を硬化させてから、その上で卵数・卵質アップのために栄養をつけさせてやるようにすべきだと思います。



卵数・卵質アップのための「水温」作戦

 ただ、この際に気をつけなければならないのが「水温の上げ過ぎによる、メスの見切り産卵」です。これは、メスが産卵を我慢できなくなり、オスと交尾する前に卵を産んでしまう・・・というもので、当然ながら無精卵ですから、孵化までたどり着くことはありません。このケースは、水温が20度以上に上がってしまった時に発生しやすいといわれており、その点では、初春の水温管理が問題になってきます。
 一般的に、ヤビーは水温14度以上で繁殖が可能になるとされており、20〜22度くらいのラインが適温とされています。となると、水温管理は、水温が2ケタに入り始めるころから始め、15〜18度ラインのところまでに脱皮を済ませてしまうのがよい・・・ということになりましょう。
 本来なら、こういった動きについては、外気温に合わせて個体に任せる・・・ということが望ましいのですが、水槽という閉鎖的で不自然な環境の中では、ともするとそれさえもうまく行かないことがあります。そこで、
不安であるようならばヒーターを用いるべきでしょう。
 まず、水温が2ケタに入り始めるころを見計らってサーモを18度程度にセットします。すると、個体の餌喰いが急激に上がってきます(当然ですけど・・・)から、ここで存分な栄養を供給して下さい。そして、換水頻度を多少上げ気味にし、脱皮を促してやります。食欲が徐々に落ち、頭胸甲と腹節の間に隙間ができ始めれば、しめたものです。
 なお、基本的に、一連のこうした作業は、
すべて「単独飼育」下で実施して下さい。面倒臭がってペア状態のままにしたり、同居状態のままであったりしますと、脱皮どころか交尾が始まってしまったり、あるいは脱皮中に攻撃されたりなど、「思わぬトラブル」が発生することもあります。種親は、できるだけ万全な状態で用いることが望ましいわけですから、この部分には細心の注意を払うべきでしょう。