繁殖講座 第1講
種親を決めよう!
繁殖を始める際、その技量以上に重要なものがあります。そう、「種親の選定」です。これが不充分な状態ですと、うまくペアリングができなかったり、産卵してもうまく育たなかったりといった状況が発生するからで、ここでの「見極め」が、繁殖をする上で、最初の分かれ道・・・となりましょう。
なぜ、種親選びが重要なのか?
生き物を飼う人間たちというは、実に不思議なものでして、飼っている種類はどうであれ、妙に話が合うものです。私のよく出掛けるショップにも、様々な種の生き物を飼う人たちが「常連」として顔を出し、毎回、種のジャンルを越えた飼育談義に花を咲かせます。
ただ、その中で、繁殖のネタになった時、私が「ザリは、やっぱり種親選びがデカい」というと、けげんそうな顔をされることが少なくありません。らんちゅうやグッピー、オオクワガタでもあるまいし、ザリガニの繁殖で、何を今さら「種親選び」だ? ということのようです。確かに、観賞用として突出した部分を持つらんちゅうやグッピーほど、ザリガニの「観賞分野」は開かれていませんし、オオクワガタのように「どうしても大型化しなきゃ!」という必要性もありません。ですから、前述のような常連諸氏の考え方は、実にもっとものものだと思います。
しかし、それでも私は「ザリガニを繁殖させる際、最も重要なのは種親選びだ」と思います。これは、何も意固地になっているのではなく、マイナージャンルならではの問題があるからです。
現在、我々が目にすることのできるザリガニは、アメリカザリガニ、ニホンザリガニ、タンカイ・ウチダザリガニを除くと、すべて外産種であり、限られた業者の手による輸入個体か、ごく限られたブリーダーによる繁殖個体かに絞られます。それ自体は、他の一般的な熱帯魚と何ら変わらないのですが、問題は、その「流通量」。一般的な熱帯魚の場合、輸入量も多く、当然、数多くの地域で採取されたり、数多くの業者によってブリードされていますから、何軒かのショップから分けて購入し、組み合わせて繁殖させることで、「兄弟個体での繁殖」という、最悪のケースを避けることは容易にできます。また、多くのブリーダーが趣味的に、あるいは商業的に繁殖させていますから、そのルートからも、楽に他血統の個体を入手することができるのです。グッピーなどのように、キーパー全体が「種」としての血統を強く意識しているケースもあります。
では、ザリガニの場合はどうでしょうか? 今回、題材として取り上げるヤビーは、外産ザリの中でも、最も一般的な種です。それでも、繁殖用に別血統の個体を集めようとすると、そう簡単には行きません。いきおい、血の濃い個体同士の繁殖をせねばならず、結果として、それが失敗につながるという悪循環を招いているのです。つまり、実際に繁殖させる我々が意識しなければ、この問題を避けて通ることはできない・・・ということなのです。ですから、ザリガニにおける「種親選び」とは、「見栄えのいい個体を作ろう」「大きい個体を作ろう」などという、ある意味で「優雅」なものではなく、「何とか成功させよう」といった、悲壮かつ切実なものであると思います。らんちゅうやグッピー、オオクワガタとは違った意味で、やはり大切なものなのだと、私は考えてしまいます。
導入個体同士の繁殖
ヤビーを初めて繁殖させる場合は、オス・メスとも、どういう形であれ、他から入手した個体を使うことになります。これは、ある意味で仕方ないことではありますが、実は、現状で見る限り、この組み合わせこそが、最も危険の高い組み合わせなのです。理由は実に簡単。「血統がわからないから」ですね!
特にショップで購入してくる場合、そのショップで把握できることは、せいぜい「どこの問屋(卸ルート)から仕入れたか?」ということくらいです。本来なら、それすらもショップの「機密事項」になり得るものですから、教えてくれないのが当然ぐらいに考えねばなりません。だとすると、「ショップを変えて買ってきたから・・・」という部分も、かなり怪しいものになるはずです。すでに他の熱帯魚などを相当期間飼育され、各ショップの仕入れルートなどを把握しているキーパーの場合は、ルートの違うショップで購入するなど、多少の工夫もできましょうが、そういう情報を持ったキーパーは、そうそういるものではありませんし、問屋間での横断的個体取引という事実を考えれば、それすらも絶対に意味があることとは言い切れません。
こうなった場合、何か自衛策はないのか・・・ということになるのですが、現状では「時期とショップを変える」ということしかないでしょう。つまり、ペアのうちどちらかを早い時期に(できれば幼体の段階で)購入しておき、ある程度育てた状態になってから、別のショップで相方となる個体(成体)を購入する・・・というものです。水への「慣れ」と、「季節感覚の植えつけ」を考えれば、メス個体を先に導入して育てた方がよいと思います。
将来的にどう変わってくるかは未知数ですが、少なくても現段階で「成体ペアを買ってきて繁殖させる」という方法は、かなり苦しいものがあると考えます。やはり、マイナー外産種ならではの苦しみといったところでしょう。
さて、同じ導入個体でも、どちらか、あるいは両方が別の先輩キーパーによる繁殖個体であったりすると、話はだいぶ変わってきます。一部、Q&Aの項目でも触れてありますが、キーパーが自分の趣味でブリードしている場合、当然ながら充分な血統管理がなされています。ですから、これらの個体を購入個体と組み合わせるのもよいですし、互いに別血統の個体を分けてもらって繁殖させれば、危険性はだいぶ低くなります。
いずれにせよ、外部からの個体導入については、充分に配慮する必要がありますし、それによって、今後の繁殖作業が大いに楽しめる・・・ということになります。
導入個体の選別基準
個体をショップから購入するかどうかを問わず、他から種親を導入する際の選別基準は、基本的に「購入時の選別」に沿ったものでよいと思います。ただ、気をつけなければならないのが「成長段階を終えた、完全な成体は避けた方がよい」ということ。これは、「すぐに繁殖を」と考えているキーパーには意外な話かも知れませんが、結構重要な要素が含まれています。
他種の場合、その種によって異なってきますから、一概に言い切れるものではありませんが、少なくともヤビーで見る場合、5+近くの老成個体になりますと、その大きさに比較して産卵数が伸びてこないというケースが見られます。もちろん、順調に産卵を続ける個体もいますが、ピタッと産卵しなくなり、空撃ちばかりを繰り返す老成個体も、現在までに何個体か目にしたことがありました。そういう個体は、いわば「使い古し」のようなもので、その後の繁殖では成功しないケースが多いようです。「女房とタタミは何とやら・・・」ではありませんが、必ずしも、大きければ大きいほどよい・・・ということにはならないと考えた方が無難だと思います。
こういったケースは、メスばかりではありません。オスでも、明らかに「老成個体」であることがわかるような個体の場合、時期がきてもメスに対して仕掛けて行かないという事例を耳にしたことがあります。確かに、生後1年程度の個体では、まだまだ充分性成熟していないことがあり、成熟していても、卵数自体は少な目なのですが、これから先、回を追うごとに少しずつ増えて行くことを考えれば、導入個体は「若め」である方がよいのではないかと考えます。いずれにせよ、導入後一度くらいは自水槽で脱皮させるべきで、「連れてきてポン」的繁殖は、少々ムシのよすぎる話であるように思います。もちろん、これでも状況さえよければ繁殖するのですが、やはり繁殖に取り組む以上、長めのスパンで計画を立てたいですし、それができなければ、繁殖も「できた」とはいい切れないように思います。
さらに、これは直接関係ない場合もありますし、ヤビーよりもマロンなどで見られることの方が多いのですが、完全に繁殖できるサイズの個体の場合、時折、見るからに「繁殖に使ったばかり」の個体が売られていることがあります。いわゆる「使用後」というケースで、特に「オーストラリア便」と称される輸入個体は、それが本当であれば、現地で繁殖を終えたばかりの個体が、ちょうど日本の繁殖シーズンに入ってくることになるわけです。「連れてきてポン」がうまく行かないのは、むしろ当然かも知れません。
導入個体の場合、こういう部分に気をつけないと、「簡単なはず」の繁殖が、えらく難しくなってしまうことがあります。また、奇形ばかりが多く出て、悲しくなってしまうこともあります。最初の一歩ですから、充分な注意を払いたいところですね。