繁殖講座 補講(その1)
連続繁殖について
繁殖の経験を重ね、一つ一つの注意事項にこだわらなくともうまく行くようになると、より高度なテクニックを駆使してみたくなるものです。たいていのキーパーは、レッドクロウ、そしてマロンというように、より難しい種へと順にステップアップして行きますが、ヤビーにこだわって繁殖を続けて行く場合、試されがちなテクニックの一つが、この「連続繁殖」だと思います。この際、よく話題に上るのが「通年繁殖」や「1シーズン複数繁殖」に代表される「連続産卵」系統の技術ではないでしょうか?
通年繁殖と1シーズン複数繁殖
「通年繁殖」とは、文字通り年間を通じて何度も繁殖させることで、水温設定さえ誤らなければ、年間4〜5回を上限に、繰り返して繁殖させることが可能です。また「1シーズン複数繁殖」とは、1年のうちでも繁殖が可能なシーズン(初春から晩夏ごろ)に、同じメス個体を立て続けに使って、何度か仔を採ってしまうという方法です。これは、現実的に現地の養殖場でも行われているもので、環境をうまくコントロールすれば、3回連続くらいまでなら水槽下でも行けてしまうものです。
ただ、これらをやった場合、当然ながら、その個体には相当の負担が掛かっていると考えねばなりません。ともすると、これらは「今、連続4回目!」みたいに、自分の個体の優秀さと、自分の飼育技術を自慢するための「格好のネタ」になりがちですが、冷静に考えればわかる通り、メス親個体は、あくまでも「飼育個体」であって「稚ザリ製造機」ではないのです。養殖場のように「使うだけ使って、個体がヘタってきたら即出荷」というわけにも行きません。ですから、こうしたことが「できる・できない」という問題とは関係なく、やはり「基本的には年1回産卵」で進めるべきではないか・・・というのが、私自身の考えです。
通年繁殖を始めますと、その個体自体の寿命は大きく縮まると考えてよいでしょう。開始から約1年がたち、4〜5回目が終わって「やっと、連続スタイルの形がついてきた・・・」なんてころに、コロッと死んでしまうというケースは、実によく聞く話です。複数繁殖については、それほど急激な消耗こそないにせよ、やはり、持ちは悪くなると考えてよいのではないでしょうか?
「消極的連続繁殖」の方法
繁殖は、あくまでも稚ザリを採って行くことが目標ではありますが、ここで触れました通り、親個体のことを充分に考えてやる必要はあると思います。では「親個体を思えば、絶対に年1回産卵でないとまずいのか・・・」となると、正直、そうだと言い切れない部分があるのです。確かに、繁殖を年1回にとどめ、それ以外の期間を、じっくりと「育成」に当てれば、個体にとっては非常に有効だといえます。「基本的には年1回産卵を薦める」というのも、この理由によります。しかし、個体によっては、年2回産卵でも無理なく行けるほどの体力を持った個体もいるものですし、そういった意味での「仔離れが上手」な個体もいます。ですから、(あくまでも)無理がないようであれば、連続産卵も悪いものではない・・・ということです。要は、その「見極め」。キーパー側で、これをしっかりできるかどうかが、やはりポイントになってくるでしょう。
もし、連続産卵にチャレンジしたいと考えられている場合、ぜひともお薦めしたいのが「消極的連続繁殖」、つまり、キーパー側から積極的に仕掛けて行くのではなく、連続するかどうかの最終決定を、個体の側に任せるという考え方です。これなら、成否はすべて個体が握ることになりますから、個体の体力を超えた無理な繁殖にはならない・・・ということです。
やり方については、さほど難しい特別な技法は必要ありません。第6講において、「交尾が明らかに行われたと確認され次第、オス個体は別水槽に収容し、単独飼育へと切り替えること」としましたが、これを行わず、そのままペアでの飼育を続ければよいのです。やがて卵が孵化し、稚ザリのほとんどが独り歩きを始めた時、メス親個体に体力があれば、オス側のアプローチを受け入れ、再び産卵する・・・というものです。メス側が「不充分である」と判断した場合、オスのアプローチを拒絶しますから、当然、産卵はしません。「判断を任せる」とは、こうしたことなのです。
さて、これをする場合、最初の段階で気をつけておくことがあります。そう、一方のカギを握る「オス」についてです。
ザリガニの産卵は、基本的に、オスのアプローチなくしては始まりません。そういう意味では、「押しの強いオス」というのは、非常に重宝な、いい個体だ・・・といえましょう。しかし、裏を返すと、それだけメスを追い回し、負担を掛けることになります。そして、これがどうしようもない「絶倫系」になりますと、産卵・抱卵に関わらず、そうした素振りを見せることもあるくらいですから、「交尾が確認され次第、ただちにオスを取り出すべし」ということになるわけです。
このような状況から、メスの負担なく連続繁殖を成功させるためには、ペアを組ませるオス個体を、比較的おとなしめの個体にする方がよいでしょう。また、2回目の繁殖で、オスをチェンジすることも望ましくありません。要は、キーパー側が「あれっ? 卵持ってるぞ!」と驚くくらいでちょうどよい・・・ということなのです。