繁殖講座 補講(その3)

卵数・卵質アップ大作戦

〜前 編〜



 どうせ繁殖させるなら、できるだけ多くの個体を孵してやりたい。できるだけいい個体を孵してやりたい・・・。これは、種に限らず、すべてのキーパーの偽らざる真情でしょう。そこで、今回は、そうした部分について、前編と後編に分け、考えられる方法をまとめてみたいと思います。



個体の大きさと卵数

 一般的に、繁殖に使う親個体が大きいほど、卵数は多い・・・とされており、これ自体は決してウソではありません。しかし「ならば、大きい個体であれば、確実に多くの卵を産むのか・・・?」となると、そうも言えないようです。ヤビーの寿命は、だいたい5〜6年程度であるといわれていますが、4〜5歳の老成個体にもなりますと、パタリと産卵をやめてしまったり、産卵数が激減してしまったりする個体が時折見られます。厳密なデータではありませんが、佐倉での「飼ってみた感覚」では、繁殖に使い始めて2年目から3年目が一つのピークで、あとは徐々に下降して行くことが多いようです。
 このような意味で、
繁殖のため成体購入は、意外と注意が必要なのです。「これならいっぱい産みそうだ」という感覚から、大きさに任せて老成個体を購入すると、繁殖自体が思うに任せないこともある・・・ということも、ないとは言えません。繁殖というのは、一連の飼育作業の中でも、最も難しい部類に位置づけするのが普通です。この点を考えれば、やはり「育てた個体を使って繁殖させる」という方法こそが順当なのではないでしょうか?



卵数・卵質アップのための「餌」作戦

 卵数・卵質を上げるためには、何をおいても「存分な栄養」が不可欠です。いくら水槽の環境に気を配っても、卵の「元」になる栄養が不充分ですと、思う通りの結果には至りません。それが「卵の数が少ない」という形で出てしまうか「卵の質が悪い」という形で出てしまうかという部分については、まだ完全に確かめられていませんし、個体のよっても違いがあるだろうと思うですが、いずれにせよ、栄養不全がいい方向に向かうはずなどない・・・と考えてよいでしょう。
 さて、その内容についてですが、
餌量についての不足は論外です。個体が食べたがる分については与えておいて然るべきでしょう。他個体と同居させていたりすると、テリトリーの問題や強さの関係で、弱かったり、大人しかったりする個体には、充分に餌が行き渡らないことがあります。その点から考える限り、種親にする予定の個体については、この時期、単独飼育で持って行くことがベストであるといえましょう。
 餌種については、「個体の要求を最大限に尊重する」という意味で、
心持ち動物質寄りのローテーションを組んでやるのがいいと思います。ただ、これはあくまでも「バランスを見た上で」のことです。繁殖前だから・・・という理由で、植物質の餌を極端に減らし、ほぼ完全な「動物質餌」体制で臨むというケースを耳にしますが、本来なら、これは望ましいことではありません。どうしても反応が鈍いようであれば、残餌処理の観点からも、水草を投入しておくとよいでしょう。
 繁殖前の餌(産卵促進・卵質向上)という点で、ベテランのキーパーがよく使うのが、アサリ・カキなどといった貝類です。ザリガニの養殖文献では目にしませんが、ビタミンE成分が豊富で、成果も上々のようです。行き過ぎでない範囲で、使ってみてはいかがでしょうか?
 佐倉での場合、産卵前の個体に対しては、通常の投餌ローテーションに、これらの貝類と冷凍ブラインシュリンプ、ディスカス用ヘキサエッグ(オニテナガエビの卵)、冷凍ないしはエビなどを組み込みます。一つ一つの餌について、経験上「効果あり」と判断して使っているのですが、一つ一つの餌について栄養分を分析することができれば、より「有効」な成分が特定できると思います(アマチュアですんで、そこまではなかなかできないんですけど・・・)。
 これらの餌は、反応も良好ですし、産卵前以外にも、個体の立て直しや脱皮促進などに効果があると考えています。