繁殖講座 補講(その5)
産卵後の水換えについて
この講座では、産卵後、稚ザリが独り歩きを始めるまでの間、一貫して「換水作業は極力控えるように」というスタンスを取っています。ところが、ある児童向け書籍に「この時期は、できるだけ頻繁に水換えをするように」と書かれていることもあり、本講座終了後も、お尋ねのメールを何件かいただきました。そこで、今回は、(本編の内容と多少重複いたしますが)この部分について、掘り下げて考えてみましょう。
実は「同じこと」だった・・・。
まず、なぜこのホームページで「換水は控えるべき」とし、児童書で「換水を積極的にすべき」とするのか・・・という点ですが、この問題、両者で完全に相反するように見えて、実は全く同じ目的をもって述べられているのです。そのココロは・・・。そう、「水中の充分な溶存酸素量を維持する」という目的ですね。児童書の場合、あくまでも「エアレーションなし飼育」を前提にしていますから、酸素を補給する抜本的な方策は「水換え」だけしかありません。ですから、結果として「換水を積極的にすべき」という指示となるわけです。それに対し、本講座では、あくまでも「エアレーション設置による送気」を前提条件にしているため、酸素の補給を換水だけに依存する必要がありません。それが「換水は控えるべき」という形となったのだ・・・と、お考えいただければよいでしょう。まさしく、両者とも「全く同じ観点」での指示なのです。
水換え抑制をお薦めする理由
では、なぜ本講座でも「換水を積極的にすべき」としなかったのか? という部分が問題になってきますが、これについて御説明いたしましょう。
ザリガニのみならず、およそすべての生き物は、卵期〜幼体期が最も弱いとされています。危険からの回避能力や、免疫などによる防御能力が極めて低く、成体であれば何ともないような障害でも、いとも簡単にやられてしまうことが少なくありません。これは、ザリガニ界で「最強健種」であるといわれるアメザリでも、例外ではないのです。
こういうような現実に対し、生き物たちは手をこまねいているわけではなく、親が積極的に保護したり、あるいは数多くの卵を生んで減耗分をフォローしたり・・・という方策をとることで、その被害を最小限に食い止めています。ザリガニの場合も、卵期〜幼体期の間は、送気したりクリーニングしたりと、親が甲斐甲斐しく世話をします。たいていのケースであれば、こうした親の保護によってクリアできると考えてよいでしょう。
しかし、水槽飼育などの場合、親がいくら頑張ってもクリアできない問題があります。それが、今回の主題となる「水質や水温の急変」なのです。自然下であれば、こうしたケースに遭遇した場合、親が自ら移動して行くことによって「卵に不適当な水環境」から逃れることは可能ですが、水槽ですと、そうは行きません。となると、どうしてもそのダメージが直接「卵」に行ってしまうわけです。先ほど述べました通り、成体では何ともない変化でも、卵には大きな障害になる場合があるもので、それが「換水したら、卵が落ちてしまった」という事例に結びつくのでしょう。換水には、どうしてもこうした危険性がつきまといますし、避けられる障害は避けた方が賢明ではないか・・・と思うのです。本講座で「換水は控えるべき」とした最大の理由は、ここにあります。
多少くどくなりますが、「換水を積極的にすべき」か「換水は控えるべき」かは、いずれも「水中の充分な溶存酸素量を維持する」ことが目的です。溶存酸素量の問題は、エアレーションによって簡単に解決するわけですから、卵に対する負担について総合的に考えた際、どちらが安全か・・・については、もはや申し上げるまでもありません。
見方を変えれば、この2つの方法、エアレーションで換水を抑えながら飼育して行くよりも、ガンガン換水しながら卵にダメージなく飼育して行く方がはるかに難しいわけで、これを難なくクリアできるようにするためには、水に対する的確な見極めと、高度な技術が必要だ・・・ということになりましょう。
なお、換水を控えた場合に出る支障として「水質の悪化」という問題があります。これについては、本編でも繰り返し触れていますが、充分な注意が必要です。一般的に抱卵中は親個体の食欲も落ちてくるものですが、それでも、時間が経てば水は確実に傷んでくるものですから、かなり余裕のある濾過セットをし、水質面でも卵に負担を掛けないようにしてやりましょう。