繁殖講座 補講(その4)

稚ザリ期の共食いは

避けられないものなのか?



 「せっかく孵化させたので、1匹残らず育てたいのですが、何かいい方法は?」というメールを、よくいただきます。つまり「稚ザリ期の共食いを完全になくす方法」ということ・・・。ここでは、この部分について、少し突っ込んで考えてみましょう。



稚ザリ期の共食いは「必然」

 何とか全部の稚ザリを育て上げたい・・・という気持ちは、私にもよくわかりますし、特に初めて繁殖を成功させた時など、誰しもが思うはずだと思います。ところが、実際にそれが現実的であるか・・・となると、必ずしもそうであるとは言い切れません。
 左のちょっと不鮮明な写真は、キーパーのみなさんなら目を背けたくなるものですが、
生後2カ月前後の稚ザリが、同居の兄弟個体を襲って、食べている瞬間を捕らえたものです。襲う方も、さすがに1匹で丸ごとは食べられませんから、無念にも襲われてしまった個体は、その後何匹もの兄弟個体の「栄養」となります。
 「共食い」の項目でも触れてあります通り、兄弟個体の共食いというのは、他個体同士のそれよりも少ない・・・といわれています。しかし、現実的には、充分な投餌をしていても、こうして発生してしまうものであり、それを「理不尽」だとは言えません。自然界では、投餌をしてくれる人間さえいない上に、虎視眈々と稚ザリを狙う外敵がウジャウジャいるわけで、
共食い以上の捕食圧が待っているわけです。こうして生まれた稚ザリたちのうち、無事に成長して繁殖に参加できるのは、3匹いない・・・とさえ言われています。
 そういう意味では、親ザリガニも、そうした減耗個体分を見越して産卵しているわけで、飼育水槽内では、「外敵がいない分だけ幸せ」な環境である・・・ということができましょう。第8講の終わりでも触れましたが、稚ザリ期の共食いは「必然」なのです。



「それでも避けたい」と思うのなら・・・

 それでも、「何とかしたい・・・」というのは、キーパーの偽らざる真情でしょう。元々不自然な環境なのですから、とことんまで「不自然を極める」というのも、悪くない話です。ただ、すべての稚ザリを共食いから守るためには、当然ながら個体数分の水槽か、もしくはパーテーション・システムが必要になります。事実、現地の養殖施設では、種苗生産段階用に、細かなパーテーション・システムを装備したタタキ池が設置されているものですから・・・。ただ、我々アマチュアレベルでは、さすがに無理がありましょう。
 となると、気をつけるべきは、
様々な観点で「これ」と見極めた個体のみを、早めに隔離することと、充分な餌を与えることの2点に集約されます。多少コツもつかめてくれば、強制脱皮によって、個体の脱皮周期を揃えてやるという方法もありますが、仮にこれができたとしても、すべての個体をコントロールすることは、事実上不可能です。
 また、与える餌についても、多少動物質寄りの餌でもって、早めに大きくしてしまう・・・という方法もあるのですが、行き過ぎは禁物・・・です。確かに成長スピードは上がりますが、後々で障害が出るようでは、どうしようもありません。
 どうしても共食いが減らない時に、一部のキーパーが「裏ワザ」的にとる方法が「身代わり餌」といって、餌バリエーションにクリルや冷凍エビ類などを加えてやるという方法です。もちろん、学術的に裏付けられた方法ではありませんが、栄養学的には一つの「ベストな餌質」であり、これによる問題もほとんど出ませんので、「共食い防止」という意味では気休め程度かも知れませんが、使ってみて損はありません。