深迷怪ザリガニ事典・ら行



らくらん(落卵)
産卵後、抱卵中の卵が次々と落ちて行く現象。主として無精卵(無交尾繁殖)に起因するもので、産卵後5〜7日程度ですべて落ちてしまうことが多い。また、一部のチェラックス系諸種の場合、卵がメス親の腹肢にしっかりと付くまでには多少の時間を要することから、産卵直後にメス親を驚かしたりすると、一気に卵をばらまいてしまうことがある。基本的に、落ちた卵は孵化できないと考えてよい。


りくち(陸地)
ザリ飼育において、最も誤解されている部分の1つ。児童向け飼育マニュアルなどでは「陸地が必要」などと書かれることが多いが、ザリガニは基本的にエラ呼吸なので、しっかりとしたエアレーションさえできていれば、陸地など必要ではないのだ。しかも、直接呼吸は、ザリから見ると「非常手段」であり、これに依存した飼育態勢では、もとより長期飼育など望むべくもない。


りゅうすいしいく(流水飼育)
飼育水を濾過循環させる方法ではなく、常に新しい水を注入し、古い水を廃棄して行く飼育方法。河川や湖沼など、常に新しい自然水を導入できる場所であれば実現可能であるが、通常のシステムであれば、まず不可能といってよい。冷水系や上流棲息系諸種を飼育しているキーパーにとっては、究極の夢であろう。


りゅうぼく(流木)
倒木や沈木などが河岸や海岸などに流れ着いたもの。熱帯魚趣味界では、いわゆる「装飾アイテム」であるが、ザリガニ飼育のジャンルでは「シェルター(隠れ家)」として使うことが多く、個体によっては「代用餌」にもなり得る重要なアイテム。このため、形状はもちろん、素材にも注意して選ぶキーパーが多い。最も適している素材がマングローブ・ルーツ(マングローブの根)で、サバンナ・ウッドのような白木系の素材は適さないとされている。


りりーす(リリース)
孵化した稚ザリが何度かの脱皮を経て、親の腹肢を離れ、独自行動を始めること。キーパー間では、このことを「独り歩き」という言葉で表現することが多い。同じ現象を、親側から見ればリリース、稚ザリ側から見れば「独り歩き開始」ということにでもなろうか。
一般的に、すべての稚ザリが一斉にそうした動きを見せるのではなく、孵化後しばらく経過してから、徐々にこういう個体が見え始め、数が増えて行くのが普通で、独り歩きを始めた稚ザリも、しばらくの間は親ザリの周囲で出たり入ったりを繰り返しながら、少しずつ独り立ちして行くことが多い。当然、孵化後の稚ザリの中にも成長格差があり、数匹の稚ザリの独り歩きが確認されたからといって、親の腹節内にいるすべての個体がリリース可能な状態にあるとは言えない部分がある。キーパー冥利に尽きる非常に微笑ましい光景で、いつまでも眺めていたい気分にはなるだろうが、親ザリ、稚ザリとも、この時期は非常にセンシティブな状態なので、抱卵期にも増して落ち着いた環境を用意しておくことが望ましいといえる。
なお、飼育を趣味で語る上では大した問題でないが、まれに一部のキーパーから聞かれる同義の言葉のうち「ハッチアウト=hatch out」は、本来「独り歩き開始」ではなく「孵化」そのものを意味する言葉である(その他、孵化には「hatch」「hatching」、人工的に、特に温めて孵化させる場合などには「incubate」などの言葉も用いられる)ので、厳密に言えば、ここでの「ハッチアウト」は完全な誤用となる。仲間内での雑談レベルなら問題もないだろうが、元々意味が違っていることに加え、海外文献を精読し、その内容を吟味していたり、あるいは海外の研究者と情報交換などをする際、場合によっては内容に齟齬が生じたり、全然話が噛み合わなくなる可能性もゼロではないので、注意が必要だ。言語的な検証を充分せず、単純に音韻とイメージだけで使うようになったのだろうと思われるが、どうしても横文字で呼びたいのであれば「リリース」の方が誤解も起こりづらいのは明白であろう。使っているキーパーはごく一部なので、特に大きな問題はないが、単純な誤用のみならず、言葉自体に元々混乱する可能性を包含しているということを考えれば、無理して誤った使う必要もないであろう。


ろぶすたー(ロブスター)
ザリガニがショップで販売される時に、どういうわけか付けられてしまう、お決まりの名称。本来「ロブスター」というのは、主として大西洋に棲息するウミザリガニ(オマール)、太平洋に棲息するイセエビを指す(イセエビは、特に「スパイニーロブスター」という場合もある)ので、ザリガニに対して付けるべき名称ではない。なお、ショップで売られる際には、エレクトリック・ブルーロブスターや、パール・ロブスターなど、「個体の体色+ロブスター」という形の命名パターンがほとんどなので、名前だけだと、そのザリガニの「素性」はつかめないことが多い。



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