深迷怪ザリガニ事典・た行
だいいちせいちょうこたいぐん(第一成長個体群)
繁殖時に採れる稚ザリたちには、独り歩き開始1ヶ月経過後あたりから、徐々に成長するスピードに格差が出てくるが、その際において最も早く大きくなる個体たちのこと。青系個体作出目的以外の選り抜きでは、この中から種親候補を選ぶこともある。ある意味「強さ」と「運」を持った個体群ではあるが、高温飼育や促成飼育などを含め、稚ザリにとって好ましくない環境で長期間飼育された場合、将来的に最もフーセン個体の出てしまう危険性が高いグループであることも事実で、近年、ヤビーなどでは、そうした形で選別・育成されたと思われる成体の突然死事例も相次いで報告されている。「第一成長個体群=種親候補として優秀な稚ザリ」という認識がなされることも多いが、資質が高くても、育て方が粗悪であれば優秀な個体にならないのと同じく、目的に沿った慎重な育成と選別ができなければ、むしろ危険性が極めて高いグループでもある。この言葉を使い始めた人間が言っているのだから、ある意味、間違いはない(苦笑)。
だっそう(脱走)
個体が水槽から逃げ出すこと。発見が遅れると死んでしまう。飼育個体の死因第1位に挙げてもよいほどの「事故」であり、仲間のキーパーには恥ずかしくて言えないものであるが、ある程度の経験を積んだキーパーなら、多かれ少なかれ1度は経験している。水槽から個体が消えて数週間後、思わぬところから「天然ミイラ」として発見されると、たいていのキーパーは、恐ろしいくらいの虚脱感に苛まれるものだ。
だっぴ(脱皮)
ザリガニの最も一般的な成長手段。種によって、あるいは年齢によって頻度は異なるが、基本的には年1〜2回、定期的に行い、新しい甲殻に変わって行く。環境の激変・欠損箇所の発生などにより、イレギュラーな脱皮を行うこともある。ここで失敗すると圧倒的な確率で死に至るため、キーパーが最も気をつかう部分でもある。
ちざりねっと(稚ザリネット)
繁殖時などに、水槽内の底面積を確保し、稚ザリ同士のトラブルを回避するために使われる、最も手軽で頻繁に行われる方法。「ネット」という言い方をするが、一般的にはテトラ社の「エーハイメック」などに代表される繊維状濾材などを用いるのが主流。充分に洗った後にしっかりとほぐし、適当な大きさに丸めて投入するが、単に投入するだけでは、水の循環に合わせて水槽内をグルグル回ってしまい、効果をなさないこともあるので、投入の段階で流木やシェルターなどにしっかりと引っかけておく必要がある。なお、濾過用ウールマットなど、目の細かいものは不適。
つのこたい(ツノ個体)
連続的近親交配によって発生する奇形個体の一種。また、弱化個体全般を指して「ツノ」と言うこともある。額角部(目の周辺部)が異常に肥大化し、ギリシア神話に出てくる「一角獣」のような姿形になる。輸入個体では見られないが、国内で無計画な繁殖が続く白ザリやヤビーなどで時折見られ、数年前には、それを「スペシャルなもの」として販売したショップがあって、キーパーの大ヒンシュクを買ったことがあった。あくまでも「障害」であり、それも相当重度なものであるため、成長する前に死んでしまうことが多く、繁殖もできないと考えた方がよい。
てぃーすぺーす(Tスペース)
個体が順調な脱皮を行うために必要とされるスペースのこと。個体の全長(ここでは一般的なTLではなく、ハサミの先端までの長さを指す)を縦軸・横軸とし、頭胸甲と腹節の境界線を交点とした直角T字形に導き出す。個体が頭胸甲と腹節の隙間から抜け出て、ハサミまで完全に抜けきるためには、最低でもこのエリア内に障害物がないことが望ましく、個体の大きさに合わせてその大きさの「更地」を用意してやるのが飼育上の原則である。気をつけなければいけないのは、複数飼育の場合「水槽内1箇所」ではなく、収容個体数分だけ用意することであろう。この言葉は、JCCメンバーであるなしを問わず、比較的古くから使われていたが、脱皮段階だけでしか使われない「季節的な言葉」なので、いきなり「Tスペース」といわれても、ピンと来ない人は意外と多い。その昔、ショップでこの話をしていた時に、うっかり「Tゾーンは大切、Tゾーンは大切」と言い間違えを連発して、バイトの女の子にしばらく嫌われた男がいる。シカトされると寂しいし、デリカシーがないとか思われると悲しいので、充分気をつけてくれぐれも間違えないこと! 悪気がないだけに痛い失敗だぞぉ。いやマジで。
とける(溶ける=「とろける」とも)
繁殖直後の稚ザリが次々と死んで行くこと。甲殻が完全にできあがっていないので、本当に「溶ける」ような死に方に見えたことから来た言葉らしいが、真相は不明。それだけ古くから使われてきた言葉である。
(用例)「こないだ抱いてた白ザリの卵はどうしたの?」
「孵化はしたんだけど、すぐに溶けちゃったよ」
とげしんこう(トゲ信仰)
個体の善し悪しに関するすべてを、トゲ(スパイン)の出方によってのみ考えるキーパーのグループ、またはその考え方。価値判断基準として排斥するものではなく、ザリガニの「らしさ」を語る点では重要な要素に違いないが、一部地域では、これを理由にタンカイザリガニが高価に流通したりする誤った認識もされやすい。タンカイ・ウチダザリガニの場合、最近では、むしろウチダザリガニの方が、スパインの発達した個体を多く見掛けるようだ。
としま(年増)
すでに繁殖活動を何度か経験しているメス個体の異称。こうした個体の場合、多少気の強いオス個体や、繁殖初経験のオス個体とも上手くペアリングできることが多いので、繁殖経験の浅いキーパーには重宝がられている。一般的にはあまりいい響きではない言葉だが、決して否定的な意味で使われているわけでもなく、また、老成個体を指す言葉でもない。自分の飼育しているメス個体を、上手に「年増」へと育て上げることこそが、繁殖系キーパーにとっては絶対条件。
とばす(飛ばす)
餌抜きをすること。「餌飛ばし」(えとばし、えさとばし)とも言う。
・・・「餌抜き」の項を御参照下さい。
ともぐい(共食い)
飼育個体が、同居個体を襲い、食べてしまうこと。特に稚ザリ期には頻発し、単独飼育をする以外には根本的解決手段を持たない。普通の飼育では、できるだけ発生しないような努力が続けられるものだが、累代繁殖を主目的にするキーパーの中には、強い個体を得るために、あえて稚ザリの間の共食いを抑制せず、自然淘汰に任せた個体選別をする場合もある。見た目がグロテスクなため、非常に野蛮で酷いことのように感じるが、実はフツーの現象であり、さして驚くべきものでもない。高等とされる人間が、言葉や暴力で互いを傷つけ合う方が、よほど野蛮かも・・・(苦笑)。
さ行のページへ戻る 事典の目次へ戻る な行のページへ進む