深迷怪ザリガニ事典・さ行



さいくりっく・でぃもーふぃずむ(サイクリック・ディモーフィズム)
・・・「性的二形成」の項を御参照下さい。


ざり・これ(ザリ・コレ=「ザリガニ・コレクション」の略)
「フィッシュマガジン」誌の平成10年8月号で取り上げられたザリガニの小特集。JCCからは、西村氏が執筆を担当する。キャンバリダエ科の未詳ザリを大幅に取り入れた(これは、西村氏の意向ではなく、編集部の方針)ため、かなりの個体写真が「学名不詳」扱いとなる。ユーアスタクス属の諸種が大々的に載せられたため、一時的な「トゲザリ旋風」が起こった。


さんごすな(サンゴ砂)
pHが上がりすぎるため、ザリ飼育ではほとんど使われない底材。低pH水地域では「隠し味」的に少量混ぜる場合もあるが、青系のザリを飼う時に底砂として使った場合、体色が褪せてしまうこともあるので、いずれにせよ敬遠されることが多い。脱皮時期には、濾材として入れるキーパーもいる。


さんぷる(サンプル=sample)
一般的には「見本」「標本」などを意味する言葉だが、ザリガニ飼育界(を含む、マイナー魚種分野)では、メジャー魚種の輸入に併せ、過去に輸入実績のない珍しい個体を、少数輸入して反応を見ること、またはそうした意図で輸入された個体を指す。流通量が極めて少ない上に、総じて個体価格も高いので、大半は「新種ハンター」的なキーパーに渡ってしまい、広く出回ることはない。雑誌などの新着紹介で取り上げられるケースもあるが、一部のキーパーの間だけでアングラ的に盛り上がるケースも多いようだ。
いずれの場合でも、キーパー間で高い評価を得られれば、アッという間にオーダーが殺到するので、数カ月後程度には本格的に輸入されるようになるが、反応が悪ければ、二度と輸入されることはなくなる・・・というシビアな面を持つ(何年か経ってから、突然人気がブレイクするケースもある・・・が)。業界におけるリスク回避のための「観測気球」的な方法の1つといえるかも知れない。
なお、こうした形で輸入された個体の場合、価格だけでなく、コンディション的にも厳しい個体が多いので、せっかく導入しても、短期間のうちに死んでしまって、ガッカリするケースもよく聞かれる。確かに、誰よりも早く珍しい種をゲットしたいという気持ちもわからなくはないが、極めて限られた情報を下に、個体のストック方法や対処方法などを類推し、即座に調整できるだけの知識や経験などを持つベテランキーパー以外には、あまりお薦めできない部分もあるのが実情だ。どの種でも、飼育のしやすさは、コンスタントに輸入されるようになってからの個体の方が断然いいものである。


じさつ(自殺)
飼育中の個体が、突然自分の胸脚を自切し始め、最後は丸坊主になって死んでしまうこと。最近ではほとんど聞かれなくなったが、マロンなどでは、実によく聞かれた事例の1つであった。詳しい原因はわかっていないが、水質など、何らかの過酷な環境下で飼育したためであろうと言われている。


じせつ(自切)
ザリガニが、喧嘩の時などに、自らの胸脚を切り離して逃げるという緊急退避行動。欠損した箇所については徐々に再生してくるが、大型個体の場合は、二度と再生しないこともある。緊急時でもないのに自切することもあるが、こういう場合は、バーンスポットを始めとした病気の感染や、水質異常などを疑う必要がある。


じせつめん(自切面)
ザリガニが自切する際、体液流出などといった障害が起こらないよう、あらかじめ準備されている切断面のこと。胸脚の場合、基部にあるケースがほとんどで、緊急時になると、ザリガニはこの部分から切り離して退避する。外部から観察する限り、自切面は、単に薄い皮膜であるとしか思えないが、体液の流出を防ぐだけではなく、新たな再生肢の「土台」としての重要な役割を担う大切なものだといってよい。外殻に比べてデリケートであるため、水質の悪化によってバーンスポットが発生しやすいので、注意が必要。
ザリガニは、この自切面のあるおかげで体液の流出を防ぐことができるが、それ以外の場所から切れた場合、体液が流出してしまうので、最悪の場合は死に至ることもある。自切行為自体はよく知られているが、決して「どこから切り離しても大丈夫」というわけではないことを理解しておかねばならない。


しっこん(湿梱)
ザリガニの輸送方法の1つ。水とともに酸素パッキングをして運ぶのではなく、湿らせた新聞紙やオガ屑、メッシュシートなどで個体をくるんで梱包する方法。ザリガニは、エラが湿っている間は呼吸することが可能なので、短時間の輸送であれば水がなくとも持ちこたえることができる。非常に手軽であり、かつ原始的な方法であるためか、一部のキーパーからはバカにされることも多いが、この方法には、パッキングによる水質急変に起因する様々な障害を避けることができる・・・という絶大な利点もある。水依存度の高い種には向かないが、一部の種では輸入の段階でこの方法を用いているものも多く、輸入時の輸送方法をこの方式に切り替えてから、状態がかなり安定するようになった種もあるくらいだ。食用流通の現場でも、実はこの方式が主流。


じゅせいのう(受精嚢)
メスが有している、交接終了後、オスから受け取った精包を産卵までの間に貯蔵しておく器官。環形をしているので「環状体」とも呼ばれる。パラスタシダエ科やアスタシダエ科の諸種ではあまり高度に発達していないため、交接時にオスから受け取った精包を、そのまま外側にくっつけているようにしか見えないが、キャンバリダエ科諸種の場合は比較的高度に発達しており、受け取った精包は受精嚢の中に収容してしまうため、交接の有無は他科諸種と比較すると確認しづらいことが多い。なお「貯精嚢(ちょせいのう)」と誤用されることが多いが、これはオスが交接までの間、精包を貯めておく器官のことを指すので、まったくの別物。


しょうどく(消毒)
ザリ仲間同士で酒を酌み交わすこと。またはその「飲み会」。一般的に、アルコールの消毒作用に由来するもので、麻雀を誘う時に「中国語の勉強しようぜ」というものと同様の使い回しをする。ザリネタ100%の飲み会になるので、参加するキーパーにとっては実り多きものだが、周囲から見ると、かなり異質(であることは想像に難くない)。


しょきしりょう(初期飼料)
孵化した稚ザリが独り歩きを始めてから2〜3カ月、体長2センチ程度に育つまでの期間に与えられる飼料の総称。成体と同じ餌でも大きな問題は発生しないが、高密度の飼育環境が避けられないことや、脱皮頻度が高いなどといった理由から、通常の餌とは異なり、独自の餌選定をするキーパーが多い。フレーク系配合飼料など、この時期にしか使えない餌種もあるので、注意が必要。この時期での餌供給体制失敗は、共食いや成長格差の発生など、残存率が落ちる大きな要因となるため、どのキーパーも苦心している。


しょくようのりかえこたい(食用乗り換え個体)
オーストラリアから「食用」として欧米へ輸出された個体が、欧米で「観賞用」ルートに乗り換え、日本に再輸出されること。欧米で観賞用に養殖して出荷するよりも遥かに安いため、いわゆる「アダルトサイズ」と称される個体の多くは、こうした形で調達され、日本に送られることが多い。もっとも、このことは日本のショップや問屋の段階では掌握できる状態でないので、ショップにいる個体を指して「これって乗り換え?」などという「知った口」は叩かないように!(叩いたとしても、会話が成立しないと思う・・・けど)


しょっぷめぐり(ショップ巡り)
キーパーが一人で、あるいは連れだってショップを巡ること。通常は、休日などに半日、または丸一日かけて4〜5軒のショップをハシゴすることが多い。ザリの場合、1つの店舗での在庫数が少なく、さらには「馴染みのショップ」を持ったキーパーが多いので、ほとんどの場合「見るだけ(=ウインドウ・ショッピング)」であることが多く、ショップからすれば迷惑千万な行為。ショップごとに同じ質問をして、店員のコメントの違いを楽しむようになると、ほとんど「嫌がらせ」に近い行為となる。キーパーたるもの、クリーンにスマートに回りたいものデス。


じんこうしりょう(人工飼料)
・・・「配合飼料」の項を御参照下さい。


しんちゃく(新着)
過去、輸入されたことのないザリガニが日本へ入ってくること。または、そのザリガニ。一旦情報が流れると、キーパーたちが色めくが、実際に期待通りの種類であるのは5〜6回に1回がいいところか? どのキーパーも、こうした新着情報を一生懸命追い回す時期があるものの、痛い思いを繰り返し、自分のメイン飼育種が決まってくると、自然と 熱が冷めてくるのが普通。種の分類を得意とするメンバーの元に問い合わせが殺到するため、こうしたメンバーにとっては「受難の時期」でもある。


すあな(巣穴)
自然下で棲息しているザリが、越冬・退避・繁殖などのスペースとして掘るもの。種によって掘穴性の高いものとそうでないものとがおり、強いものになると、1メートル以上の巣穴を掘る種も多い。こうした傾向は、種の違いのみならず、個体の成長度合いも関係してくるもので、同じ種であっても、稚ザリの期間は巣穴を掘らずに越冬したりするケースもあるようだ。なお、飼育下において同等の巣穴を掘れる環境を用意するのはかなり困難だが、代わりのシェルターなどを用意しておくことで、当面の飼育は可能であるとされている。


すいしつちょうせいざい(水質調整剤)
熱帯魚飼育用に多数販売されている薬剤のうち、主として水質調整・維持を目的にした薬剤の総称。少しでもいい水を提供するために、様々な調整剤を添加することもあるが、ザリの場合、薬剤系統に対し極端に弱い部分があるので、かえって逆効果になる可能性も少なくない。一般的に、テトラ社の「アクアセイフ」が最も強い支持を得ているが、その他の薬剤に関しては、キーパーそれぞれの意見に大きな違いがあるようだ。


すとれすへんしょく(ストレス変色)
主として脱皮直後の段階で、追い回しや急な環境変化など、非常に高いストレスを個体に与えた場合に起こり得るとされる体色変化。科学的な裏打ちはないが、アメザリの青化やヤビーの茶変など、いくつかの事例報告がある。甲殻の不硬化を併発することも多く、コンディションとしては極めて好ましくない。この場合、環境などが落ち着いても体色自体は変化しないことが多いため、青化事例などの場合には喜んでしまうキーパーも多いようだが、個体にとって健康的な変化でないことには間違いなく、また、次の脱皮などでは元の色に戻ることも多いので、むしろ、こういう状況を作ってしまった飼育体制の不備を恥じるべきであろう。


すりきれこたい(擦り切れ個体)
輸入されるマロンの大型成体に多く見られる、繁殖使用済み個体のこと。明らかに現地または輸出国のストック場で繁殖に用いられた形跡のあるもので、すでに繁殖機能(能力)が低下していることが多い。マロンの場合、オスの第5胸脚基部にある生殖器が擦り切れていることが多いことから、この名前がついた。実際、充分性成熟しているサイズなのに全く繁殖してくれないケースなどは、これが原因であることが多いようだ。そういう意味でも、「育てた上で繁殖させる」という方法が一番安全かつ確実なものであろう。


せいち(整地)
・・・「ブルドージング」の項を御参照下さい。


せいてきにけいせい(性的二形成)
主として北アメリカに棲息するキャンバリダエ科のザリ(日本における飼育種ではアメリカザリガニ・フロリダブルーなど)が性的に成熟すると起こる現象で、脱皮によって繁殖できる時期(「フォーム1」という)と繁殖できない時期(「フォーム2」という)を交互に繰り返すという現象。自然下においては、繁殖時期前の脱皮(アメザリの場合だと春)でフォーム1となり、繁殖後の脱皮(アメザリの場合だと秋)でフォーム2になるのが普通だが、水槽で飼育していると、人工的な環境の影響で季節感覚が鈍ってしまう場合があるので、時期に関係なくバラバラに存在することがある。ペアリングの際にフォーム2であった場合は、メスが性成熟していたとしても、当然ながら繁殖に至らない。
 なお、ニホンザリガニを始めとしたキャンバロイデス属諸種は、分類学上、現段階ではキャンバリダエ科に割り振られているが、性成熟後のフォーム変換は起こらない。


せいほう(精包)
ザリガニのオス個体が交尾によってメス個体に渡す精子。繁殖活動はすべて水中で行うため、精子を保護する必要から、薄い膜のようなもので包まれているので、こう呼ばれる。キャンバリダエ科諸種は、受け取った精包を環状体内に収容するが、パラスタシダエ科及びアスタシダエ科諸種は、そのまま第3胸脚基部に付着させて行動するので、交尾の有無は比較的確認しやすい。なお、性的二形成の項と同様、ニホンザリガニを始めとしたキャンバロイデス属諸種は、分類学上、現段階ではキャンバリダエ科に割り振られており、体構造上は環状体に近いものが存在しているものの、交接後の精包は外部から確認できる状態になっている。受精はいずれの科もメスの体内では行わず、産卵直後に卵とミキシングさせる方式をとっている。


ぜんかん(全換=「全換水」)
・・・「丸洗い」の項を御参照下さい。


せんじゅうこうか(先住効果)
ザリガニに限らず、生活におけるテリトリー(縄張り)を持って生活している生物が、同じテリトリーを巡って争う際、傾向的に見て、先にそのテリトリーを占有している個体の方が有利であることが多いという現象。「先住有利の原則」ともいう。もちろん、侵入する側の個体が極端に大きいなど、個体の大きさが根本的に異なっていたり、あるいは種の違いなどにより、互いの活動能力に格差が見られる場合には、この原則が当てはまらない場合もあるが、同種であれば、先住個体に対して侵入する側がサイズ的に多少大きい状況であっても、この原則通りの結果となることも多い。保全などの研究では、侵入異種(圧倒的に外来種である場合が多い)と先住種との間での占有権や勢力構成、あるいは置き換わりの有無に関し、この要素が検証されるが、一般的な飼育においては、この現象を上手に活用した繁殖が行なわれている。



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