深迷怪ザリガニ事典・か行
かいすいこんわ(海水混和)
ザリガニのコンディション維持、または改善の目的で、飼育水に海水を混和させるという飼育技法。塩水ではなく海水であるという点がポイントで、海水中に含まれる塩(塩化ナトリウム)以外の何らかの成分が効果を発揮しているようであるが、それが何であるかは未だ突き止められていない。塩分自体は、ザリにとって「含まれない方がよい物質」とされているので、投入量を誤ると、かえって重篤な障害を引き起こすことがある。根本的には「非常用の手段」であるが、一部のキーパーの間では、個体コンディション維持のために常時投入をしているケースが見受けられる。
かじょうさいせいたい(過剰再生体)
ザリガニのみならず、ひろく水棲甲殻類によく見られる現象で、甲殻上にできた傷などをきっかけに、通常の形とは異なる再生が始まり、それが脱皮を経て徐々に肥大化して行くもの。先天的な理由による”奇形”とは、その根本的性質を異とする。その過程において節を形成したり、さらには脚部に発生した場合、先端に鋏脚などが形成されたりするため、アクアリストからすると「新たに脚が1本、生えてきた」などと大騒ぎになることもある。
かぷせるきゅうじほう(カプセル給餌法)
大型魚や爬虫類などの世界では古くから使われている投餌テクニックの1つで、偏食傾向の高い個体のバランスよい栄養供給を目指すため、餌として与える「生き餌」に対し、事前に別の餌を食べさせた上で投入するという方法。これにより、不足しがちな栄養素でも、間接的な形で供給することが可能となる。ザリガニの場合、植物質の餌を全く受け付けない個体に対して、植物性飼料を充分に食べさせた直後の餌メダカや餌金
を与える・・・というパターンが多い。ただ、ザリガニでこういうことが起こる場合、餌自体の与え過ぎや、動物性飼料のみの給餌など、何らかの「贅沢状態」になっているケースが多く、わざわざこうした「面倒なテク」に頼らなくとも、1週間程度の餌抜きで即座に解決することもある。面倒見がいいのは決して悪いことではないが、愛情も過ぎれば害になるもので、もう一度、その個体が「偏食」傾向を示すに至った原因を分析することも必要であろう。
からうち(空撃ち)
・・・「無精産卵」の項を御参照下さい。
かりばん(刈り番)
年に何度か収穫できる植物の場合に使う、その年に刈り取った順番(回数)のこと。そのシーズン最初の刈り取りで収穫した草を「一番刈り」、その次の回の収穫を「二番刈り」などという形で用いる。ザリガニ飼育に直接関係するワケではないが、飼料に用いるアルファルファにせよティモシーにせよ、一般的に刈り番の早い草の方が栄養価が高く、反面、刈り番が遅くなるほど素材が柔らかくなる傾向が見られるので、ウサギ向けなどの高級飼料の中には、そうした部分まで配慮した商品もある。ザリガニを飼育する上でこうした飼料をローテーションに組み込む場合も少なくないが、もし選択できる状態であれば、基本的には一番刈りを始めとした刈り番の早い方の商品を選ぶのがよいとされている。なお、この項目とは直接関係ないが、ウサギ向け高級飼料の中には、水に溶けるとザリガニに対して好ましくない影響を与える機能性成分が配合されていることもあるので、高級の餌だから・・・というのは、必ずしもザリガニにとっても好適であることを意味するワケではないことを踏まえておきたい。
かりふらわー(カリフラワー)
欠損箇所から再生を始めて間もない再生肢のこと。語源は読んで字の如く、その形状に由来する。一部のキーパーが使い始め、徐々に浸透してきた。一度脱皮しないと脚としての機能は成さないため、単純に「生えてきた」状態だけでは何の意味もなく、脱皮などで再び元に戻ってしまうこともあるので喜ぶには程遠い状態には違いないが、とにかくこれを見つけた時には、えもいわれぬ嬉しさに酔いしれてしまうキーパーも多い(らしい)。再生は絶望的だとあきらめていた老成個体の基部からカリフラワーが出てきた時などは、まさに感動的! ただ、老成個体の場合は、圧倒的に次の脱皮で消えてなくなることが多く、その時の落胆ぶりもまた感動的(苦笑)。
かんすい(換水)
・・・「水換え」の項を御参照下さい。
がんぺい(眼柄)
ザリガニの眼を支える「柄」にあたる部分。エビ・カニ類などの多くはこれを持つ。脱皮周期などを司る重要な器官がここにあるため、この部分を切除すると、個体は季節に合わせた脱皮が効かなくなり、際限なく脱皮を繰り返してしまう可能性がある。胸脚などとは異なり、この部分に再生機能はない。このため「喧嘩などによって片眼になってしまった個体が、何度も何度も脱皮するようになった」という事例に対し、「個体が脱皮によって再生を急いでいるため」という見解は誤りであり、むしろ「この部分がなくなってしまったことで、脱皮周期をコントロールできなくなってしまった」という可能性の方が高いであろう。
エビ養殖の世界では、この現象に着目し、眼柄部を摘出することで成長スピードを上げるという方法があるらしいが、当然「両眼のない個体」になるため、観賞用個体に対しては不向き。それより何より、研究目的でもないのに、平然と「個体の両眼をくり抜ける」キーパーがいるとしたら、そちらの方が恐ろしい(苦笑)はずだ。
きずもの(傷物)
ショップなどでディスカウント(値引き販売)される個体の総称。気をつかうショップでは、触覚欠損でもそのような扱いを受けることがあるが、たいていの場合は第1胸脚の片側、または両側の欠損個体がこれに当てはまる。成体(大型個体)の場合は避けた方が無難だが、幼体や成長途上の個体の場合、欠損箇所(自切面)にバーンスポットが発生していないようであれば、実にお買い得な個体だといえる。しっかり値引き交渉をして、あとは自分の手でしっかり再生させてあげましょうね(笑)。
きゃんばりだえか(キャンバリダエ科=カンバリダエ科)
ザリガニ分類上の1科で、日本語で訳すと「アメリカザリガニ科」ということになる。主にアメリカ東・中南部のザリガニがこれに属し、ザリガニの科グループ3つのうちでは最大。何といってもアメリカザリガニが有名だが、日本の固有種である日本ザリガニもこれに含まれる。食用養殖としては最も重要視されているが、一部の種を除くと大きな特徴を持たないものが多く、種数の割には輸入量・種とも少ない上に分類も困難なので、アメザリを除くと、キーパーとしては最小派閥。もちろん、このグループのキーパーは、こういう背景からか、総じて研究熱心な人が多い。
きょうせいだっぴ(強制脱皮)
個体の甲殻に何らかの不都合がある場合、または、キャンバリダエ科ザリのオス個体に関し繁殖フォームを1にして繁殖に用いたい場合などに、キーパーが意図的に水温・水質を変化させ、個体を脱皮させてしまうという技法。個体にしっかりと変化を感じ取らせ、かつ重大な負担をかけないレベルで変化させることが絶対条件なので、その変化レベルは状況・個体により大きく異なる。個体のコンディション改善には非常に効果があるものの、こうした形でのリスクも相当大きいため、相応の経験がない場合には、ある程度の覚悟を必要とする技法であろう。これができるようになると、たいていのキーパーは、自分の飼育技術にある程度の自信を持つようになるという点で、一里塚のような技法であるとも言える。
くろうふぃっしゅ・えりあ(クロウフィッシュ・エリア、Crawfish Area)
北アメリカ東南部、ミシシッピ川中〜下流域一帯を指すキーパー間での俗称。アメザリが食用として大々的に養殖されているほか、他のマイナー種も数多く散在しており、キャンバリダエ系のキーパーには垂涎の地域。2003年の北米系フィーバー以降、一部のショップで使い始められ、徐々に浸透してきたようだ。この地域ではザリガニのことを「Crawfish」と呼んでいることから名づけられたと思われるが、なかなか絶妙なネーミングである。「1種のメジャー種がガンガン養殖され、その周囲に多数のマイナー種が細かく入り組みながら棲息している」という性格的な面で考えれば、オーストラリア東南部、シドニー周辺も同じ性格を持っているといえよう。ちなみに、その他の地域では、圧倒的に「Crayfish」表記を用いることが多い。こういう細かい違いから、その記事の出処や背景などを読み取れるようになれば、とりあえずは初心者の域を脱した・・・かも。
けいさ(硅砂)
大磯砂と並ぶ、ザリ飼育での定番底材。大磯と比較すると、水質面で若干硬めの水に仕上がることから、意図的にこちらを使うキーパーも多いが、「体色が飛ぶ」という理由で嫌うキーパーも少なくない。大磯とブレンドし、独自の底材を構成させることもあるので、使い勝手としては優秀な部類に入るであろう。大磯同様、0.5〜1号といった細目の砂を使うキーパーが多いが、大磯同様、あえて粗めのものを使うキーパーもいる。
けっそんりつ(欠損率)
文字の意味で言えば、「全体量のうち、何らかの欠損(障害)の見られる割合」ということになろうが、ザリガニの場合、棲息調査などにおいて、全体調査量における胸脚欠損個体の割合を示す数値。ザリガニの場合、テリトリー意識が高く、自らのテリトリーに他個体が侵入すると排除のために喧嘩となることが珍しくないため、一般的に、欠損率が高ければ高いほど、そのエリアにおける棲息個体数(棲息密度)は高いことが推測される。ウチダ調査などでの棲息状況を推し量るための補完データとしても用いられるし、学術面以外でも、アメザリでの大型個体探しなどの場面で、こうしたデータを上手に活用することが多い。もちろん、数個体だけ捕らえて数値化しても意味はない。
けっとう(血統)
累代繁殖の際に考慮することの多い個体の血縁関係。普通「血統」というと、そのグループの持つ資質や優位性を第一義に考えるものだが、ザリの場合はそこまで進歩しておらず、また、解明もされていない。実態のない価値に基づいた他者との差別化の一環として、やたらとこの”血統”を振り回す傾向も見られるが、たいていにおいて気にせずともよい。
こたいさ(個体差)
読んで字の如く「個体それぞれの差」。ザリの世界では「同種個体間での形状・性質的な格差・相違」などの意味に絞って使われることが多い。人間でもそうであるが、ザリガニでも1つの種で、かなりハッキリとした違いを見せることがあり、体色などは、その最たるもの1つである。種を同定する場合、こうした「相違点」を見出し、チェックして行くのであるが、「どこまでが個体差レベルで、どこからが種レベルの違いか?」という点は、非常に微妙かつ高度な知識を要する部分であろう。一般的なアクアリストの心情としては、すべて「種としての違い」と見えてしまうし、また、そう見たいところであるのだが、現実には、そこまで行かないケースがほとんどである。ショップなどでも、微妙な違いを強調して特別な名前を付け、「別種」として売られる場合もあるが、その半数以上が「個体差レベル」の違いでしかない・・・という事実は、未だザリガニ飼育というジャンルが成熟しきっていないことを如実に語る現象の1つだといえよう。
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