流木を仕立てよう

 水槽を搬入すれば、さっさと水を張って個体を投入したいところですが、水を張るためには、水槽内の素材がすべて揃っていることが必要最低条件です。底砂、濾材など、購入すれば済むものもありますが、準備をするために多少なりとも時間が必要となるものが1つ、ありますよね? そう、流木です! 水を張りたい気持ちをグッと抑えて、今回は、それを仕上げて行きましょう。流木は、ザリガニ飼育に使うための場合と、水草水槽や一般熱帯魚水槽向けに使う場合とでは、仕立て方にいくつかの大きな違いがあります。こうした部分に注意しながら、真の「ザリ向け」流木を仕立てましょう。



 第2ステップで容器に漬け込んでから、約1週間が経過・・・。ただ、そのまま水に漬け込んでいるだけなのに、だいぶアクが出てきているのがおわかりいただけると思います。
「アク抜き」というと、経験の少ない方の中には、一定期間、こうした作業をすることで、ほぼ完全に取り去れるという印象をお持ちの方も多いようですが、現実問題として、ある一定以上のサイズの流木ともなると、完全にアクを抜くためには「何年間」という単位の時間が必要です。特に、ザリガニ飼育の場合、プレコ飼育などと同じく、収容した個体が齧ることによって表面がどんどん削られ、いわば「どんどん新しい表面が作られてくる」というケースがほとんどですから、水槽投入後にも継続的にアクが出てきやすい環境は、さらに強いといっても過言ではありません。従って「水槽に投入する前の段階で、流木のアクを完全に抜く」という考え方は、最初から捨ててしまった方が妥当である・・・ともいえます。ですから、アクが出ることによって水質が急激に変わってしまったりするような状態でもなれば、あまり神経質になる必要もありませんし、よほど清澄な水域に棲息する種類でもない限り、心持ち色づく程度であれば、飼育自体に深刻な問題が出てくることもありません。基本的な木の材質によっても違いはありますが、最初にある程度の期間、漬け込んでおけば、水質の変化に敏感であるとされるニホンザリガニなどでも充分対応できます。
 それで「どうしても水の黄ばみが許せない・・・」という方については、第2ステップでも触れてあります通り、やはり「超」長期間のアク抜き以外には方法がないといってよいでしょう。美しく眺めたいという気持ちが決して悪いわけではありませんが、あくまで自分が眺める上で水の黄ばみが気に入らないという理由でアク抜き剤を用いるなど、本末転倒です。ザリガニ側からすれば、そんな程度の理由でリスクのある物質を投入される方が、よっぽど困ることだからです。





 ある程度アクが出てきたら、水を入れ替えてしまいましょう。だいたい5日〜1週間程度の期間を目安に、中の水を一気に全部入れ替えてしまいます。上の写真と比較しても、よくおわかりいただけると思いますが、新しい水に入れ替えるだけでも、水の色がこんなに変わりますね。何の変化もないように見えていても、実際はそれだけ、アクが抜け出ていた・・・ということです。
 もし、時間的に余裕があるようであれば、この時に流木をタワシなどでゴシゴシ洗ってみるのも、アク抜きをよりスピーディーかつ効果的に行なうためのポイントです。金だわしなどで無理に傷をつける必要まではありませんが、表面を多少なりともザラつかせ、流木の肌目を立ててやることで、よりアクが出やすくなるばかりでなく、ザリガニにとって、より「喰いやすい」流木へと仕立て上がって行きます。こうした部分の動きや気づかいは、通常の観賞魚飼育用流木や、水草水槽用流木の仕立てと完全に異なる、ザリ飼育用ならではのポイントですね。





 これもアク抜き作業を何度も経験した方でないと理解しにくい部分ですが、アクは必ずしも1回目の漬け込みでたくさん抜け、水を入れ替えるたびに抜ける量も徐々に減って行く・・・というものであるとは限りません。木の材質や流木自体の状態によって多少なりとも差はありますが、写真のように、漬け込み2回目(1回水換え後)の方がアクが強く出てくるようなことも普通にあるのです。これは、漬け込み段階ばかりでなく、水槽投入後にも起こり得る話です。
 時折「急にアクが出るようになったが、流木自体に何か特殊な問題があるのでは?」というお尋ねをいただくことがありますが、これは、決して異常なことでもないのです。ですから、こうした作業を何度も繰り返しながら、じっくりとアクを抜いて行きましょう。
 ちなみに、こうした作業を何度やればよいか・・・ということなのですが、これについての「正解」はありません。強いて言えば繰り返せば繰り返すほど、より多くのアクが抜けることで水が黄ばみにくくなるという、ただそれだけのことです。
 水質への根本的影響という部分以外で考えれば「水の黄ばみが気に入らない」というのは、単純な飼い手側の自己都合です。そうした自己都合を実現したいのであれば、要は、それだけ自分自身の手間ひまと時間を掛けて行く・・・という、当たり前の覚悟と努力をすればよいワケですね!
 水質への強烈な悪影響を避ける・・・という点で言えば、約2週間、最低2〜3回の水換えをするようにしましょう。


 漬け込みから約2週間が経過し、3度ほど水換えを経た後に取り出した流木のうち、一番大きな流木です。第2ステップに写っている流木の写真と比較して、若干ではありますが、流木自体の黒みが増していることはおわかりいただけるでしょうか? もちろん、これで万全・・・といえる状況ではありませんが、とりあえず収容個体に影響が出るようなアクの出方はしないだろうと思える状況にはなってきていますので、今回は、これでひとまず「出来上がり」とします。

 ザリガニ飼育の水槽立ち上げにおいて、この「流木の仕立て」は、水作りと同じくらい大切で、かつ時間も手間も掛かるものです。流木は、レイアウトにもなり、シェルターにもなり、そして餌にもなる大切なものです。第2ステップでも触れましたが、ザリガニをある程度以上の水槽本数で長い期間に渡り飼育したいとお考えの方であれば、いざという時の水槽本数変更やセッティング変更に対応できるよう、常時何本かの予備流木を用意し、こうした形で漬け込んでおくことは、本当に大切だと思います。水槽自体のセッティング方法は数々あれど、様々な場面で、しかも様々な目的に活用できる流木の有効性は、キーパーのみならず、どのブリーダーでも共通したところだからです。