ゴシゴシ洗いと「コケ」の善し悪し

 流木を仕立てる際、どこかのタイミングで「ゴシゴシ洗い」をする・・・ということは、ザリガニ飼育用以外に流木を仕立てる時でも時折耳にする方法です。しかし、その理由や目的の大半は、ザリガニ飼育用とは異なります。一般的な流木の仕立てにおける「ゴシゴシ洗い」の目的とは、まず流木自体の汚れ落としであり、アク抜き中の流木に付着した「コケ」落としではないでしょうか? 何といっても観賞魚の世界において「コケ」は、無類の嫌われ者ですから・・・ね。

 アク抜きを目的とした流木の漬け込みを屋外で行なう場合、漬け込み容器が直射日光の射し込むような場所に置かれていたりしますと、長らく漬け込んでいるうちに、水はグリーンウォーターとなり、流木には右の写真のようにコケなどが生えてしまう場合もあります。一般的な観賞魚水槽用ですと、こうした現象は、まさに「禁じ手」! 最もヘタクソな流木の仕立て方である・・・とされます。実際、ザリ・キーパーの中にも、他の魚の飼育や水草水槽の世界から移ってきた人の中には、あからさまにこういう現象を嫌う人もいますし、中には、プロブリーダーの施設を見学した時に、そんな漬け込み容器を見て「コイツ、手抜きしてるな!」と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか? そりゃそうですよね! 確かに、ショップの棚を覗けば、コケ除去用のコンディショナーが売られているくらいですから・・・。
 しかし、これに関しては実に簡単なことで、アク抜き容器自体を直射日光の当たらない暗所に置くとか、ブルーシートを重ね掛けするなどで遮光してしまうなどの方法をとれば、少なくともコケの発生は最低限に食い止めることが可能です。

 ただ、意外な話かも知れませんが、一般的な観賞魚水槽や水草水槽をやる時のような、コケに対する嫌悪感や過剰反応は、少なくともザリガニ飼育の場合、時としてマイナスに働くケースがあるものです。もちろん、らんちゅう飼育のような緑水(グリーンウォーター)環境がベストだ・・・といっているわけではありませんし、水槽内にコケが生えること自体を歓迎しているワケではありません。実際、飼育水槽内でコケが異常に発生している場合、飼育水自体が万全でない可能性を示唆しているという点では、通常の観賞魚飼育と全く同じです。
 しかし、コケの存在すべてが、ザリガニにとって有害・・・というわけではありません。ザリガニによっては、ある程度コケの生えた流木を好んで齧るような個体もいなくはありませんし、特に動物性飼料に強い反応を示す稚ザリ〜亜成体の時期など、多少コケのついた流木が重宝することもあります。
 ですから、ザリガニ飼育における実利面で考える限り、一般的な観賞魚水槽と比較してコケに対する過剰反応をする必要もありませんし、場合によっては、あえて意図的にこうした流木を用意することもあるのです。右の写真は、本編の漬け込み容器とは別の、直射日光がよく当たる場所に設置した漬け込み容器(上の写真の漬け込み容器)で仕立てた、主として稚ザリ〜亜成体期、いわゆる「1マイナス個体」飼育水槽に投入するための流木です。同じ流木でも、本編のコーナーに載せている流木とは全く違うものに仕立て上がっているのがおわかりいただけますよね?
 プロのブリーダーやベテランキーパーの飼育施設を見学に行くと、まず、流木の常時漬け込みがなされていること自体に驚かれる方も多いと思いますが、そのアク抜きも、ほぼ共通して、全く異なる2種類の方法で行なっていることに気づき、驚かれたり不思議に思われたりする方も多いと思います。これも、決して片方の漬け込み容器を手抜きして行なっているのではなく、ベテランなればこそ、このような使い分けによる有効性と必要性を経験的に知っており、意図的に「性格と目的の違う2種類の流木」を仕立てているからだ・・・といえるでしょう。
 このように、齧り用に主眼を置いた流木を仕立てる場合、その個体の性質や状況、嗜好などによっては、あえてガンガン直射日光の当たる場所に置いて、水を入れ替える際にもゴシゴシ洗いは行なわず、適度なコケを生やした上で投入する・・・という方法もあるワケですね。細かい違いかも知れませんが、自分の目的や狙いに応じて仕立ての方法を変えるということも、キーパーにとっては大事なスタンスです。

 このように、コケの存在やゴシゴシ洗いの有無については、状況や目的に応じて善し悪しがあるものですが、少なくとも流木の周りにコケが生えてしまうことで、アク抜きのスピードは格段に落ちてしまうものです。また、ゴシゴシ洗いをすることは、アクが抜けやすくなる上に、個体によっては、より齧りやすい肌目へと変える働きもあります。2つの方法と意味合いを理解した上で、状況と目的に応じ方法を選択して行くことは、とても大事なことだといえるでしょう。

 なお、ゴシゴシ洗いに関しては、汚れやコケ落としを主目的とする一般的な流木の仕立てと違って、ザリ飼育用の場合、あくまでも「肌目を立てる」ことが一番大きな目的です。その点も意識して洗うようにしましょう。