「門田の次」を背負った男
藤本 博史内野手




 どんなに活きのいい外国人選手が来ようと、南海ファンにとっての主砲は「門田博光」以外にはいなかったのですが、同時に「門田さんの次は誰?」という問題には、非常に高い興味を持っていました。一人一人の思い入れも相俟って、やれ佐々木だ、やれドラさんだ・・・と、レギュラー選手の名前もポンポン上がっていたのです。そのような中にあって、最も真剣に語られ、そして予想されたのが、岸川勝也選手と、この藤本(博)選手でありました。
 門田さんの背負っていた44番を引き継ぎ、とにもかくにも、豪快なホームランをかっ飛ばしていたのは、岸川選手の方でした。誰がなんといっても、そのプレーは「長距離砲」そのもの・・・。マスコミも、ファンも、こぞって「門田の次」と騒ぎ立てました。しかし、変化球への脆さを敵チームの投手陣が見逃そうはずもありません。結局彼には「当たれば飛ぶんだけど」という、あまり嬉しくない前置きがついて回るようになりました。
 その点、藤本(博)選手には、そうした「ムラ」がありませんでした。常にレギュラーか、悪くても代打要因として1軍登録され、ベンチ入りしていましたので、関東でも普通にその姿を見ることができました。そして、たまには目の覚めるようなホームランを打ちましたし、鋭いタイムリーで我々を喜ばせてくれることもありました。試合前の練習では、ベラベラと談笑しながら走る選手たちの横で、真剣な表情をしながらダッシュを繰り返す姿を、いつも見ることができました。それでも「4番 藤本博」のコールには、どうしても納得のできない「何か」があったのです。
 間違いなくいい選手でありましたし、「一発」を秘めていたことも間違いありません。しかし、4番打者の仕事であり宿命でもある、常に「ホームランを打ってくれる」というイメージとは、少し違いました。そして、それをスタンドの誰もが願った時に限って、なぜか凡打に沈んでしまう・・・。そんなイメージが、「門田の次」を、より遠いものにしてしまったのかも知れません。
 ただ、5番・6番であれば、存分に彼の持ち味が出ていました。門田さんとの対戦に疲れた敵投手から、稲妻のようなヒットをもぎ取り、平然とした表情で1塁ベース上に立つ藤本選手の姿に、我々ファンは、どれだけ爽快な想いをしていたことでしょう。派手にガッツポーズをしてみせるわけでもなく、感情を前面に押し出してプレーするわけでもなく、ただ、ひたむきに、ただ懸命に、1つ1つのプレーを続けていた彼には、意味もないプレッシャーに押し潰されて凡打に沈む4番より、門田さんの返し損ねたランナーをサラリと返す5番、6番の方が、絶対に似合っていたはずです。
 「門田の次」を担うには、確かに厳しかったかも知れません。しかし「門田の次」を打たせるのであれば、彼ほど安心できる選手もいなかったことでしょう。南海の最晩期、一生懸命「門田の次」を打ち、ファンの期待に応えていたのは、こんなシブい選手だったのです。