昼下がりのエース
橋本 敬司投手




 日本第2の大都市・大阪の、しかもそのド真ん中である難波・大阪球場を本拠地としながら、ホークスはどの球団よりもマイナーで、どの球団よりも「地方色」が色濃く出ていました。地元の人間やテレビ局は、真の地元チームではない阪神タイガースを応援していましたし、大洋がうららかに照りつける日曜日の昼下がりでさえ、球場のスタンドよりも外の馬券売場の方が賑わう悲しさでありました。
 そんな「地方球団」にとって、ノドから手が出るほど欲しいのが、「全国区」の看板を背負った選手・・・。特に、何かにつけテレビ画面に登場する巨人軍の選手は、それだけで立派な「価値」だったのです。
 そんなジャイアンツから、どん底のホークスへやって来たのが、この橋本投手でありました。一線級のローテーション投手ではありませんでしたが、実際に先発投手として全国ネットの中継にも登場した経験を持ち、抜群の球威を誇る、まさに脂の乗った5年目投手でありました。
「これで左の先発が一枚加わった! ローテーションもかなり計算できるようになるぞ・・・」
ホークスファンは、大いなる期待を持って新聞記事を読み、そしてキャンプインを迎えたのです。しかし・・・。
 確かに巨人時代から「ノーコン病」との陰口は囁かれていました。でも、ファーボールで塁を埋め、ド真ん中の絶好球をスタンドに放り込まれる・・・。これでは、試合を作れるはずもありません。誰もが唸るようなせっかくの球威も、中継ぎですら活かす道がなくなっていきました。全国区の剛腕ピッチャーも、いつしか登録と抹消を繰り返す「エレベーター選手」になってしまっていたのです。
 灼熱の太陽光が容赦なく降り注ぐ真夏の昼下がり、人影まばらな大阪球場で、ウエスタン・リーグのマウンドに立つ橋本投手は、ダイナミックなフォームで、次々と若手打者を討ち取っていました。それこそ「格の違い」を見せつける、王者の投球でありました。でも、キャッチャーの身体は、剛球が投じられるたびに、右へ左へと動きます。塁に出ているのは、自ら与えた四球の打者ばかり・・・。
「これさえなければ、清原を、ブーマーを討ち取ってくれるんだけどなぁ・・・。本当なら、今日の夕方からここに立つピッチャーなんだよなぁ・・・」
球威不足で相手打者の猛攻に撃沈する一軍投手陣の不甲斐なさを思い浮かべながら、悔しそうにじっとマウンドの剛腕ぶりを眺めるファンが、ポツンとスタンドに座っていました。