黙々と投げ続けた孤高のエース
山内 孝徳投手
ピッチャーの調子が良ければ打線は沈黙し、味方バッターが打ち始めると、なぜかマウンド上のピッチャーも火だるまになる・・・。晩年のホークスには、投打のバランスがいいとは決していえない試合が、実に多くありました。
そんな中、南海最後の「エース」と謳われたのが、「ヒゲの孝さん」こと山内孝徳投手です。
毎年、なぜか勝ち数の倍近い負け数を記録する投手でしたが、それは、決して彼のせいだけではありません。ホークス打線が相手投手の前に続々と凡打の山を積み上げる中、彼は、ただ黙って、ひたすら敵打線に戦いを挑んで行きました。拙守がたたり、自分の責任ではないランナーを背負わされても決して動揺せず、味方打線の沈黙で、まったくの援護が得られなくても、彼は黙ってマウンドに立ち、たった一人で敵に挑んで行きました。そして、チラリと1塁ランナーに視線を送ると、おもむろにセットポジションに入り、魂を込めた一球をキャッチャーのミットへと放ります。
今思えば、孝さんの登板する試合は、いつもこんな苦しい展開ばかりでありました。しかし、一度たりとも、彼がマウンド上でヤケになっている姿を見たことはありません。勝敗数だけからいえば二線級のピッチャーかも知れませんが、孝さんの「負け数」は、彼の孤独な戦いを意味する「エースの勲章」なのだと、私は強く思っています。