クールで熱い「ガラスのエース」
加藤 伸一投手




 良く言えば「男っぽい」、悪く言えば「ドロ臭い」選手が多かった当時の南海ホークス。キャピキャピの黄色い声援を浴びるような選手は、それこそ片手で数えるくらいしかいなかった中で、伸ちゃんは、ガメやタンタン、森脇なんかと並ぶ、数少ない「クール・ガイ」でありました。そして、ひとたびマウンドに上がると、小気味良いシュートをズドーンと決め、次々に相手打線を手玉に取る「凄さ」がありました。
 ただ、とにもかくにもつらかったのが「ヒジの故障」。幸先のいいスタートを迎えたかと思うと、まだ本格的なペナント争いが始まっていないというのに、登録を抹消されてしまうのです。もとより当時のホークス2軍には、伸ちゃんの代わりが務まるような控え投手などいるわけありませんでしたから、またたく間にローテーションは「火の車」に・・・。ホークスファンは、次々と相手打線に打ち込まれる試合を見ながら、「あ〜あ、伸ちゃんがいればなぁ・・・」と、天を仰ぐのでありました。
 そんな状況の中、いつしか、伸ちゃんに付けられた接頭語が「ガラスのエース」。「伸ちゃんがフル回転すれば15勝は固い・・・、そうすれば、ホークスもAクラス入りだけどなぁ・・・」と、ホークスファンは、そんな空しい星計算をしながら、いつも彼の「本格復帰」を待ち望んでいたのです。もちろん、この時、彼が様々な故障を克服しながら、この後10年以上も現役のまま活躍し続けることなど、誰も思ってはいませんでした。