勝利のクマさん
井上 祐二投手




 時々、気がついたように連勝することもありましたが、所詮、南海はBクラスのチーム。谷間だらけの先発陣に、年中梅雨のクリーンナップ・・・では、そうそう勝てるものでもありません。序盤で大差をつけられたり、虎の子の1点を、あっという間にひっくり返されるような試合展開にも、いつしか慣れっこになる、いや、ならなければならないのが南海ファンの宿命でした。
 そんな不憫なファンたちが、唯一、心の底から喜ぶアナウンス・・・。これが「ピッチャー、井上」だったのです。先発で今一つパッとしなかったこの投手を、抑えとして見事一人立ちさせたのは、同じ投手出身である杉浦監督でした。金城という独特のクローザーを失った後、中継ぎだか抑えだかわからない投手ばかりが多かった中で、杉浦監督は、彼の強心臓に期待を込めたのです。
 杉浦監督就任1年目に、その片鱗を見せ始めた井上投手は、年を追うごとに安定度を増し、難波の鷹、最後のクローザーとして、ファンの希望を一身に背負い、チームを勝利へと導きました。ファンもよく心得たもので、リードした状態で終盤に差し掛かると、ブルペンで肩を作る彼の姿をチラチラ見ながら、交代のアナウンスを待つのでした。

「南海ホークス、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、西川に代わり、井上。ピッチャー、井上。背番号 12」

「やった! これで今日は勝てる! 美味しいビールが飲めるぞぉ!」
ファンは、ひときわ大きな声援で、井上投手をマウンドに迎えます。そして、淡々と、でも豪快に、敵の反撃を返り討ちにして行くのでありました。そして、6人目の敵を内野ゴロにしとめた後、マウンドの前には、いつもの人懐っこい笑顔で、吉田捕手と握手をする姿がありました。
 試合の最後を笑顔で締めくくる時、グラウンドの中心には、こんな優しく、そして豪快な選手が立っていたのです。