優しさとしぶとさと
小川 史内野手
采配や外国人問題の影響もあったのですが、最晩期のホークス内野陣は、目も当てられないほどのお粗末な状況でした。せっかく固まりかけた試合を、つまらぬエラーで壊すばかりか、懲りないエラーの連発でピンチの傷口を広げてしまい、敵チームにいらぬ点数を献上することもしばしばだったのです。湯上谷、若井、バナザード・・・。どうにもこうにも厳しいレギュラーが、マウンド上の投手を苦しめ続けました。
そんな中にあって、キッチリと仕事をこなしていたのが、この「1番」でした。貴重な「守りの職人」であった中尾選手が、年齢的にそろそろ厳しくなりかけている中、安心して見ていられる内野手といえば、彼一人しかいない・・・といっても過言ではなかったのです。決して長打力があるわけでもなく、何か大きなセールスポイントがあるわけでもなく、まさに典型的な「パの9番打者」でありました。でも、バットを持っていても、グローブをはめていても、一旦ボールに喰いついたら、絶対に離さない・・・というようなしぶとさと、着実に繋いでやろうという凄みだけは常に感じることができました。練習前後のにこやかな笑顔とは対照的な鋭い視線・・・。彼が塁に出て、1番に座った佐々木選手や河埜選手がホームへ返すと、スコアボードには、彼の背中に縫い付けられている数字と同じ数字が灯ります。ホークスファンの大歓声の中、彼は、いつものにこやかな笑顔で、ベンチにいるチームメイトとハイタッチをしているのでありました。南海ホークスの「真の斬り込み隊長」は、最も後ろの打順に構えながら、ヘルメットの奥に光る鋭い視線で、マウンド上の相手ピッチャーを脅かし続けていたのです。10.15、大阪球場で、ちょっと照れ気味に小さく手を挙げてファンの声援に応えた小川選手・・・。ゲームの時に見せる「鋭さ、しぶとさ」と、優しい笑顔の2つこそ、小川選手の最大の魅力だったのかも知れません。