基本編2・いい流木の条件




写真:ザリガニ飼育という点での大まかな必要条件をすべて満たしている流木の一例(幅約90cm)。
どこでも売られ、どこでも買うことができるというのが流木だが、大きさ、素材(状態)、
形状など、ザリガニ飼育向けという点での条件がすべて揃う流木は、そう頻繁には見つからない。




 観賞魚飼育の世界で、流木は「ごくフツーの水槽装飾アイテム」であり、その種類や取り扱い本数はさておいても、商品自体は比較的どこでも見ることができ、また、買うことができます。そのためか、キーパーの中にも、ともすると「流木なんて、安けりゃ安いほどいい」というような風潮が出てきてしまうことも、今に始まったことではありません。
 そんな状況の中、あくまでも「ザリガニ飼育」という特殊な視点から、流木の善し悪しについて考えてみる時、何をもってして、「いい流木」とするべきなのか、その基準について考えてみることにしましょう。
 ザリガニ飼育における流木の役割は、一般的な観賞魚飼育における「水槽内レイアウト・装飾素材」という意味合い以上に「シェルター」「食材」という2つの要素が非常に重視されます。観賞という点での「形の善し悪し」は、むしろ2の次、3の次・・・なのかも知れません。
 食材という点に関しては、確かに「流木そのものの素材」という大切な要素があり、これについては別項で詳しくご説明しますが、流木を探すにあたって「素材さえ問題なければ万事OKであり、素材本位で探せばよい」・・・というような単純な問題でないことは、間違いないといえましょう。
 そこで、素材や状態という部分では問題ないものである・・・とした上で、いい流木の「条件」を挙げてみました。

1・ザリが齧りやすい形状をしていること
 流木を「齧る」といえば、ザリガニ以外にもプレコ類が有名であり、プレコ飼育に燃えるキーパーも、多くの人がザリガニ飼育のキーパー同様、日ごろから「いい流木探し」に目を光らせている・・・といわれています。しかし、ザリガニとプレコとで決定的に異なるのは、流木自体の「齧り方」です。そもそも、ザリガニとプレコとでは口の形状が根本的に異なりますから、これは当たり前のことなのですが、プレコの場合、どちらかといえば「流木の表面を舐め削る」感じであるのに対し、ザリは、あくまでも「流木の端部に齧りつく」食べ方をします。このため、プレコと異なり、流木自体が滑らかで起伏がない形状をしていると、いくら素材が好適であったとしても、ザリは齧ろうにも齧ることができません。
 このようなことから、ザリがより齧りやすくするためには、「ツノ」と呼ばれる突起部の多いことが大切になります。端部の形状が滑らかでないことに加え、あちこちに突起や先鋭部がある「デコボコ」な形状は、少なくても「齧りやすさ」という点では、非常に有利な要素です。

2・シェルターとして的確に機能すること
 シェルターというと「穴」「窪み」というイメージばかりが先行するものです。確かに、こうしたもの自体は有効ですし、のっぺりしていて身を隠そうにも隠せないような形状のものでは論外ですが、だからといって「穴がいっぱい開いていさえすればよい」というものでもありません。また、筒流木のコーナーでも解説してありますが、人間の目から見れば「まさに打ってつけの穴」のように見えても、実際に投入してみると、ほとんどシェルターとして機能していない(利用されていない)ケースは数多く見られるものです。いくら美しく、自然っぽい形状の穴が開いていようが、収容した個体が積極的に活用しなければ、それは「機能している」ことになりません。
 実際に飼育してみるとわかることですが、すべての個体が100%積極的に利用する穴・・・というものは最初から存在しないのです。個体のシェルターに対する選択性の関係については、すでに国内でも研究が行われており、ニホンザリガニなどでは、中田和義氏の研究により、すでに具体的な算出式も導き出されているのは、すでによく知られています。種類や大きさ、そして環境などによって、選択性は変化して行くものですし、「どんな種類の、どんな大きさの個体を、どのような環境でどのように飼育するのか?」・・・によって、最適な流木を的確に選びとって行く「目」が必要不可欠だといえましょう。

3・基本レイアウトを阻害しないこと
 やっと「水槽内レイアウト」という、一般的な流木らしい条件が出てきました。アクアインテリアなどを始めとした一般的な観賞魚水槽では、最重要視される部分ですね。もちろん、水槽全体の光景を構成するという点でのレイアウトは大切だと思いますし、全体の雰囲気に沿った形状の流木をチョイスすることは、決して意味ないことではありません。しかし、ここでいう「レイアウト」とは、水槽全体の「風景」としてのレイアウトではなく、ザリガニが水槽内で生活して行く上での「エリア分け」としてのレイアウトのこと・・・です。
 ザリガニの飼育では、水槽内に「活動エリア」「待避エリア」という明確なエリアの区分けを行なうことが本当に大切です。摂餌や交接、脱皮などに大切な「活動エリア」と、個体同士の喧嘩を避け、落ち着いた環境を維持させるための「待避エリア」を、収容個体数に応じて水槽内に設けるのが一般的です。この時、流木自体の形状や機能に気を遣うあまり、充分なエリア組みができないようでは、意味がありません。そういう意味で「エリア区分を阻害するほど大きな流木」は、逆効果であるともいえましょう。あくまでも、水槽内部全体で想定したエリア分けを阻害しない状態の流木こそ、「いい流木」である必要最低条件なのです。
 このような要素を踏まえ、もう一歩、考えを深めて行くならば、「基本レイアウトを阻害しない」というよりも「水槽内における、より明確なエリア分けに役立つ形状」であることが、よりよい流木である・・・ということもできます。設置ポイントや接地姿勢によって前後または左右が完全に遮断される、あるいは中の空洞部が、単なるシェルターとしてだけでなく、1つのエリアとして機能できる・・・などの要素は「よい流木」の条件として、非常に有利なものとなるはずです。

4・模様の入り方が実用的であること
 一般的な水槽装飾アイテムとしての流木は、より綺麗な模様の入り方が何より重要です。カマボコようなのっぺりした形状よりも、いかにも・・・という感じに模様が入れば、流木の雰囲気も引き立ち、水槽全体の風景も立体的になるからです。当然、ショップでは、こうした模様のいい流木から売れて行くことでしょう。模様のいい流木が、「枝状流木」「切り株型流木」などに対して必要以上に高い評価が与えられたり、高い値札がつけられたりするのも、こうした理由からです。
 もちろん、ザリガニの飼育においても、模様の入り方はいいに越したことはありません。しかし、それは、あくまでも実用的な範疇においてのことです。模様の入り方が、たとえばエリア分けに役立ったりシェルターとして機能したりする場合においてのみ、その模様自体に意味があるわけです。
 くねくねと反り上がるような模様の入り方は、いかにも格好よくて水槽内も引き締まりますが、それがために肝心の要素が軽視されるようでは意味がありません。流木を選ぶ段階から「どういうサイズの水槽で、どう配置する」ということを想定しながら1本1本チェックするようにして行けば、模様に対する着目点自体も変わってくるでしょうし、そのような模様を活かした「いい流木」を選び出せるようになるはずです。



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