基本編1・「食用である」という現実




写真:必死に流木を齧るレッドクロウ。流木を好むか好まないかは個体差の問題であり、
必ずしも種の鉄則的な特徴とは言い切れないものである。




 ザリガニ飼育という視点から、流木の善し悪しについて考えてみる時、何といっても他の熱帯魚飼育と異なる要素は、それが「食材でもある」ということでしょう。種類や個体によって、好んで食べるものとそうでないものがあるようですが、傾向や嗜好性の高低こそあれ「種によっては、100%完璧に食べない」とまでは言い切れないと申し上げて構わないと思います(流木とは全く縁がないといわれる北米産プライマリー系諸種ですら、実際の飼育下では、頻繁に齧っているシーンが何度も目撃されています)。中には「流木こそ、ザリガニ飼育における最高の持久性飼料である」とまで言い切るキーパーもいるほどです。佐倉でも、基本的に流木は「シェルター」ではなく「餌」という認識をしており、「器具」というよりは「消耗品」という捉え方で用いています(実際にはチマチマ1本ずつ購入してもいられないので、数年に一度、残りが少なくなってくると、いいものが入ってきた段階で声を掛けていただき、木箱1つ分ドッサリ買い込んできます)。上の写真は、レッドクロウが一生懸命流木を齧っている様子ですが、当然、他種の個体もよく齧ります。一部では「マロン、レッドクロウ、ヤビーの順でよく齧り、パラスタシダエ科のザリに比べると、キャンバリダエ科のザリはほとんど齧らない」などという説明がなされている場合もあるようですが、餌など見向きもせずに流木を齧り続けるアメザリがいたかと思うと、いくら空腹になっても全く流木にしがみつこうとしないマロンがいるなど、それこそ、その方の「飼ってみた感覚」であり、統計的にこれを裏付けるものは何もありません。
 では、いったい彼らは、どのような形でどれくらい流木を齧るのでしょうか?
   まず、右の写真を見ていただきたいのですが、これは、ヤビーの成体1:2ペアを飼育している120センチ水槽から取り出した流木です。手のひらに乗ってしまうサイズの平べったい果物ナイフのような形状に見える流木ですが、もちろん、これは、売られていた当時の形のものではありません。1年半前に水槽へ投入した時は、倍の30センチ以上の長さを持つ立派な流木で、横幅も高さもあった模様入り流木でした。一般的なショップの売り方でいえば、1500円〜1200円程度のLLサイズ流木・・・ということになりましょうか? そんな大きさの流木が、1年半くらいの時間で3匹の成体に齧られ、ここまでのサイズになってしまったのです。佐倉では、他のキーパーさんのように連日ケアしたり、餌を与えるようなことをしないので、どちらかというと「常時空腹」みたいな状態になっていることも、理由の1つとして考えられるということもありますが、ヤビーの成体が3匹もいれば、1年半でこんなにも流木を齧ってしまう・・・という典型的な例でございましょう(流木は水槽内にもっと多く入っていますから、実際には、彼ら自体、さらに多くの量を食べていることになります)。先ほども申し上げましたように、個体によっては流木に対してほとんど反応を示さないケースもありますので、そうした個体しか飼育された経験をお持ちでない方からすると、まだまだ半信半疑だとは思いますが、とにかく「食べる個体は、我々の予想以上によく食べてしまうものである」という認識を持っておいていいでしょう。マロンの大型個体などの場合、1年で流木1本をタマ(クズ)流木だけにしてしまうような「猛者」もいるほどです。複数飼育の大型水槽などの場合、越冬明けで大きい流木を3〜4本入れても、翌年の越冬明けには、何らかの補充が必要になるケースがほとんどです。
 それでは次に、どんな状況で流木が齧られて行くのかをチェックしてみましょう。世に物好きなサイトは数々あれど、こんな写真をわざわざ撮影して公開するようなおバカなサイトは、後にも先にも佐倉ザリガニ研究所だけ・・・(苦笑)だろうと思うのですが、右に写っているのが、本邦初公開! 「ザリが齧った流木の表面」です。流木を齧っているシーンを細かく観察した経験のある方ですとご理解いただけると思いますが、プレコのように「舐める」という感じではなく、大アゴを使ってガリガリと「削る」感じで食べて行きます。屋内で大型マロンを飼育しているキーパーの中には、夜中「バキッ、ガリッ」という音を聞き、慌てて電気をつけると、マロンが必死になって流木にしがみつき、齧っていた・・・と真顔で話す人もいます(さすがにそれが本当に流木を齧る音かどうかはわかりませんが・・・笑)。このため、流木も全体的に少しずつ痩せて行く感じではなく、端部や突起部から徐々に小さくなって行く感じになります。表面は、写真のようにガリガリの、まるで熊手で短く引っ掻いたような痕ができることが多く、表面はかなりデコボコでザラザラした感じになります。満遍なく全体を舐め回しながら食べて行くわけではないので、木肌が細かい場合、ツルツルのところとザラザラのところがハッキリとわかるようになるのも面白いところです(写真でも、個体に齧られている上部と、齧られていない下部では、表面の木目が全く違うことが御覧いただけますよね!)。通常、端部や突起部から徐々に齧り進んで行くため、半年くらい経つと、導入時と全く違う形になってしまうことも少なくありません。
 ひと口に「流木を食べる」といっても、その食べ方や流れなどが完全に理解できていなければ、ザリにとって適した流木は選べません。こうしたことをあらかじめ想定しておけるかどうかで、キーパーのみなさんの「流木選び」は大きく変わってくるのです。




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