Duel-1(第1試合)
超ヘビー級成体オス
〜時間無制限1本勝負・解説編〜
それぞれの写真の意味と、気をつけるべきポイントは押さえられましたか? さぁ、それでは、実際の写真を見ながら解説して行きましょう。
(シーン1)
いよいよ、ゴングです。完全に正対し、まさに今、戦おうとしている瞬間です。ここで注目しておいていただきたいのは、両者の第2触角・・・。互いにピーンと真横に伸ばして、さも「俺はこんなにデカいんだぞぉ!」と見せつけているかのようです。ザリガニにとって第2触角とは、多分に「手」のような役割を果たしていると考えてよいでしょう。第1触角のように嗅覚的な、いわゆる「匂い」への反応というよりも、あちこちをこの触角で触って確認する、触覚的な役割を持っていると考えられています。ですから、優勢であれば触覚は前に繰り出して相手を平然とサーチしますし、劣勢であれば、後方にしまって退避準備をとります。そのどちらでもない、つまり、戦う姿勢の時には、実に多くのザリガニが、こういう威嚇型の触角ポジショニングを見せるわけで、これは非常に興味深いことです。もちろん、そういうポジショニングを見せなくても喧嘩に至る場合はありますが、こうなった場合、かなり高い確率でガチンコとなりますから、引き離すようであれば、この段階で気づき、すぐ個体を離しましょう。
(シーン2)
ガッチリ組み合います。ここでの体高の位置に注目しましょう。個体同士がほぼ同じ大きさであれば、(喧嘩が始まる前でも途中でも)大きく見せている方が強いケースが大半です。また、動きの面で言えば、相手のハサミの動きを封じた方が優勢です。これらのことから見て行けば、すでにこの段階で、青い個体の方が優勢であることは推察できるわけですが、せっかくですので、もう少し推移を見てみることにしましょう。
(シーン3)
喧嘩では、ハサミならずとも、押さえつけられたり挟まれたりすることは避けねばなりません。グリーン系の個体が、空いた左ハサミで右側の胸脚あたりを挟みに行こうとしたので、青い個体はすかさず飛び上がってかわします。単独飼育でない大型個体の場合、特にこういう敏捷性がないと、思わぬ相手にやられてしまうこともあるのです。
(シーン4)
真横からアップでとらえてみました。ヤビーの通常の姿勢を知っている方ならすぐに理解できると思いますが、ヤビーのみならず、こういう状況下ですと、個体はかなり「反り返った姿勢」を見せるものです。この写真でも、グリーン系の個体の方などは、今にもバンザイし出すのではないかと思うほどの反り方ですね。
(シーン5)
今度は引き気味でとらえてみました。ハサミの大きい個体の場合、多少は反り姿勢になるものではありますが、写真で見てわかる通り、喧嘩の時には、この度合いがかなり大きくなります。青い個体が、両方のハサミでグリーン系個体のハサミをつかんでいるのが見えますでしょうか? 喧嘩の時に、ハサミの動きを封じられてしまうと、個体は尾扇を使って退却する動作以外、主導権をもった動きが取れなくなってしまいます。勝負の趨勢も、これでだいぶ見えてきましたね。
(シーン6)
喧嘩をしている横を、メスの個体が通り掛かると、いつもペアを組んでいる青い個体は、サッと組み合っているハサミを解きます。一瞬「形勢逆転か?」と思われる瞬間ですが、運動会の騎馬戦みたいに、コロコロ形勢が変わることなど、滅多にありません。また再度組み合って、何度かやり合えば、やっぱり同じ結果になってしまうものです。
このケースでもわかることですが、ザリガニたちは、喧嘩をしていても、常に周囲の様子へ気を配っています。よほど完全に組み合っていない限りは、ちょっとした環境の変化で喧嘩を止めることも少なくありません。
(シーン7)
何度か組み合った後に正対している写真ですが、最初の数枚と決定的に違う点があることにお気付きでしょうか? そう、第2触角の向きです。青い個体の方が、触角を完全に前伸ばししており、いつものような「サーチ・モード」に戻っています。これは、青い個体の方が、少なくともグリーン系個体に対しては、脅威を感じなくなっていることを意味します。真横に伸ばしたままで、未だ戦闘状態を続けているグリーン系個体とは対照的ですよね。妙な反り返り姿勢も全く見せていません。正対こそしていますが、青い個体が「完全に相手の力程度を見切った」瞬間です。触角の動きは、実に様々なことを物語るものです。犬の尻尾ではありませんが、キーパーは、こうした部分から、しっかりと個体の状況を見極めておけるようにしたいものですね。
(シーン8)
上の写真からホンの数秒後、グリーン系個体はそそくさと退散して行きました。これ以上戦っても勝機がないことは、グリーン系個体も充分に自覚できているはずです。本来、こうした生き物たちは、自分たちの生き死にに関係ない「無為な戦い」は絶対にしないものです。水槽内で喧嘩が起こる場合、その原因の大半は、私たちキーパーの側にあることを、私たち自身が自覚し、できる限りの対策と原因排除を徹底して行かねばなりません。水槽本数と個体数の多さを誇ることが、上級キーパーではないのです。
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