judge-6   平和の「真偽」を見極める




写真:トロ舟の中で、上から覗き込む人間に威嚇ポーズを取るウチダザリガニ。彼らからすれば、
私たち人間は、あくまでも「脅威」であり「敵」であるという現実を忘れてはならないであろう


〜正しいジャッジのための必須事項〜
Point-1 収容直後の様子だけで状況を判断するのは危険。時間を掛けた経過観察を
Point-2 「喧嘩が起こっていない=個体仲が良く、心配はない」という判断は危険



・・・ということは?
 「水槽がない」「スペースがない」など、キーパーの自分勝手な理由で適正数以上の個体を収容し、無理な混育をしようとするのは論外ですが、実際には、どうしても止むを得ない事情で、個体同士を1つの水槽に収容しなければならないというケースが存在するものです。特に、初顔合わせでの繁殖ペアリングなどの場合、まさにこれが当てはまるといってよいでしょう。もちろん、これはオス対オス、メス対メスという組み合わせではありませんので、同性個体同士ほど派手にならない・・・という見方もできますが、それでも、状況によっては深刻なトラブルに発展する可能性も皆無ではありません。養殖現場においても、オスの追い回しなどによるメスへの負担や障害などを避けるため、オスの収容数に対してメスの収容数を上げる方法が日常的に取られているものです。また、こうした方法は、ザリガニのみならず、他の生き物を飼育する際にもよく用いられる方法です。
 収容個体数比の問題はさておき、実際に複数個体を水槽に収容した際、どういう部分に気をつけたらよいでしょうか? まず、収容したその場で喧嘩を始めたり、あるいは片方が完全に追い回され続けて収拾がつかないなどの時は、その場で判断を下せますが、実際には喧嘩を始めるどころか、収容した各々の個体がそそくさと水槽内を逃げ回り、見つけた塩ビ管などに潜り込んでしまう・・・というようなパターンがほとんどではないかと思います。そして、数日経っても特に大きな喧嘩や障害はないようなので、キーパーは「問題なし」と判断してしまうものなのでしょう。さらに1週間ほど経って、無残な骸を水槽の片隅に見つけた時、初めて「そんなバカな!」ということになるのだと思います。
 ザリガニからすれば、水槽導入直後は、人間という、目の前のザリガニとは比較にならないような巨大な脅威から逃れ、身を隠すのに必死であり、テリトリー争いも何もあったものではありません。とりあえず身の隠し場所を確保し、当面の危機を回避した上で、初めてテリトリー云々の動きが出てくるのです。ですから、水槽収容直後からそういう動きを見せる方がむしろ異例であり、私たちキーパーとしては「収容個体がそれらしい動きを始めるのは、早々に収容してある程度時間が経ってからである」というように考えておいた方がよいのかも知れません。彼らがこうしたところから少しずつ出てくるのは、ある程度環境が落ち着き、キーパーが水槽を覗き終えて眠りについたころ・・・という感じになると思いますが、その段階でどちらかの個体が決定的に不利な場合、その個体は摂餌のために出てくることなく、隠れ場所でじっとしているものです。その期間は、軽く1週間に及ぶこともありますので、その間「見た目上の平和」が展開することになります。キーパーも、24時間目をそらさずに観察してはいませんから、こうした状況でもって「この個体同士は問題なし」と判断してしまうわけですが、弱い方の個体も、そう長い期間「籠城」できるものではありませんので、いずれは各々の活動エリアで強い個体とバッティングしてしまう状況になってしまいます。こうなれば、どういう結末が待ち構えているかは、説明するまでもないことでしょう。「導入当初は全く問題なく仲良くしていたのに、ある日突然、喧嘩が起こって片方が落ちてしまった」というお嘆きのメールをいただくことは決して少なくありませんが、こういう事例の場合、往々にして「当初は仲良かった」というキーパーの判断自体に原因がある場合も多いものです。最低でも1週間から半月程度は様子を見て、活動エリア・退避エリアともに、本当に問題なく各々の個体が生活できているかを時間を掛けて見極めて行くことが、悲しい結末を避けるための大きなポイントの1つと考えてよいでしょう。




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