judge-5   個体の「優劣」を見極める




写真:狭い水槽の中で正対してしまったターキッシュの成体。この段階で、どっちが優勢か、どっちが逃げ腰かをキーパーは見極められるだろうか?

〜正しいジャッジのための必須事項〜
Point-1 体長の大きさが、強さに関する全部の優劣を決定づけるとは限らない
Point-2 弱い個体は、水槽を変えても弱い個体のままであることが少なくない



・・・ということは?
 「親子やペアなど、全然サイズが違うのに共存できるのはなぜですか?」という質問が、繁殖シーズンに近づくとよく寄せられます。親子の場合は別として、ペア組みした個体同士の大きさに相応のサイズ差がある場合、それでも対等な関係が維持できてしまうのは、確かに不思議に思えるかも知れませんね。
 もちろん、個体の強さについて、その優劣を考える場合、「大きさの違い」というのは非常に大きな要素です。7センチの個体と15センチの個体とを同じ水槽に入れれば、誰だって15センチの個体の方が強いと考えることでしょう。実際、8割方、それで決まるといっても過言ではありません。
 しかし、必ずしもそれがすべてではありません。残りの2割・・・といってはヘンな言い方ですが、誰から見ても優勢に見える大きい個体の方がコロッとやられてしまったり、ストレス負けして弱ってしまう・・・ということも往々にしてあるのです。特に、いわゆる「老成個体」と呼ばれる超デカ個体の中には、ミドルサイズに追い回されるだけ追い回されて、どうしようもなくなってしまうケースが少なくありません。
 体長以外の要素で見た場合、もちろん「個体の性格」という考え方もあり、キーパーからすれば、やはりこういう部分が一番大きいのだろうと考えがちですが、ザリガニの場合、体構造上、そのような性格の格差を出せるほどの状態まで発達していないので、気が荒い、荒くないという判別は難しい・・・という見方が一般的です。となると、重要になってくるのがポジショニングの問題でしょう。水槽内に新たな導入がある場合ですと、それは当然ながら、既存順位に割り込むケースであろうと思います。水槽内ですでに自分のポジションを確立している個体の場合、自分より大きな個体が入ってきても、平然と仕掛けるシーンをよく見るものです。自分の陣地を持ち、そこに生活の基盤を確保している場合ですと、通常、退避などについてもその方法や場所を心得ていますので、仕掛けるだけ仕掛けて、ダメなら上手に逃げられるのです。ましてや、その水槽の中における「親分」だったりしますと「水槽=生きている世界すべて」が自分の掌握下にあるわけですから、何もせずに退避姿勢をとるなどということは、基本的にないと考えてよいでしょう。こういうシーンを見て「こいつは気が荒い」というような表現をするキーパーさんもいるようですが、生物学的な考えで行けば、性格の差異で論じるのはかなり無理があることなので、むしろ「性格的な要素」というよりも「環境的な要素」が、こうした動きをさせているのではないでしょうか? ある水槽でいじめられた15センチの個体を、10センチ前後の個体がいる水槽に収容し直したからといって、そこで一番強い個体になれる保証は、どこにもないのです。結局、どこへいっても追い回されてしまうことが多く、キーパーの安易な感覚は、こういう個体に対してなお一層の追い討ちをかける結果となりかねません。「喧嘩を避けるために退避させる個体は単独飼育以外に考えられない」・・・と多くのベテラン・キーパーが語る背景には、こういう要素があるからです。




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