閑話1(Column-1)

青さと「血統」


このコーナーを更新して行く中で、毎回、多くの方から非常に熱いご意見や感想などをお寄せいただくことができ、私自身、大変勉強になっておりますことを、心から御礼申し上げます。当サイトの場合、何の経済的思惑もなく、守らなければいけない権益も何もないので、あくまでも趣味として、楽しむためにザリガニと向かい合うというアマチュアの立場から、何の損得もなく、様々な情報を提供させていただいているのですが、そのような中で、最近、個体の体色と血統との関連性に関する様々な説や情報が飛び交っているようですので、今回は、作出に関する話題を少しお休みして、この「血統」に関する話題の中から、少し気になる部分を取り上げてみたいと思います。
冷静になって考えれば、私たちが何の躊躇もなく使っている「血統」という言葉自体、実はもっと深い意味で考え直して行かねばならない問題をいくつも抱えているのですが、今回、その問題についてはひとまず置いておき、よく口にされる「青の出やすい血統、出にくい血統」などという言葉のほかに、最近、一部のキーパーの間で話題に上がるような「青の出ない血統」などという、かなり確定的な物言い・・・について、私たちは少し考えなければならないことがあるように思えてなりません。「青を持ってない親からは、青い仔は出ないのです」とか「この血は青が出ないからダメ」とか「この個体の系統は青の資質を持っていないから使えない」・・・とかいう内容のものです。これは、一体どうなのでしょうか?
青い体色の個体の個体価値や個体価格を高めるために、あるいは、比較論的な手法で自分の販売個体や飼育個体の優位性を高めるために、個体やグループごとの青い体色の出方を論じることや、各々の個体価値に格差を設けて行きたい・・・というブリーダーやキーパーの意図は、決して考えられないことではありません。こうしたことは、今に始まったことではなく、ザリガニ以外でもアロワナやディスカスなどでは、もっと多彩に、もっと複雑に論じ合われるのが普通だから・・・です。もし、それが本当に適確な根拠に基づいた、万人の納得を得られる裏付けを持つものであれば、この論法自体、非常に親切で有難いものだといえましょう。しかし、ことザリガニの場合に関して見る限り、実際にはそうでないからこそ、様々な問題や障害が起こってしまっているわけです。
ある一時期のことですが「これは絶対に青くならないと言われた個体が、脱皮後突然青くなりました。どうしてですか?」「青の血を持っていない血統のはずなのに、濃紺の仔がかなり数多く出ています。少し得した気分ですが、理由がわからないので不安な部分もあります」などというメールが激増したことがありました。これはひとえに「青くならないものは青くならない」「青の血を持っていない親から青い仔は出ない」などという確定的な情報が流されたからではありますが、体色の出方を比較論で語られるなら、多少は聞き入れられる部分があるとしても、「絶対に青くならない」と言い切るのは、かなり厳しいものがあるのではないか・・・というのが、少なくともそれなりに長期間、ヤビーと向かい合っている私自身の考えでもあります。
日本の、少なくとも体色追求に主眼をおいたヤビー・キーパーについては、その90%以上の方々が「如何にして綺麗でクリアな青個体を作るか?」ということに心血を注いでいるようですが、現地、特に養殖場では、それとは全く逆の目的に則った様々な苦労や工夫が、日々重ねられています。かなり以前から知られた事実ではありますが、青色の個体は茹で色が綺麗に上がってこないため、食用としてはB級品となってしまうからです。中には、こうしたB級品をペット用として「別出荷」するという、思考の柔軟な養殖業者もおり「時折、M〜Lサイズの綺麗な青個体ばかりがゴッソリと数十匹、市場に出てくることがある」というのは、まさに、こういうルートからの出物であるわけです。それでも、こうした個体の方が「儲かる」というのであれば話も別でしょうが、食用と観賞用との市場規模の違いや、現地における実際の青ヤビーの価値・・・ということを考えれば、やはり養殖業者にとって青ヤビーは「規格外のB級品」という域を出ることはないわけです。そして、日本の青系キーパーが努力したり苦労したりするよりも遥かに真剣に、生活が懸かっている分必死になって「青(B級品)を出さないための工夫」をしているわけです。しかし、それでも毎年数回は、選り分け作業をしなければならないほど出てしまう「青いB級品」・・・。実際の養殖現場におけるこうした厳然たる事実から、私たちは何を感じ、そして何を知るべきでしょうか?
もし本当に青い色が「出ない」血統があるのだとしたら、それは、現地オーストラリアにおいて爆発的な反響と人気を得、そして革命的な養殖生産システムの変更・・・という形となって表れることでしょう。それこそ「家族を養う仕事」として、何千、何万もの個体と、朝から晩まで向かい合っている本職の養殖業者たちが、追求に追求、工夫に工夫を重ねても成し得ないほどの個体が、ホンの数十、数百匹を、それこそたった数年間くらいかじった程度で、見出だせられ得るというのでしょうか? どういう意図で、どういう背景によって語られるのかはわかるべくもありませんが、最近、こうしたヘンな確定論を耳にするたび、どうしても首を傾げてしまうのです。
青い個体を評価するということと、青い個体に価値をつけるということは、とても似ているようですが少し違います。青い個体自体、私は決して嫌いではありませんし、それはそれで実に魅力的だろうとは思いますが、様々な思惑によってその価値を高めたり、あるいはそうした価値を高めて行くこと自体を目的として何らかの情報や方向性を流して行くことには、どうも素直には頷けない部分があるのも事実です。このコーナーのタイトルに、あえて「3000円」という文字を入れたのは、ひとえにこの部分に対する「アマチュア」としての大きな抵抗感があったからですし、実際、ここで「3000円で作れると言われては困る」ような立場の方々からは、公開直後、一斉にこの部分に対する批判や誹謗中傷が浴びせられたわけですが、そうした批判や誹謗中傷が一斉に起こるという現象自体が、今回のような流れを呼んでいる1つの要素でもありましょう。これは、ヤビーが青くなるかどうかという問題以上に、青いヤビーが3000円で作れると言われては困る・・・という人たちが、実際に存在するという証明でもあるわけです。「少しでも値段の高いヤビーを販売して利益を確保したい」「少しでも値段の高いヤビーを所有することで、優越感に浸りたい」・・・。こんな意図を裏に隠しながら「ヤビーの色」が語られるとしたら、私たちキーパーにとっては、決して有利な状況をは起こり得ません。これは、私たち経済的利益とは関係ないキーパーが理解しておかねばならない部分であるともいえましょう。
値段の高い個体や、それに対する価値観自体を否定するつもりはなく、コーナーの冒頭に示してあります通り、そうした価値観を信じ、尊重する方々が、それを購入し、それを眺めて楽しむことは、とても素晴らしいことだと思います。ただ、少なくともそれでなければ青個体を楽しめないということは絶対にないのと同じように、現在の状況や科学、そして養殖・生産技術力においては「絶対に青が出ない血統」・・・というものを作り出せることも絶対にありません。「青くならないといわれていたのに青くなった」「青を持っていないはずの親から青い仔がたくさん採れた」という事例が数多く出ていることでもわかるように、そして、安心の血統をもった青個体だといって買ったにも関わらず、全く似ても似つかぬ体色の個体が生まれてしまう現象が日常的に見受けられるのと同じように、その目的や意図は別としても、安易な確定論で個体の体色を決めつけるのは、かなり難しいのではないか・・・というのが、あたかも「常識」として語られがちになっている「血統論」に対する私なりの考えでもあります。