第10講座(System-10)
選り抜き個体の確認
〜交配個体選択の前にしておくべきこと〜
明け抜きの後、春の脱皮が完全に終了したタイミング、真夏の高温時、そして、秋脱皮完了後・・・というような感じで、個体の生活環境に変化が出てくる各々のタイミングを見計らい、選り抜き作業を繰り返して行きますが、孵化後1年余、大きさにして7〜8センチ程度になってきますと、選り抜き作業もほぼ終わりということになります。それと同時に、目の前には、大きな水槽2本と大小取り混ぜた単独ストック用水槽10数本・・・。ここまでやってきますと、その個体の出来映えとは別に「目的を持った繁殖というのは、生半可な気持ちではできない」という事実が、使用水槽という結果となって現れていることでありましょう。非常に面倒に見えたここまでの作業も、よくよく考えれば、たった1つの種親を作るためだけの作業です。多くのブリーダーたちが、1つの血統を作るために、何年もの期間と何十本もの水槽を費やしているという大変さを垣間見れる瞬間でもあるわけですね。いずれにしても、本当に納得の行く一流のものを作るためには、時間も手間も掛かるものです。そして、それだけの時間と手間が掛かるからこそ、最高に楽しい「趣味」なわけです。
さて、これと同時に、自分なりの選別眼がどうであったか・・・という「結果」が、単独水槽の方にしっかりと表れているのではないでしょうか? まだ経験の浅い方ですと、入り抜き、明け抜きあたりで意気揚々と抜いた個体の中には、上の写真のような体色になってしまっている個体もいるのではないかと思います。第8講座で「抜いた個体は、経過の如何に関係なく、最低1年間は単独で飼い切る」ということを申し上げましたが、特に始めて4〜5年程度のみなさんについては、自分の選別眼を自らごまかすのではなく、しっかりと最後まで見届け、そこから様々な教訓やヒントを得ることが何より大切なことだと思います。実績ある多くのキーパーは、多かれ少なかれ、こうした壁にぶつかり、自らの目に裏切られ、そこから何かをつかみながら、自分の目を養ってきました。「そこまで水槽を用意できなくて」「そこまで真剣に突き詰める気もないし」という程度であれば、青ザリの資質や体色などについて最初から語らない方が賢明かも知れません。青い個体だけなら、いくらでも買い求めることができます。しかし、そうやって集めるだけでは、一番大切なこうした部分について実感的に体験し、自らの知識として蓄積させることはできません。青系「キーパー」か青系「コレクター」かの違いは、こうした部分における話のレベルを聞けば、アッという間に見えてしまうものです。
これらの個体の場合、「元々は青かったのに、環境が不充分だったので褪色した」と考えるのは、あまり適切ではありません。ある程度経験を積んだキーパーであればご存知のことと思いますが、地が青色の個体が褪化してしまう場合、体色の変化はムラ状ではなく、全体的なトーンダウンみたいな形で表れます。頭胸甲部も、茶褐色というよりは青紫褐色のような感じになってきます。雰囲気としては、第3講座の写真に見られる個体のようなカラーリングを思い浮かべてみるとよいでしょう。それでは、さっそくですから、こうした個体について謎解きをしてみましょう。もちろん、個体の体色は、様々な要因が重なって構成されるものですので、すべての事例がこれに当てはまるわけではありませんが、それでは何も語れませんので、あくまでも「全体の傾向」という観点で、話を進めたいと思います。
まず、こうした水色の個体ですが、こうした事例は、特に第一成長個体群の個体を好んで抜いてしまった場合などに頻発するケースです。第5講座の写真で見た場合、1番、2番
あたりの個体を抜くと、こうした形になってしまうことが多いようです。数年前、第一成長個体群をウリにした青色個体が出た際、その色飛びについて色々と問題が噴出しましたが、この写真のような飛び方をした個体については「少なくとも第一成長個体群らしい(極めて早い段階での)選り抜きだけはしていた」ということを意味していたわけで、こうした点から、個体の素性をしっかりと見据えた上での論議をしていたグループもありました。このように、成功であれ失敗であれ、しっかりと自分の手で、目で繁殖研究を繰り返していれば、色飛びの事例からですら、様々な情報をつかみ取るようになれるわけです。ことですが、「色が褪せた」というよりも「脱皮前後などで、たまたま色が青変していたものを抜いてしまった」というケースの方が多いようです。典型的な「薄皮」の個体であった・・・ということになるわけですね。もちろん、これはこれで充分に綺麗ですから、こうした変化過程を熟知した上で、最初から狙ったのであれば「大成功」というワケになりますが、ライトブルー系の場合、今度は「薄殻」であるかどうかのチェックをしておかないと、繁殖自体が先に続かなくなってしまいますから、その点だけは注意が必要です。
一方、こうした褐色系個体になってしまった場合、完全な「選別ミス」か、あるいは第5講座の写真で見た場合、3番の個体を抜き、それが目算通りに行かなかった時などに、こうした体色になってしまうことが多いようです。第一成長個体群の場合、こうした体色の個体は、比較的早くからその特徴が表れてきます。第5講座の写真でいえば、1番の個体の右側に写っている、一番大きな褐色系個体のようなパターンが、成長するとこんな感じの色合いになってくれます。「選定ミス」という、少々厳しい言葉を用いたのはそのためで、もし、明け抜きの段階で自信を持って抜いた個体が、こういう色になってしまった・・・という場合には、選り抜きの判断基準自体をもう少し練り直さないと、無駄なストック水槽ばかりが増えてしまうことにもなりかねません。確かに、稚ザリの段階では、普通の体色の個体でも、脱皮直前などにはそれなりに青みが強く出ることもありますので、そうしたタイミングに運悪く重なってしまうと、見極めがつかない場合もあります。もちろん、それはそれで「脱皮前後の個体の様子」をしっかりと知り、見極めるようにしておいた方がよいという結論に落ち着くのですが・・・。
今回は「青」という観点で話をしていますので、この個体は「対象外」になるわけですが、累代繁殖における「強い個体」という観点では、最も高品質な個体であるともいえます。無理な促成をせずとも力強く育ち、外殻も厚く、しっかりした個体というのは、そうそう見つかるものではありません。そういう意味では、むしろ、大切にしなければならない個体だともいえましょう。他のグループの青個体がヘタってきて、そろそろ抜本的な掛け戻しをしたいなぁ・・・なんていう時は、こういう個体こそ一番好適だからです。
このように、稚ザリからの1年間で、実に様々な失敗と経験をし、そして技量をアップして行くのです。こういう作業を5年、10年と続けて行くことで、ヤビーに限らず、多くの種の繁殖を「狙い通り」に進めて行けるようになるのです。
〜この章のまとめ〜
繁殖に使う前に、選り抜いた個体の結果や経過をしっかりと総括しておく
失敗事例も、その原因を突き止めておくことで次回に活かすことができる