第9講座(System-9)

育成期間中の注意点(3)
〜「みにくいアヒルの子」を探せ〜


第7講座の冒頭でも触れましたが、青個体の作出、そして、選り抜きの技術などについての話が出ると、出てくるのは、常に「抜いた個体をどうする」「色がどう揚がる」という内容の話ばかりで「それでは、明け抜きで選ばれなかった個体についてはどうするの?」という話になると、意外に語られないことが多いものです。ましてや、そうした個体に対するキャッチアップの方法について、本当に真剣に語り合うことや、その技法についての話になると、ほとんど触れられることもないでしょう。多くのキーパーにとって、興味の中心は、あくまでも「自分の目で選り抜いた個体」だからです。抜かれなかった個体は、結局、ぞんざいに扱われて共食いのし合いによる自然減耗に任せたり、さっさと里子に出して個体数整理をしたりしているようですが、自分で納得の行く高質な個体だけ選り抜いた後、飼い切れないと思って里子に出した個体が1年後に大化け・・・なんていう事例も時折聞かれるように、実は、とんでもないヒーローが、この「不合格チーム」の中に隠れている可能性があるのは、第7講座でも触れた通りです。だとしたら、この「不合格チーム」についても、私たちはしっかりと観察し、そして適切な手段を講じられるようにしておかねばなりません。
よく「不合格チーム」という言葉を使いますが、私たちが強く強く認識しておかねばならないのは、この「不合格」という言葉の意味が、それらの個体の本質的な「失格」を意味するものではなく、選り抜き作業をやったその段階、その時点だけにおける「選考対象外」という、ただそれだけのことなのだ・・・ということです。これから成体まで育つまでの間で、グングン色が揚がってくる場合もありますし、脱皮を境にドカーンと変わる場合もあります。それを見逃さぬようにする観察眼を養うと同時に、それを見極めやすくするための環境作りを、私たちはしておかねばなりません。むしろ、こうした環境作りは、選り抜いて単独飼育している個体よりも気を配ってやるくらいのことをしなければならないのです。ここからは、そうした個体の方について目を向けて行くことにしましょう。
ひと口に「間隔」「抜き量」といっても、双方ともに「これくらい」という適正範囲は存在せず、ブリーダーによっても全くといってよいほど違う部分でもありますので、ここでも、あえて「これくらいの間隔で、このくらいの匹数を抜け」という数値的な要素のことは申し上げません。一番一般的なパターンとして、10本程度ストック水槽を割り振れると想定すると「明け抜き後は2〜3ヶ月おきに各2〜3個体、合計8〜10匹」といったところでしょうか?
ただ、ハッキリと言えることは、ちゃんとした技術を持っている人は「それぞれのやり方や予定割り当て本数に応じて、自分なりのきちんとした間隔と抜き量を踏まえている」ということです。つまり、いわゆる薄っぺらな中級マニアのように「たまたま覗いたら、いい色の個体がいたので、思わず抜いてしまった」などという偶然の所産はない・・・ということです。大きな親の腹であったり、孵す親の数が多ければ、その時に採れる仔の数が多いのは当然ですし、仔の数が多ければ、それっぽい個体が出てくる確率が上がるのも当たり前です。でも、それはあくまでも確率の上での話であり、技術の話ではありません。熱く語るのも大いに結構ですが、偶然、そうした仔が何匹か上がってきたのを、さも自分の飼育技術であるかのように語るのは、情けなさのを通り越して哀れさすら漂うものです。だからこそ、結局は「俺の家の水槽は何十本も・・・」とかいうレベルからしか話が立ち上がらないわけで、私たちは、そういう次元とは違う意味で、本当に選り抜きに対する「眼力」を養って行きたいものですね。それでは、とりあえず2〜3ヶ月ペースということで考えてみましょう。
稚ザリの選り抜き作業は、入り抜き・明け抜きを行なったら、春の脱皮が完全に終了したタイミング、真夏の高温時、そして、秋脱皮完了後・・・というような感じで、各々のタイミングを見計らい、進めて行きます。もちろん、毎月のように選り抜きができればベストですが、たいていはこのようなタイミングを見計らって行ない、繁殖後1年でもって最終的な選り抜き完了という形にします。ザリガニの体色は、何らかのタイミングで変わるケースが多いものです。だとすれば、このタイミングをはずしてはなりません。
各々のタイミングにおいて抜いた個体をそれぞれ別水槽に収容し、ある程度の大きさまで育てながら様子を見ましょう。ここで大切なことは、第8講座と同様「一旦抜いたら、最後まで育てきって経過を見据え、変化の勘ドコロをつかむ」ということです。それができないなら、最初から抜かない方がよいでしょう。いずれにしても、本当のプロ・ブリーダーと異なり、限られた水槽本数の中で作業を進めて行く私たちの場合、必要なのは「比較」と「環境準備」、そして「経験の蓄積」なのです。
さて、こうした明け抜き以降の選り抜き作業ですが、これを効果的に行なうためには、ただ「抜く時に気をつけて見て行けばよい」というわけではありません。極論すれば「選り抜く作業を始めようとした段階で、すでに作業の90%は完了している」といっても決して過言ではないのです。
これらの個体が明け抜き段階で選り抜かれなかった理由は、もちろん、その段階で青体色が強くなかったからというのが一番大きなものですが、それ以外には「発現時期またはスピードが遅かった」「薄殻か地青かの判別がつかなかった」という2つが考えられます。いずれも、その段階では本当に青いかどうかがわからなかったため・・・なのですが、すべての個体が、同じタイミングで同じように変わって行くわけではない以上、選り抜きの回数を多くすれば万全・・・とはいいきれないことになります。では、どうすれば、個体の持つ青い資質を見抜けるかということになるのですが、この時期、というより、個体選出の前段階において最も大切なことは「いかにして、青の出にくい環境を作っておくか?」という点に尽きます。私たちが作り出したいのは「青の強い、本当にしっかりした青の資質を持った個体」です。光量調節、高温、軟水・・・など、青が出やすい環境をわざわざ作ってやれば、青っぽい個体の出現比率は上がります。でも、今は、それをやって喜ぶ段階ではありません。「完成品」を手に入れて喜ぶだけのコレクターであれば、確かにそれも有効でしょうが、この段階での私たちの目標は、「青の強い個体探し」です。ですから、ここでは、あえて青の出にくい環境を用意しましょう。硬めの水に明色の底床、トップライトにクリアな水・・・。硅砂にサンゴ濾材主体の強め水循環、太陽光照明に低温維持・・・など、「なんとかブルー」などと名前を付けられて売られている個体が、一発の脱皮で色飛びするような、そんな環境を用意します。それこそ、コレクターがブッたまげるような真逆の環境を用意し、そこで個体を育てて行きましょう。不思議なことに、そんな環境に放り込まれても、青くなる個体は必ず出てくるものです。それこそが「強さの可能性」なのです。青という体色が、ヤビーにとってレギュラーカラーの範疇にある以上、青の出やすい環境に置いて青が出てきても、それは「まやかし」でしかありません。あえて逆の環境に置き、そこで発現して初めて、強さ云々を語れるわけです。実績あるプロの多くが、意図的にこうした環境を作っていることからも、私たちは「強さの見極め方」を学び取らねばなりません。



〜この章のまとめ〜

2〜3ヶ月おきの選り抜きは、季節ごとの特徴とタイミングを重視
あえて青の出にくい環境を作ることで、個体の資質を見極める