第8講座(System-8)
育成期間中の注意点(2)
〜ともに心中できてこそ「信念」〜
選り抜いた個体のストックに関する基本的な考え方は、前項でご説明しました。もちろん、スペースさえ確保すればよいかというと、必ずしもそうとは言い切れません。選り抜きというのは、単に「分ける」というその動作のみを指す言葉ではないからです。そこで、ここでは、選り抜きしてから後の経過観察について具体的に考えて行くことにしましょう。
キーパーからすれば非常に悩ましいことではありますが、彼らの体色変化過程は、実に様々です。
独り歩き開始直後から特徴ある青色を見せている個体もいれば「みにくいアヒルの子」よろしく、稚ザリの時は冴えない体色でも、ある程度成長してから、突然ビックリするような「大物」になったりする場合もあります。また、この逆に、稚ザリの時はいい色をまとっていても、ある時期の脱皮を境にして一気にくすんでしまう場合もあれば、成長するに従って、ジワジワと鈍化してしまい、当初の期待を大きく裏切る個体もいます。これらの微妙な変化の特徴や、その兆候を見極める技術は、多分に直感的なものであり、筆舌尽くし難いものがあるため、やはり、ある程度の数を見、経験を積むことで初めて見えてくるものがあることは間違いありません。でも、それならば経験でもって100%見極められるかというと、そうとも言い難い部分があります。しっかりした実績を持ったプロのブリーダーになればなるほど、こうした部分で安易な見極めをせず、丁寧に育成してから出荷しているという事実が、そうした難しさを如実に物語っているといえましょう。
実績あるプロでさえもそうなのですから、私たちにとって必要なことは、何をおいても「その事例、その事例ごとでの変化や、その経過をつぶさに見届けておく」ということであることは間違いありません。「この色とこの血統なら、仔はみんなこんな個体になる」などと語る風潮もあるようですが、自分の目で見て選り抜いた個体のすべてが、100%自分の思い描いた通りの色を揚げてくれるか・・・というと、かなり厳しいのが実情です。生計を立てているプロですら、完全にはコントロール仕切れないというくらいですから、あまり経験のないキーパーであれば、なおさらのことでしょう。精一杯の慎重さと、すべての能力を傾注し、ある意味、選びに選んだ個体が、育つに従ってどんどんと「フツー」になって行くことほど、キーパーによって悲しいことはことはありません。半年経って、不合格チームの中から、新たな大化け個体でも出てきた日には、それこそ「選手交代」ということにもなろうかと思います。
ただ、こういう時こそ、本当は「我慢」が必要なのです。個体のためにではなく、選り抜く目を養う自分のために・・・。その個体が、狙い通りに行こうが行くまいが、育つに従ってどう変化をして行くのか? 何を境に、どんな要因で、どんな前兆を見せつつ、どう変わるのか・・・? これをしっかりと見、経験として蓄積せずして、繁殖技術の向上は図れません。極端な言い方をすれば、大型個体にでもなれば2〜300個の卵など平気で抱えますし、それだけ孵化させ、育てきることができれば、元々体色の発現範囲の広いヤビーですから、概ねどんな体色の個体でも見つけることができるものです。選り抜き作業をするたびごとに、単純にその時その時でいい色の個体を抜き代えているだけでは、ただ「色分け」をしているだけのことで、体色の変化過程を含めた「要素」を見極めていることにはなりません。言わば「選り抜きごっこ」をしているに過ぎず、何度繰り返しても「有望株」を引き抜ける「眼力」を養うことはできないのです。ヤビーに「熱い」といわれている人たちのトークの中に、意外と薄っぺらな内容のものが多いといわれるのは、実は、こういうような「飼育・繁殖」という部分で一番大切な、そして一番核心になる部分の経験や失敗の蓄積を、他人任せにしていることが多いからではないでしょうか? 実体のない、つまらぬ血統の個体を買い集めて、繁殖ごっこをしていても、眼力はつきません。地道に、そして真剣に、時には完全な「見込み違い」も経験し、そうした「見込み違い」からですら、適切な教訓や情報を得、蓄積して行く・・・。こうした作業を何年も繰り返す中で、初めて「これは、いい個体に育ちそうだ」という稚ザリが「見抜ける」ようになってくるのです。そして、そういう選別力がつくようになってこそ、えり抜きの作業も本当に有意義なものとなってくるのでしょう。
抜いた個体は、とりあえず1年間、しっかりと育ててみましょう。ストライクしようが完全に外そうが、それはそれで、今の実力です。ダメならダメで、何が、どうダメなのか? どこを、どう見ておけばよかったのか? 今後は、どこに気をつけるべきかを、しっかりと学んでおきましょう。失敗も、学ぶ意欲があれば、いずれ必ず大きな成功の呼び水となります。自分の信念と心中するくらいの眼で個体を見、選り抜いて行くくらいでなければ、いい個体を抜けるようにはなりません。
できれば、水平・垂直と2方向から常に観察できるセッティングですと望ましいはずです。変化は、常に側面から起こるとは限りません。「らんちゅう視線」または「錦鯉視線」とも呼ばれる、上部からの観察で、意外な体色の変化に気づくこともよくある話です。よく「衣裳ケースで飼育するようになってから、いい個体を引けるようになった」などという声を耳にしますが、これこそ、垂直視線の導入によって、見方に幅が出た典型例であるともいえます。問屋のストック場などに行かれた経験をお持ちの方ならおわかりのことと思いますが、プロが入荷してきた個体から、好みの個体を選り抜く時、往々にして、上から視線を落として選んでいるシーンに出くわすものです。私たちの選り抜きも、実はこれとよく似ているのです。段組み水槽であれば目抜き段に、少々前寄りで水槽を置いたり、階段型で水槽をセットするなど、平行視線と垂直視線とを確保できるようにするだけでも、観察力は大いにアップするもの・・・。ぜひ、こうした部分から「眼力」を養って欲しいものです。
〜この章のまとめ〜
自分の目で選り抜いた個体は、経過の如何に関係なく、最低1年間は単独で飼い切る
横からだけではなく、上方や下方など、常に個体を多方面から観察する習慣を持つ