第6講座(System-6)

1代目選り抜きのポイント(3)
〜重視するポイントで変わる、選り抜きの基準〜


第5講座の回答編を公開後、問題の「3番」について、様々な方からのご意見をいただきました。「自分なら絶対に抜くし、自分の周囲の仲間もほとんど同じ意見なので、納得行かない」という方から「場合によって、抜くケースと抜かないケースがあります」「私も、3番は最初から外していました。理由は・・・だからです!」と、自説を展開される方まで実に様々! 本当に多くの方が、真剣にヤビーと向かい合っていることは、本当に嬉しいものですね。そう! ヤビーは「コレクション」するために買い漁るものではありません。自分なりの「最高の個体」を作るために、真剣に、そして地道に楽しんで行きましょう。



さて、それでは、前項と同じ写真を載せてみましょう。そして、1つだけ良いとも悪いとも判断しなかった3番の個体について、もう少し考えてみることにします。1番あたりは最初から選ばず「一群の青パスくらい、とっくの昔に知ってらぁ!」なんて豪語していた人の中には、迷わずこの個体を候補の筆頭に挙げた人も多いのではないでしょうか? でも、前項では、あえてこの個体について触れませんでした。こうなると、やっぱり気になる方も多いはずです。それは、なぜか?
少し細かく、突っ込んだ内容になりますが、ここまでわざわざご覧いただける方は、青ヤビーに対してかなり気合いを入れている方であるはずですから、せっかくの機会でもありますので、躊躇なく、この部分の検証もやってみましょう。こういうところまで気がつけるかどうか、そして、実践できるかどうか・・・の違いが、何年か経つうちに、大きな技量の違いになって現れるものだからです。こういう部分ばかりは、本当に何度も繁殖させ、しかも、無意味な「思い込み」を捨てて細かく観察して行かないと、気付くものではありません。
さて、この状況の個体を抜くべきかどうか・・・ですが、実は「どっちの方法(可能性)もある」というのが、正直なところです。というのも、これについては、キーパーだけでなく、プロの間ですら「絶対に抜いておく」という人と「危険だから100%見送る」という人とにスパッと別れているからです(ちなみに、私は・・・「抜いちゃう」派の方ですかね・・・笑)。
「え? どっちでもいいの? なんだぁ、そんなつまらないことかよぉ!」なんていわないで下さいね! 抜くにせよ、抜かないにせよ、その判断理由がわかるかどうかが大切だからです。こうした部分を完全に把握しないと、様々な状況に応用できません。
少しでもわかりやすいようにと、左に拡大写真を用意しました。下が2番、上が3番の個体です。2番の個体が比較的クリアな青であるのに対し、3番の個体は全体的に緑がかった青で、しかも色の乗りが斑(まだら)状であることがご理解いただけると思います。体色の出方としては、もちろん2番の個体の方が完成に近いですし、このまま色が乗ってくれればよいわけですから、3番の個体の方が質的に落ちると考えてしまうこともわからなくはありません。しかし、何度も経験されている方であればおわかりの通り、個体の資質として青が強い個体ほど、こうした時期には、このようなムラのある斑状の体色を見せることが多いものです。特に脱皮頻度の高い稚ザリ期の場合、脱皮前における体色変化傾向を見ると、薄殻の個体が全体的に褪色して行く傾向が高いのに対し、厚めの個体の多くに、こうした斑状の褪色が起こりやすい・・・という特性があります。脱皮が近くなると、資質を持っていない個体でも、それなりに「いい青」を見せることがあるものですが、そうした色の濃さに関係なく、稚ザリ期におけるクリア・カラーの個体が意外と敬遠されるのは、こうした理由によるものです。そういう意味で考えれば、斑状であること自体、ある種の「安心材料」だということもできましょう。誰もが羨むような濃青個体なども、注意して観察していれば、この時期から斑状の濃い色の部分に、クリアな濃青色を見せ始めていることが多く、ここが最初の「抜き基準」であることは間違いありません。私自身、この段階での選り抜きでいい個体を抜けた経験は何度もありますし、「絶対に抜いておく」という人の根拠は、ここにあります。ここで強さを見極めるために、まさに「強さ」を表しているこうした個体を見逃すべきではない・・・というわけです。
ところが、これまた経験を積んで行くとわかる通り、この時期の個体特有の変化特徴として「脱皮直前になって体色が変わる個体の場合、全体的な体色変化ではなく、部分的な体色変化を起こすことが多く、それが、斑状の変色となって現れることも少なくない」という状況があることも忘れてはなりません。この結果、「強さの象徴としてこうした体色の個体ばかりを選り抜いたら、抜いて間もなく片っ端から脱皮されただけで、あとは普通の個体ばかりになってしまった。結局、青の強い個体を抜いたのではなく、脱皮前の個体ばかりを抜いた・・・というだけになってしまい、選り抜きの意味も全然ないし、何をおいても、いい時期での選り抜き判断をし逃してしまった」という現象が起こってしまう危険性があるのです。「危険だから100%見送る」という人の根拠はここにあるわけでして、そういう考えを持つ方々は「仮に今は見逃すとしても、もう少し辛抱して、脱皮が完全に終わって個体が馴染む夏ごろまで見極めてからでいいだろう」という考え方に落ち着くことになります。この時期は、それでなくとも脱皮回数は多く、こうしたリスクも高いことになります。また、この写真の個体・・・ということで見れば、隻腕であるということで、余計に脱皮のペースも上がりましょうから、こういう点から見ても、この時期での選り抜きを見送る・・・という考え方は「アリ」かも知れません。前述の通り、私個人でいえば、ここは「GO!」してしまうケースが圧倒的ですが、冷静に考えてみれば、あえてリスクを犯さずに、この段階では勇気を持って見送るというのも、充分に理解できます。一つの方法に固執せず、使える水槽の本数や選り抜く個体の時期や状況、そして条件などによってこの判断を使い分ける・・・というのも、考えようによっては賢い判断かも知れませんね!
抜くか、抜かないか・・・? 判断や行動は正反対でも、結局は、それぞれの判断基準は同じであり、要は「斑状という体色の短所と長所と、どっちを重視するか?」というだけのことなのですが、ショップやキーパーによって説明が大きく変わってしまうのは、こうした理由があるからなのです。熟練したキーパーやブリーダーと話をしていますと、決まって、この「斑状個体」の扱いについての話が出てきますし、そこでのスタンスを聞くことができます。こうした話が出てくるかどうかで、相手の技量や経験を判断できる部分もありますが、それは、決して「相手の技量を試す」という要素のものではなく、数をこなせばこなすほど、必ずブチ当たる「壁」ですし、どちらの判断をするにせよ、乗り越えなければ先に行けない大切な判断ポイントだからです。1つのやり方にこだわることも悪くはありませんが、自分とは正反対の意見や方法でも、柔軟な姿勢で、色々と受け入れ、活かしてみることも大切だと思います。
たかが1回の選別でも、こうした気遣いをするかしないかで、この後の動きが大きく異なってくるものです。たかが「明け抜き」でも、これだけの配慮ができるようにして行けば、個体は自ずと、そうしたキーパーの熱意に応えてくれることでしょう。



〜この章のまとめ〜

稚ザリがこの段階で斑状の体色を見せる原因には、大きく2つの可能性がある
双方のプラス面を重視するかマイナス面を重視するかで選り抜きの判断は異なる