第5講座(System-5)
1代目選り抜きのポイント(2)
〜将来を見据えた「明け抜き」の選別基準とは?〜
さて、これをご覧になっているみなさんお一人お一人のお考えはまとまりましたか? それではさっそく「この中からどの個体を選り抜くべきか?」という点について考えて行くことにしましょう。明け抜き経験をお持ちの方であれば、今までの再検証として、そして、経験のない方であれば、今後の参考として、ぜひ、お付き合い下さい。一部の方々からすれば、自分たちのやり方以外はお気に召さないかも知れませんが、私自身、今回のこの項目作りは自分にとっても非常に貴重な再検証の機会だと思っておりますので、単に私の取り貯めた繁殖データのみならず、ヤビー青個体について作出実績を持つ10年選手のベテランキーパーのみなさんはもちろんのこと、昨日、今日始めたのではなく、最低でも5年以上やっておられるプロ・ブリーダーの方々にも、これと同じ写真をご覧いただいて、これらのみなさんのほぼ共通した見解による結果を集積し、載せております。ご覧いただいている皆様には、その点だけはご理解いただけますと幸いです。もちろん、こうした人たちの間で見解が異なる点もありますし、経済的思惑などで、どれか1つの考えに無理して合わせる必要もありませんので、違う見解なら違う見解で、しっかりと載せる所存です。
要は「青個体を目指そうとする場合、ある程度以上の経験を積んだ人たちの間であれば、ほとんど共通の見解が得られてしまうほど、この段階での選り抜きは大切に考えられている」ということなのです。そして、こういう基本的な方法を1つずつ忠実に追って行くことができれば、信じられないほどの高いお金を払って、嘘だか本当だかわからない個体をつかまされずとも、思い通りの青個体は作出できるものなのです。
順を追ってどんどん公開して行く予定ではおりますが、意識的に青個体を作出しようとする場合において、絶対にクリアしなければいけないポイントは、この段階を含めて3つあり、それぞれのポイントや判断基準は、ある程度の経験を積んで行くことで、立場や思惑、利害関係や主義主張などとは関係なく、不思議と揃ってきてしまうものです。ですから、これからご説明する内容も、私のような人間が「勝手に作った」というよりも、必然的にそういう結論へ行き着いてしまうのが正直なところですし、長年、真面目にしっかりと取り組んでいれば、どんな立場の方であっても、必然的にこういう抜き方になってしまうものなんですけど・・・ね(苦笑)。
それでは、同じ写真を載せてみましょう。そして、選り抜き候補として挙がりそうな個体に番号を振ってみました。もちろん、番号が振られていない個体を選ぶっていうのもアリですし、番号が振られていない個体は絶対に青くならないわけではありませんけど、一応ここは「明け抜き」の基準ですから・・・ねぇ(苦笑)。今回、番号が振られなかった個体のリカバリーについては、また別の項目で説明しますので、どうぞご了解下さいね。
さて、抜く順番ですが、ほぼ間違いなくこの段階で抜いてよいのは5番の2匹と6番です(番号は振りませんでしたが、しいて付け加えれば、2番の矢印の下に写っている個体もなかなかいいですね!)。また、1番・2番・4番が、いわゆる「ジョーカー」ですね! 特に1番2番の2匹は、この段階ですと完全な「禁じ手」であり、残念ながら一番悪い選択であるといえます。では、なぜ、このような結果になるのでしょうか?
特に青系ブリーダーの間においては、今のブランド・ブームが起こるかなり以前から「第一成長個体群から青個体は抜かない」という暗黙のルールがあります。これは、この時期における青色自体が「必ずしも個体の資質に基づくものであるかどうかの判断がつきにくい」という理由があるからです。特に成長の速い第一成長個体群の場合、かなりクリアな濃青を見せる個体の中には、いわゆる「薄皮」の個体が潜んでいる場合がかなりあります。また、仮に上手く濃青色に仕上がったとしても、その後の仔たちには、なかなか上手くその青が引き継がれないケースがかなり高く見られます。「第一成長個体群から特別に選別した濃青色個体」なんていう謳い文句で個体を買ってきたら、脱皮を繰り返して行くうちに色がトンじゃった・・・なんていう事例は、大半がこういうケースによるものですし、自前の繁殖でも「いい個体だと思って抜いておいたのに、大きくなったら水色になっちゃって・・・」なんていう嘆きのほとんどが、こういう抜き方で薄皮の個体を抜いてしまった結果によるものです。こういう場合、その相手にいくら苦情を言っても「ヤビーは環境や個体特性によって体色は変わるものですから・・・」という説明でごまかされてしまうことも多いようですが、それだったら、最初からそういう体色を価値化して値段を変える売り方をする方がおかしいわけで、実際には、選り抜いて販売する段階で、こういう部分にまで配慮していなかったり、あるいはこういうこと自体をまったく知らない人が選り抜きなどに携わった時などに起こるケースが大半です。逆に、しっかりしたプロの手によって出荷された個体に、そうした色飛びや色落ちなどが少ないのも、こうした作業がしっかりできているからに他なりません。プロ・ブリーダーの人たちが一群をわざと見送って選り抜きをするのは、こうしたクレームが過去、何度もあり、それに対して誠意を持って対処、研究してきた成果であるともいえましょう。逆に、一時期「一群抜きの青」を謳うブランド個体が恐ろしいほどの値段で取引されたことがありましたが、結局、一部のマニアを除くと非常に冷ややかな評価が与えられたままで終わり、青系キーパーの間で最後まで主流になり得なかったのは、結局、こうした根本的矛盾を最後まで解決できなかったからなのではないかと思います。もしかしたら、そうした矛盾があることすら、知らなかったのかも知れません。いずれにしても、その後、このブランド個体に対して「1度脱皮しただけで簡単に飛んだ」「仔を採ってみたけど、こんなハズじゃなかった」「狙った通りの色にならない」などという辛口のコメントがあちこちから噴出したことは、ある意味、仕方ないことでありました。
こうなると、キーパーは異口同音にショップやブリーダーを批判するものですが、私自身、その動きにはあまり賛同できません。どんなきらびやかなセールストークが並ぼうとも、買ったのはそのキーパー本人であるからです。「値段は価値に反映される。高品質のものだから、値段が高いのは当たり前」という一般経済の常識が、少なくとも現時点では、ヤビー青個体の場合、全く通用しないのだ・・・というのは、昨今のブランド旋風と、その後に続々と噴出したキーパーに対する厳しい現実とを考えれば、ご理解いただけることでしょう。ヤビーの場合、値段が高いということが、決して品質的な安心や安定を保証するものではない・・・からこそ、余計にこうした部分を見極められるしっかりとした姿勢と選別眼が必要になるわけです。一部には「育ててみないとわからない、スリリングな賭けの部分が楽しいのだ」という考え方があることもわかりますが、飼育はギャンブルではありませんし、ヤビーの対象を投機の対象でもあるかのように考えるスタンスは、私たちヤビーを本当に愛する人間からすれば、少し悲しいことでもありますよね。
さて、そうした内容の話はおいておいたとして、この「薄皮」という言葉ですが、実はキーパー間での使い続けられている完全な造語であり、生物学的な裏打ちのある言葉ではありません。従って、餌変色などの個体みたいなケースと違い、甲殻の厚さ自体を示す言葉「薄殻」ではないのです。あえて言えば「カロテンが沈着するクチクラ部の厚さ」みたいな説明になるかも知れませんが、いずれにしても生物学的な裏打ちはなく、従って、稚ザリの段階では「薄殻」のように目視レベルで確認できるものではありません。あくまでも経験の蓄積から得られた俗則で「この段階から青の発色が強く、クリアな個体の中には、成長するに従って多くの個体に色飛びが起こり、それは特に一群の個体に数多く見られる」ということなのです。今、多くのみなさんが、変てこなセールストークで購入した個体の色飛びや色落ちで悩み、落胆しているのとまさに同じ経験を、今のブランド・ブームが起こる遥か以前から、多くのプロ・ブリーダーやキーパーが経験し、クレームとして飛び出し、そうした経験を重ねているからこそ、ここでこうした内容が説明できているわけです。
このような理由で、第一成長個体群の青個体は無条件に外し、第二成長個体群以降から見て行くわけですが、2番や4番などの場合、色がクリアである反面、今度は薄さが目立ちます。こちらの方こそ、いわゆる「薄殻」と呼ばれる甲殻の薄い個体です。特に2番の場合、完全な脱皮間期であるにも関わらず、これだけ透けてしまっていると、仮に沈着して厚くなってきたとしても、なかなか綺麗な青には染まってくれません。1番と2番の違いを見れば、同じクリア・ブルーでも「薄皮」と「薄殻」とでは、かなりハッキリした違いのあることが理解できますよね。
また、これに比べれば4番はかなりまともな方だとは思いますが、それでも青自体の出方が弱く、行ってスカイブルー系までかな・・・という感じもします。色の狙い方によっては4番もいい個体にはなりますが、濃青色狙いであれば、これは見送りになります。これらを考えて行きますと、現段階で最も色がしっかり出ているのが、5番と6番(と2番の矢印の下の個体)だ・・・ということになるわけです。
さて、この解答編で1つだけ良いとも悪いとも判断しなかった個体がいます。そう「3番」ですね! 1番あたりは最初から選ばず「一群の青をパスしなきゃならないことくらい、わざわざ改めて説明されなくたって、とっくの昔から知ってらぁ!」なんて豪語する人はかなり多かったことと思いますが、その中には、迷わずこの個体を候補の筆頭に挙げた人もかなりいるのではないでしょうか? 実はこの部分、青個体の選り抜きについては非常に重要なポイントを含んでおり、しかもその手順や、ここで抜くべきか抜かざるべきかについては、各ブリーダーやキーパーごとの判断に、大きな差異が見受けられる部分でもあります。これは、非常に大切なポイントですし、今回、5番と6番の個体がなぜ選ばれるのか・・・という点を裏付けるためにも、見極めておきたいポイントであるといえます。少々突っ込んだ内容にもなりますので、これについては改めて次の項にてご説明しましょう。
〜この章のまとめ〜
第一成長個体群の青個体抜きは失敗の元になるので避けるのが長年の通例
同じクリア・ブルーでも「薄皮」と「薄殻」は全く異なるので、双方に気をつける