第4講座(System-4)

1代目選り抜きのポイント(1)
〜「入り抜き」と「明け抜き」は、抜き方が違う〜


青個体作出プロジェクトでの第1回繁殖は、上手く行きましたか? お盆過ぎの水槽は、かわいいチビたちで賑々しいことでしょう。時期が少し後にずれるとはいえ、基本的な繁殖方法に違いはありません。「えぇ〜っ! 繁殖方法わからな〜い!」なんていう人は、別コーナー「ごり押し繁殖講座」を読んでからここに来るように!(笑) 唯一、違うとすれば、高温クリアをしないことくらいでしょうか。この段階では、とにかく「個体の資質」を見極めることが最も優先されるポイントです。高水温という環境は、ある意味「少々青の弱い個体でも、それなりには青が揚がってしまう」環境なわけですから、こちらがわざわざそういう環境を用意して、選り抜きの基準を甘くする必要はないわけです。もっとも、稚ザリたちがハッチアウトする時期は、それでなくても一年で最も水温が上昇する時期ですから、それ以上水温を上げることなど、ハナから必要ないわけですけど・・・。
強い個体を求めるための累代繁殖であれば、ここからの数ヶ月間は、完全な「サバイバル期間」ですので、大抵は親個体も同居させたまま、徹底した「生存競争」をさせておきますし、キーパーによっては、10数匹に絞り込まれるまで、餌やり以外のケアを全くしない人もいます。しかし、今回は、違った意味で「いい個体」を探す必要がありますので、できるだけ多くの「ターゲット」を残すため、親はハッチアウト完了後、速やかに水槽から出してしまいましょう。また、あまりに稚ザリの数が多いようでしたら、換水などの機会に水分けをして、2つの水槽に分けてしまうのも一考です。2本に分けずとも、1本の水槽を2階建てにするテクを導入するキーパーも少なからずいらっしゃいますね。いずれにせよ、できるだけ多くの個体を残しつつ、秋を迎えるようにしましょう。
さて、朝夕の気温もだいぶ下がるようになり、いよいよ越冬に向けた準備に入る季節になります。越冬の方法についても、特に変わったことはなく、一般的な越冬パターンで対処するようにしますが、青個体作出を念頭においた場合、通常、この第1回目越冬を挟んで、前後各1回、合計2回の選り抜きを行なうのが普通です。これについてはキーパーやブリーダーによっても呼び方は様々ですが、越冬前の選り抜きを「入り抜き」、越冬後の選り抜きを「明け抜き」と呼ぶのが一般的です。同じ選り抜きなのに、なぜわざわざ違う名前が使われるのか・・・? 私はプロのブリーダーではありませんので、その正しい由来までは知る由もありませんが、様々な方の方法やご意見から類推するに、作業こそ同じであるものの、双方の目的や方法が全く違う・・・という部分から、このような呼び方が定着したのであろうと思われます。特に、青個体作出を考えた選り抜きの場合、目先の青さに惑わされるあまり「入り抜き」段階での選り抜き基準を完全に見誤り、本来とは全く逆の抜き方をしてしまうことが多く、その結果、いい資質を持った個体を選り落としてしまう可能性がありますので、ここでの方法の違いは、しっかりと理解しておいた方がよいでしょう。
稚ザリまたは亜成体の無加温越冬を経験されたキーパーのみなさんであればご理解いただけると思いますが、巣穴などを掘って、自分だけの越冬スペースを作ることのできない稚ザリたちの場合、真冬でもそれなりに動き回ったり、餌をとったりすることが多いものです。元々の個体密度が高いという背景もあるにはあるのですが、越冬期間中でも平然と共食いの惨劇が起こるのも、稚ザリ水槽ならではの特徴といえましょう。前述の通り、ここでの最も大きな目標は「越冬明けの段階で、できるだけ多くのターゲットを残す」ことです。共食いによる減耗を最小限に食い止めるために選り分けるとすれば、そう! サイズごとの選別ですね! つまり、いい青個体を作り出すという目的があるからこそ、入り抜きの段階では「色」という要素を外して考える・・・ということなのです。特に、第二、第三成長個体群からいい個体が出やすい青個体作出では「後追いチームを、どう落とさずに明け抜きまで持って行けるか?」ということが、キーパーにとって最も大切であり、また技量が問われる部分なのです。
ここでは、基本的に使える水槽本数によって考え方が変わってきます。もし、他に使える水槽が1本だけならば、ある意味、一番活動的で、しかも周りを襲いやすい第一成長個体群の個体を体色に関係なく抜いてしまいましょう。「体色に関係なく」というポイントを、ここでは絶対に忘れないで下さい。
もし、他に使える水槽が2本あるのであれば、第一成長個体群の個体で1本抜き、第二成長個体群以降で動きの活発な個体を抜いてもう1本に収容します。さらにもう1本あるのであれば、そこで初めて、第二成長個体群以降で青色の強い個体を抜くことになるわけです。
さて、ここまでご説明をしますと、「じゃあ、第一成長個体群で青い個体がいる場合、どうしたらいい?」という突っ込みを入れたくなる方が少なからずいらっしゃることでしょう。確かに、青個体を目指す以上、ここへこだわり炊くなる気持ちも、わからないではありません。しかし、ここでそのような安易な抜き方をしてしまうからこそ、後になってから大きな回り道をしなければならなくなるのです。そのことは、もう少し後の項になってからご説明いたします。それでも納得が行かない、あるいは、どうしても引っ掛かりがある・・・というようでしたら、使える水槽がさらにもう1本ある場合だけ、抜いてみてはいかがでしょうか? 本当なら、そんな個体に水槽を割り振る余裕があるのなら、後追いのチビたちを別に選り抜いて収容してやった方が、よっぽど有効なんですけど・・・ね(苦笑)。
青系キーパーにとっては、抜き方が逆であるかのように思われるかも知れませんが、将来的にいい個体を取りたいと考えるのであれば、2本目、3本目、4本目・・・と、選り抜く順番を間違えないことが大切です。そして、この段階では、くれぐれも「1匹抜き」はしないように! 今は、まだ1匹抜きをする段階ではありません。焦りと手抜きは禁物! ここでの安易な選り抜きは、結果的に自らの個体の品質を大きく落としてしまうことを自覚しなければなりません。



〜この章のまとめ〜

その時期の選り抜き作業が「何の目的で行なわれるのか?」を充分に理解する。
入り抜き段階で考える限り、第一成長個体群の青個体抜きは最も後回しで全く問題ない。