第3講座(System-3)
繁殖時の注意点
〜時期をずらすことで発生する問題点〜
「言うはやすし、行なうは難し」とは実に言い得て妙な言葉で、「青個体を作出するためには、繁殖の時期をずらして臨むのがベスト」と言われ、頭の中ではわかっても、いざトライするとなると、予想外のトラブル頻発に頭を抱え込んでしまうことが多いようです。この章では、実際にそうした段階に入る前に、予想される問題点や解決方法などを少しだけ触れておきましょう。
繁殖時期を後ろにずらすことで起こるであろうトラブルは数々ありますが、その中でも最も大きいのは、やはり「メスの空撃ち」であろうと思います。空撃ちは、それ自体が余計なエネルギーの浪費であるばかりか、空撃ち後、次の回の卵数や卵質にも決してよい影響は及ぼしません。また、一度空撃ちしてしまうことで、栄養面など、最初から組み立てなおさねばならない部分が出てきてしまい、下手をするとベストシーズンに間に合わなくなってしまう場合もあります。さらには、(これについては何ら学術上の裏付けがありませんが)「空撃ち癖」といって、一度空撃ちさせてしまうと、個体によっては、ほとんど毎年のように、そうした行動を繰り返してしまう場合があるようです。こうなりますと、個体にとってもキーパーにとっても、たまったものではありません。
メスが、どういう要素を契機に産卵活動に入るか・・・については、実に数多くの要素が挙げられていますが、中でも、非常に大きいとされているのが、水温と日照時間という2つの要素です。これについては細かい飼育データ、そして研究データが出されていることもあり、凄腕キーパーの中には、こうした部分を応用して自由自在に繁殖をコントロールしている方もいるようですが、実際、そこまでの知識や技術がないとトライできないものでもありませんので、心配は無用です。大雑把な言い方でまとめると「できるだけ低めの水温を維持し、(遮光まではいかないものの)光の照射時間または照射量を少なめにして、あまり派手な活動をしない状態にしておく」ということになりましょう。「低温・暗め」といいますと、10度以下の暗黒水槽・・・なんてイメージを持たれる方がいるかも知れませんが、もちろん、そんなオーバーなものではありません。2段組みの水槽なら下段に、日なたか日陰かとなれば日陰に・・・程度でよいでしょう。ヤビーの場合、14度近辺から繁殖活動に入れる状態になり、18度あたりになると、かなりの個体がそういう動きを見せてきます。クーラーを入れる・・・という必要まではありませんが、だいたい6月いっぱいくらいまでの間、できれば15度以下レベル、高めでも20度以下レベルまで抑えておけるとよいと思います。もちろん、必要以上に温度を下げ、無理に低温で押さえつける必要まではありません。25度ラインの水温で「繁殖活動をするな」というのは、腹ペコの犬に「待て」を続けさせるのと同じくらい、酷な話です。日照時間についても、一般的に14時間程度が1つの目安とされているので、遮光までは行かないまでも、蛍光灯の点灯時間を最低限まで減らし、涼しく、静かで落ち着いた環境を用意してやるようにしましょう。
もう1つ起こりやすいトラブルを挙げるとすると、やはり「抱卵期間中のトラブル」ということになりましょうか? 実際にこの時期の抱卵を経験された方ならご理解いただけると思いますが、一般的に水温が上がると、産卵から孵化までの期間は短くなるものです。しかしその反面、水カビなども発生しやすくなるほか、何らかの原因によって一度卵がダメージを受けると、次々と落卵して壊滅することも少なくありません。水の傷みや水質の偏りが卵に与える影響も、高水温状態ではより大きなものとなります。6月ごろの通常繁殖であれば何とかクリアできるようなことでも、この時期ではクリアできないことが多くあるわけです。もし、クーラー付きの恵まれた水槽であるのなら、繁殖期間中の水温を20〜25度ラインに抑えることで、こうしたトラブルを予防することもできるのですが、たかがヤビーにクーラー付き水槽を用意すること自体、あまりに現実味のない話です。
本来であれば「30度超えの環境でもトラブルなく孵化までたどり着けるだけの繁殖技量を持て」ということになるのですが、いきなりそれを要求するのも酷な話ですので、まず、1.餌にせよレイアウトにせよ、水が傷まないことを最優先させる 2.小型ファンや濡れタオルなど、水温冷却のための工夫を怠らない 3. 限界いっぱいまでエアーを入れ、酸素を充分以上に溶け込ませる の3点を万全にしておく必要がありましょう。それでなくても、抱卵中のメス親は、塩ビ管の中や流木の陰など、水の流れがあまり強くない場所に引っ込みがちです。水槽内に「水の澱むエリア」を作らないよう、メスを導入する前の段階で、ある程度大雑把なレイアウトを考えておいた方がよいでしょう。事前に抱卵中のメスの動きを予想し、陣取りそうな場所を常に新鮮な水が通るように濾過水流をセットできればベストです。どんなに上手く産卵してくれたと言っても、壊滅させれば「空撃ち」とおなじことです。より多くの個体から種親候補を選ぶためにも、ここでの繁殖は「環境が少し違う状態で、1匹でも多くの個体を孵化させる」ということを、最大の目標として考え、実行して行かねばなりません。
〜この章のまとめ〜
繁殖時期がずれることで起こり得る問題点を事前に予想し、回避する。
空撃ちと抱卵中のトラブルは、その後の繁殖計画を大きく遅らせる原因になる。