第2講座(System-2)

繁殖のタイミング
〜いい個体を作出するための繁殖とは?〜


さて、元親が決まりました。じっくり育て(あるいは選び)、準備万端です。さぁ、それではスタート・・・と行きたいところですが、ちょっと待った! 青個体を作出するということを目的に動いているからには、すべての行動を、その目的に合わせなければなりません。ただフツーに繁殖させ、ただフツーに青い仔を採るくらいなら、元親選びでさえ、ここまでこだわる必要などなかったのです。
では、「青個体を作出するための繁殖」とは、普通の繁殖と一体どう違うのでしょうか? 投餌も、そして水温・水質設定も、そして、隔離のタイミングも、通常の繁殖と何ら変わりません。唯一変わるのは、繁殖の「時期」なのです。
通常、ヤビーの繁殖は、春から初夏までがベストシーズンです。越冬明けの脱皮・栄養補給をキチンとクリアし、夏前までに独り歩きを始めさせ、じっくりと育て上げる・・・というパターンが一般的ですよね。オーバーペースは禁物ですが、このやり方で行けば、第一成長個体群は余裕で無加温越冬に入れます。
ただ、今回は違います。青個体作出を意識した繁殖をしようと考えた場合、繁殖開始のベストシーズンは初夏から晩夏! つまり、通常よりも約2〜3ヶ月程度遅らせるようにするのです。連続交配における「2番仔」の時期・・・と考えればピッタリでしょう。あえて、この時期にスタートを合わせるようにする・・・。これが、いい青個体を作出するための「第2の工夫」です。
なぜ、そんなことをしなければならないか・・・? これが瞬時にご理解いただける方は、多分、ヤビーの体色を相当研究されている方でございましょう。もちろん、今回は、これから作出にトライされる方を対象に設けているコーナーですので、しっかりと説明させていただきます。
ベテランキーパーが個体について話している時、みなさんは「こいつはかなり強い青を持ってるよ」なんて言葉を聞いたことはないでしょうか? 青が「濃い」でも「美しい」でもなく「強い」・・・。中には、誤解されたり誤用されている方もいらっしゃるかも知れませんが、「強い青」=「濃い青」ではありません。「こいつは強いライトブルーだ」という表現もあるように「強さ」と「体色の濃淡」は、本来、全く関係ないのです。ここでいう「強さ」とは、様々な外的環境の変化に対して、自らの体色を維持できる力を指す・・・と考えればよいでしょう。つまり、「青の強い個体」とは、濃いとか薄いとかいう問題とは一切関係なく、青系キーパーの理想の1つである「丈夫で色が飛びにくい」個体だということになります。濃青色系ではなく、スカイブルー系の個体を追求しているキーパーのみなさんは「青の弱い個体」を選ぶのではなく「薄青の強い個体を選ぶ」ようにする・・・というようにお考えいただければよいと思います。
では、そういう部分をどうやって見分けるのでしょうか? 見分ける方法はたくさんあるのですが、まさか、取っ替えひっ替え違う水槽にぶち込んで行くわけに参りませんし、温度や水質をガンガン変えるわけにも行きません。もちろん、濃い青を選べばよいというわけにも行きませんし、一時的な体色だけで決めてしまうのであれば、今回のコーナー自体が全くの無駄になってしまいます。全部の個体を、すべて水槽を別にして成体まで育て上げる・・・というのも、理想ではありますが現実味がなさ過ぎます。そこで、今回は、数ある方法のうち、最も簡単で、個体に与える悪影響も少ない方法で見分けようというわけです。それは、ある意味「最も青が揚がりにくい環境」に個体を一定期間くぐらせ、それでもキチンと青を維持できるかどうかで、個体の青の強さを見よう・・・という方法! で、その「最も青が揚がりにくい環境」とは・・・、そう、低水温ですね!
こういうお話をすると、「なるほど!秋仔だね!」と思われる方もいらっしゃることでしょう。しかし、必ずしもそうではありません。ヤビーの秋仔で挑戦するのは、ある意味非常に危険な賭けでもあるからです。体力のない稚ザリを無加温で越冬させる場合、一歩間違えれば丸ごと壊滅します。秋仔ともなりますと、無加温で落とすことなく越冬させるには、温度設定や途中での手入れ方法など、少々テクも必要ですので、独り歩き開始が遅い場合は厳しいこともありますし、通常のキーパーには加温での越冬をお薦めするのが普通です。また、あまりにも稚ザリが小さいと、肝心の体色面や成長格差などで充分な選り抜きができないまま、冬がきてしまう場合があります。これでは、意味がありません。そこで、春仔でもなく、秋仔でもなく、ちょうどその中間に位置する「2番仔」あたりに設定するわけです。具体的にいうと、7月上旬ペアリング開始で中旬抱卵、8月上旬孵化の下旬ハッチアウト完了・・・という感じでしょうか? 水温が本格的に下がり始める10月下旬ごろまでの段階で、第一成長個体群が3〜4センチくらい、平均でも2センチ強くらいまで成長するようにしておきます。ここまで来ると、不完全ながらも、ある程度それらしい体色格差も出てきますから、そこに目をつけながら越冬体制へと入って行くのです。ある程度大きく育ててしまうと、まとめて越冬させるだけの水槽やスペースの用意が大変ですし、かといって、いわゆる「見た感覚」での選り抜きは、いい個体を抜き落としてしまう原因にもなります。いい個体を選り抜くための第一関門を「越冬」におくために、繁殖時期をずらしてしまう作戦をとるのが、いい青個体を作り出すための大きなアイデアであるといえましょう。もちろん、これを実現させるにはいくつかの問題点と、それを克服するための方法がありますが、それは、次で触れることとしましょう。



〜この章のまとめ〜

個体の持つ資質(青の強さ)を見るために、まずは越冬を経験させる。
越冬に照準を合わせて繁殖時期を設定するくらいの柔軟さが肝心。