第1講座(System-1)

元親の選定
〜長期的なビジョンに立った土台作りが肝要〜


ヤビー青個体に対するニーズや付加価値化については、最近になって急に起こってきたような印象をお持ちの方も多いようですが、考えてみると、古くは1990年代前半の「ヨーロピアン・ブルー」「ロンドン・ブルー」「ミッドナイト・ブルー」などの時代からあった話で、決して昨日、今日というレベルで生まれてきたわけではありません。ただ、青系キーパーの方々を観察、いや、お付き合い(笑)をさせていただき、非常に面白いのは、当時も今も「青系にこだわり、凄い色の個体を作るキーパーほど、なぜか元親用としては青個体を買いたがらない」という不思議な共通点がある・・・ということです。これは、一体どうしてなのか・・・? この答えこそが、今回の一番大きなテーマであり、クリアすべき課題なのです。
いきなり結論的な話を持ち出すのもおかしいのですが、青系にせよ緑系にせよ、思うような体色の個体を作り出すためには、2〜3回の内掛けを繰り返さざるを得ない場合もあります。また、掛け合わせる相手の個体が、非常に近い交配関係にある可能性もゼロではありません。すでにご承知の通り「交配過程で溶けや奇形が出た場合、それ以上の交配継続は不可能」となりますので、すべての作業開始に先立って最も大切なことは「多少続けて内掛けしても、ビクともしない丈夫な個体」を作り出すこと・・・なのです。冒頭で「青系にこだわり、凄い色の個体を作るキーパーほど、青個体を買いたがらない」という説を紹介したのは、そういうキーパーが新しい血(元親個体)を導入する際、まず「丈夫さ」に力点を置いて個体選んでいる・・・ということを象徴していたからです。青系キーパーにとって最初の、そしてたぶん最大のミスになるのが、この部分ではないでしょうか?
「そうは言うけれど、最初から青個体を選んだ方が手間も省けるし、自分の思い描いている形質(色質)を持った親をこの目で見て選べるわけだから、かえって有利ではないか?」
という声も少なからず耳にします。確かに、それも頷ける話です。しかし、それは、現在の青個体が、どういう形で生産されているかをご存知ないからこそ言える話であり、また、ご自分での繁殖経験が少ないからこそ言える話でもあるのです。
前章でもご説明しました通り、青いヤビーを作ること自体は簡単です。ネットオークションなどでの販売目的なら、それこそ「その時さえ青ならいい」のですから、余計簡単です。ショップで販売されている個体でも、きちんとした商業ブリーダーの手によるものでしたら別ですが、粗雑でいい加減なセミプロ・ブリーダーの個体や、いわゆる「持ち込み系」といわれる引き取り個体などには、前章のような過程で生まれた個体も多いものです。しかも、趣味と商売とを並立させようなどという中途半端な考え方ですから、採れた個体のうち、一番いい個体は自分用として手放さず、それ以外の余剰個体をショップへと持ち込むのが普通ですから、あえて名前を付けるとすると「インスタント・ブルーB級品」とでもいうべきものになってしまいます。そうした個体の中ですら、それなりに綺麗な青色の個体はいるものですから、ついつい、そういう個体を選んでしまう可能性もある・・・というわけなのです。
この段階でキーパーが必要なのは、強い個体です。綺麗な個体ではありません。自分が思い描く最高の個体を作るために、何度かの厳しい交配などにも耐え得る、丈夫な個体です。体色という要素は、そうした状況が揃って、初めて着手すべきものです。殻が厚そうで動きもよく、きちんとしたポジショニングを取っている個体こそが「今、選ぶべき個体」なのです。この順序、あるいは優先順位のミスが、初心者の陥る最初の、そして最大の落とし穴であるといえましょう。
大切な元親となる個体です。できることなら育成もしっかりこの手で行ないたいものです。このことから考えると、オス・メスともに全く別のルートで入手したヤビーを各2匹ずつ用意して繁殖させ、そこから採れた仔の中から、じっくりと種親候補を選ぶことができれば最高でしょう。ただ、そこまで徹底するのは難しいでしょうから、水槽に余裕がない状態であれば、実際には売られている稚ザリの中から丈夫そうな個体を選んできて自分で育てるか、それも厳しければ、丈夫そうな成体をそれぞれ全く違うルートから選んでくるかのパターンが現実的であろうと思われます。要は「何をおいても、どっしりとした基礎作り、土台作りを行なう」ことに尽きましょう。ここでの「手抜き」は、後で大きく響いてきます。「あともう1代掛け合わせれば、最高の個体が出てきそうなのに・・・」という時に奇形や溶けが出始めたら、それこそ悔やんでも悔やみきれません。
なお、仮に元親を最初から育てて作るとして、そこでちょっと青い仔が出てきたとしても、それはそれで1つの青個体として取り置き、あえて元親には使わないくらいの心構えは必要でしょう。最高の青個体作りに、短気と浮気心・・・は禁物なのです。



〜この章のまとめ〜

まずは強い親を選ぶ(育てる)ことに全力を注ぐ。
この段階から青体色だけを見て選ぶと後々大きな障害となる。