塩ビ管をセットしよう

 濾過システムが完成したところで、もう1つ、気になっていたのが塩ビ管の投入でしたね。もちろん、単独飼育であれば、これだけの流木をセットしてあるのですから、何もわざわざ塩ビ管を入れなくともザリを飼育することは可能です。ただ、さすがに120cm水槽でザリを単独飼育する人はそう多くない(苦笑)でしょうし、繁殖までも考えれば、かなりの確率で1本の水槽に複数個体を収容しなければならないことになりましょう。ですから、ザリを飼育する以上、必然的に塩ビ管の登場する機会は増えてくることになるワケです。そうなれば、これを機に「塩ビ管セットのイロハについても触れてみようではありませんか。



 さて、それではもう1度、前回までの水槽全景を見てみることにしましょう。いわゆる「眺めてみた感じの美しさ」を重視するのであれば、ハッキリ言ってここにこれ以上の何かを入れて行くことは、心情的に複雑である気持ちも理解できます。もちろん、この状況で飼育できないワケではありませんし・・・ね(笑)。
 ただ、従前より何度も申し上げておりますように、ザリガニというのは明確にテリトリーを設けて生きて行く生き物であり、この部分が不充分な環境下で飼育する・・・ということは、それだけ喧嘩や共食いなどのリスクが高まることを意味します。よく「ペアで入れていれば問題ない」などという意見を耳にすることがありますが、基本的にオスとメスで双方が調和するのは繁殖期が中心で、それ以外の日常期間においては、相手の性別がどうこうということはほとんど関係ありません。ですから「ペアだから安心」というのは、実のところ極めて”危険”な思い込みなのです。
 もちろん、景観的に見てどうしても塩ビ管の投入がイヤだ・・・となれば、それを選ばない方法も存在します。ただ、もしそのようにするのであれば、その塩ビ管に代わる何らかのレイアウトを講じなければなりません。たとえばそれを岩組みや流木などで構成することも不可能ではありませんが、1つ気をつけなければならないのは「私たち人間が外から眺めて美しいと思える光景と、ザリガニが実際に中で生活する上で棲みよいと感じる光景とは全く異なる」ということです。もし、こういったことを流木だけで行なおうとすれば、その量はここに写っているものの2倍以上は必要であり、かつ、見栄えを多少犠牲にしてでも多層的に組んで、全体の表面積をとにかく稼ぐくらいのことはしないとなりません。流木などの投入量が増えれば、それだけ底床のメインテナンスも大変になりましょうから、このことによって掛かる負担も必然的に高くなるのです。そういう部分まで考えた上で、塩ビ管を使うべきか否かを判断しないとなりません。



 塩ビ管は、ホームセンターなどの資材売り場に行けば手軽に購入することが可能です。安いものであれば1個100円以下で購入することもできますから、事前に様々なサイズのものをある程度まとめて購入しておき、必要に応じて使うようにすればよいでしょう。もちろん、新品でもいいですし使い回しのものでも構いません。
 ただし、投入前にはキチンと洗い、汚れや油分などを充分に落としてから投入するようにしましょう。”洗う”といっても、それは洗剤を使って人間が気持ち良く使うように・・・という意味ではありません。あくまで「水質や個体に影響するような汚れを取り除く」という意味での”洗う”ということです。洗剤などを使った場合には、当然ながら充分にすすぎを行なって、洗剤残りが付着したままにしないようにしましょう。
 なお、(現在、日本で飼育できるザリガニの範疇だけで見れば)ニホンザリガニの飼育に塩ビ管を使う場合、別種の飼育に使っていた塩ビ管を使い回す際には、充分に洗った上で必ず煮沸消毒を行なって下さい。これはカビ病の伝染と罹患を防ぐための鉄則です。





 それでは、実際に投入して行きましょう。ザリガニの場合、いくら水槽内を綺麗にレイアウトしても、個体を導入した後に自ら掘り返したり動かしたりして、自ら棲みやすい形に変えてしまうことも少なくありませんが、塩ビ管を配置する位置に関しては、キーパー側がある程度考慮して投入しておくことが大切です。ドボドボッとブチ込むというのが論外であることは申し上げるまでもありませんが、あくまでも個体同士が干渉し合うことのないよう、1個1個をできるだけ離して配置すると同時に、最低でも収容個体数以上の塩ビ管を投入しておくことが大切です。今回は、とりあえず3匹くらいを投入する段取りでいますが、そうであれば最低でも4個は必要・・・ということになりますね。
 なお、ペットショップなどの中には、あらかじめ三角形に何個も組み上げられたシェルターも販売されており、それらはカラーの透明管で見栄えもよかったりしますが、「安心して身を隠す」という観点から考える限り、残念ながら必ずしも好適なシェルターとはいえません。高密度飼育などにおいてはやむを得ずこうした管にも複数で入る場合もありますが、あくまでその個体が他個体の影響を受けず、安心して身を隠せることを最優先で考えるべきでしょう。せっかく開発され、発売されている商品にケチをつけるつもりは毛頭ありませんが、どうせ投入しないといけないのであれば、あくまで個体にとってベストな状況を最優先に考えるべき・・・というのが正直なところです。



 塩ビ管を投入した後の水槽全景を撮ってみました。正面から見える場所に4つ、背面(流木の裏)に2つの、合計6個を沈めてみました。収容予定個体の倍の数を投入したことになります。正面中央に2つ向かい合わせで投入した以外は、すべて互いに互いが見えない形でレイアウトされていることがご理解いただけることでしょう。塩ビ管の投入に関しては、水槽内の景観維持という観点から未だに評価が大きく分かれる部分でもあります。ただ、あくまで「個体を安全に、健康に飼育する」という要素から考えれば、やはり最も手軽で使いやすいツールであることは間違いありません。冒頭でも触れましたが、もしこれらを使わないのであれば、多少の犠牲を払ってでも塩ビ管に代わるシェルター的な場所作りを行なわねばならず、この点に関しては例外なき”鉄則”であるはずです。