青色個体



撮影 佐倉ザリガニ研究所

   佐倉ザリ研の独自データによる  この体色個体の特徴   
   観賞魚界における発見(報告)年と発見地域   平成2(1990)年・新潟県  
主な発見(棲息)状態 個体群型 突然変異型
固定度(形質の安定度)
流通量及び頻度
戻し交配の難易度 容易 困難





 この体色の個体も「我こそが初発見者」を名乗られている方が実に多く存在しますが、様々なルートでの流通データから分析し、総合的に判断して行く限り、少なくとも観賞魚業界で最も早く出回ったのは、新潟県東頸城郡産の個体である・・・とされるのが一般的です(この棲息地は土地開発のため埋め立てられ、現在は消滅しています)。その後、観賞魚関係では新潟、埼玉、千葉、神奈川、静岡、愛知、大阪、奈良、兵庫、岡山、香川などを中心に19例が、比較的地域集中傾向で報告されています。ネット上などでの情報では、それを遥かに上回る「発見報告」が見受けられますが、ご承知の通り、ザリガニに限らず、水生甲殻類の世界では、様々な要因による体色の青化現象が起こることは広く知られており、発見報告の中には、そういう個体もかなり含まれていることが容易に推察されます。餌(栄養分)による変色個体を含め、ここでは、こうした出自の個体については念頭に入れずに説明を進めることにしましょう。
 この体色個体は、大半が「個体群」として発見されるのが大きな特徴です。実際にそれぞれの棲息域に出向いて調査してみますと、確かに大半の棲息域で、出てくる個体は青色ばかりであることが多く、その地域に住む方々にお話をお伺いすると「アメリカザリガニは、あくまで青色であり、テレビや本などで赤いザリガニを初めて見た時には本当に驚いた」と真剣に語られる人にも出会います(JCCのメンバーにも、かつてそういう水域付近で生まれ育ったため、「アメザリ=青色」という認識を強く持っていた・・・という方がいます)。それだけ、個体群傾向が強いことを示唆しています。
 ただ、非常に残念なことに、この体色個体の場合、せっかく発見されても、あっという間に採り尽くされて販売に回されてしまうという個体散逸事例が非常に多く見受けられます。90年代前半の一時期、相次いで発見されたことや、そのころ、白色個体が非常に高い値段で販売されていたことによって「2匹目のドジョウ」的な扱いをされてしまい、次々と採取されて換金されてしまったことなど、時期的なアンラッキーさがあったことも間違いないでしょうが、白色個体に比べると、そういう意味でも不運だったと言わざるを得ません。白色個体と比較して形質の安定度に脆さがある理由の1つに、こうした隠れたマイナス要因も少なからず影響しているのではないでしょうか?
 青色個体は、その体色傾向により、大きく2つのグループに分けて考えるのが一般的です。1つは、薄めの青色地に白色または薄桃色が出るグループ(写真左)、もう1つは、濃いめの青色地に薄橙色が出るグループ(写真右)です。ブリーダー間では、一般的に、最初に発見された地名にちなんで、前者は「埼玉系ブルー」、後者は「新潟系ブルー」と呼ばれています。
 確かに、棲息域ごとに捕獲される個体を数多く見てみますと、1つの棲息域における体色は、概ね同じ傾向に落ち着くのが普通ですが、埼玉県内にも「新潟系」が採れる棲息地は、私の知る限りでも2箇所以上、厳然と存在していますし、関西や中部地方の一部地域では、双方のパターンの個体が同時に採れる場所があることも確認されています。また、同じ個体でも、飼育環境などによっては、何度かの脱皮を経て違うグループの個体と見まがう体色に変化することも少なくありませんし、すべての個体が遺伝形質としてその体色を次代へ繋げるとも限りません。ですから、この呼び方は、あくまでも該当個体における体色の違いだけを示す便宜的名称であると考えてよいでしょう。


 一方、それぞれの稚ザリ(リリース後半年弱程度の亜成体)を、同じ系列で並べてみたのが下の写真です。左が埼玉系(埼玉県産)、右が新潟系(岡山県産)の個体になります。右の写真は、あえて正面向きのものを選びましたが、写っている大磯砂の大きさからも容易に推察できるように、同じくらいの大きさの個体ながらも、特に第1胸脚部などには、確かにそれらしい特徴も出てきています。



 しかし、すべての個体が稚ザリの段階からこうした違いを見せるかというと、そうとも言い切れません。成体の体色傾向に関わらず、特に稚ザリの段階では、どちらも左側の写真のような埼玉系ブルーに近い体色を発現させるケースが圧倒的だからです。従って「薄青色だから埼玉系の個体に育つ」と判断するのは早計でしょう。早い段階から右の写真のような体色になってくるようであれば、それは、成体になった時に、同じく上段右側のような体色パターンの個体に育つ可能性が幾分高いのではないか・・・という程度の判断でよいだろうと思います。これは、他色の個体についても言えることですが、亜成体までの体色は、その後に大きく変化して行くのが常識です。少なくともこの時期までの体色は、補助的な判断材料以上には決してならないことを充分踏まえておきましょう。
 なお、古くからアメザリ青個体を手掛けてきた一部キーパーの方以外には馴染みの薄い話ではないかと思いますが、この体色個体が初めて出回り始めたころ、その流通量は圧倒的に埼玉系ブルー(薄青+白桃)の方ばかりでした。そのため、青個体自体としては新潟系ブルーの方が先の発見であったにも関わらず、観賞魚界におけるキーパーの認知度という点では、新潟系ブルーの方が後発だったわけです。そのため、一部の雑誌やショップなどでは、新潟系ブルーを「ニューブルー」「マーブル・ブルー」として取り上げた経緯があり、継続的に扱っているショップなどでは、新潟系ブルーの個体に対し、今でもこの呼び名が使われることもあります。また、これと同じような理由により、新たに採取された個体であるという点で「ワイルドブルー」という名称が使われることもあります。
 この体色の個体は、その体色傾向の如何を問わず、大型化するに従って多かれ少なかれ褪色するのが普通です。現在も、様々な方法で褪化の回避策が模索されている最中であり、ネット販売などの一部には、あたかもこうした問題を完全に解決したかのような説明がなされた個体が販売されているのを見掛けることもありますが、現実には、残念ながら未だ完全な解決には至っていません。これが、成長するに従って青みが増し、色合い的に落ち着いてくるフロリダ・ブルーと最も異なる部分です。





 この体色の個体を繁殖・維持させる上で必ず知っておかねばならないことは、この体色個体の場合、他色と比較して掛け戻し交配後の色戻りが極端に悪いということです。通常色個体が相手の場合、下手をすると全く戻らないケースも多々報告されておりますので、この掛け合わせは、かなりリスキーかつ無駄骨に終わる可能性の高い選択であるとも言えなくはありません。
 強いて他色と掛け戻すとすれば、相手は自ずと白色個体に限られてくるとは思いますが、それでも色戻りしない事例も報告されています。基本的には、同色同士の交配が大前提にあると考えてよいでしょう。通年出荷体制をとっている商業ブリーダーのケースを見る限り、ほぼすべての方が青色個体に関しては複数のラインを所有していることも、こうした現象が存在していることを如実に証明しています。
 このようなことから、掛け戻しをする場合、同色個体でも、まったく出自の異なる別個体を用意する必要に迫られることになります。埼玉系と比較すると新潟系は流通量も少ないため、もし、タイトル下のような写真の体色を作出したいとするならば、まず、親個体をきちんと吟味して行くところから始めなければなりません。よく、稚ザリを10匹単位でまとめて購入する・・・という事例も聞かれますが、繁殖や維持が主目的であるならば、自ずと、その中から1匹だけを選ぶやり方になります。収容水槽本数に限りがあるのであれば、稚ザリからではなく、親個体を探す方法をとる方が効率的でしょう。ネットなどまで含めれば応分の流通量があり、入手することだけを考えれば比較的楽なのですが、「条件に合う個体」を探すとなると、実はとても難しい一面があるのです。
 種親候補となる個体の購入に関しては、上記のような理由から、出自のきちんとした個体を選ぶことは必要最低限の条件になります。少々面倒であったとしても、できることなら信頼のおけるショップで、買い戻しや引き取り、自家繁殖など以外の個体を取り寄せてもらい、自らの目でチェックした上で購入するくらいの入念さは必要です。こうなると、その個体の価格はネット販売や引き取り個体、自家繁殖個体などと比べて幾分高くなるだろうとは思いますが、その後の手間を考えれば、ここでのコストカットは得策ではありません。
 掛け戻しの作業において、色の戻りが極端に悪いという現象は、ザリガニが「青」という体色を見せるに至る原因が、非常に複雑かつ多岐に渡っている・・・ということを意味しています。餌による体色変化実験でもわかるように、「青」という体色は、ある種の中間的な状況を示している可能性が少なくありません。固定度の問題はもちろんのことですが、栄養その他の問題のみならず、脱皮時のちょっとしたストレス要因や、光量その他の環境的要因によっても、簡単に体色が青化してしまうことは既によく知られていることであり、こうした様々な原因や背景をもって「青い体色となった」個体が、特にネットの世界などでは、一緒くたに「青色個体」として扱われているのも現実なのです。
 たとえば、「1匹のみ発見のワイルド個体・・・として購入したのに、次の脱皮で突然通常色に戻ってしまった」とか、「極美青ザリの仔・・・として、確かにとても綺麗な青色親ザリの写真を見て購入したつもりが、大きくなったら通常色個体だった」・・・などというケースを耳にすることもあるかと思いますが、これは、決して詐欺などではなく、単純に「販売者が、その個体の青い理由をきちんと突き詰められなかった」だけの話だといえましょう。これは、経験や実績によっても違いはあるものの、よほど数多く個体と向き合わない限り、いくらでも起こり得る話ではないかと思います。
 このようなことからも、累代繁殖を念頭において種親個体探しをする場合、稚ザリではなく親個体から選んで行くことは必須ポイントですが、その個体選びも、こういう部分からきちんと見極めて行くことが大切です。少々値段が高くても「信頼のおけるショップで、買い戻しや引き取り、自家繁殖など以外の個体を取り寄せてもらい、自らの目でチェックした上で購入する」・・・というのは、こうした理由があるからです。
 無事に抱卵・孵化し、リリースしてから後の選別作業についても、注意が必要です。上の項目でも触れました通り、この体色の個体は、稚ザリの段階での資質チェックが極めて難しく、亜成体の段階まで全く色読みができない場合もあります。早い段階から選り抜きをすることは決して悪いことではありませんが、抜いた個体ばかりを注視するのではなく、抜かなかった個体についても、応分の気を配っておくことは大切です。自分なりの視点で納得行くペアの間で採れた仔の場合であれば、とりあえず、すべてを育ててみるくらいのスタンスでいてもいいとおもいます。
 「青ザリは売れ残りに福がある」とは、あちこちで聞かれる話ですが、それも、あながち的外れな話ではありません。出荷段階でこうした部分にまで配慮せずに選り抜かれたケースですと、このような「逆の幸運」が起こり得ることも充分考えられるからです。
 また、これらの特徴を踏まえて考えれば、少なくともこの体色個体の場合、色揚がりの遅速と最終的な体色はあまり関係しないと考えてよいでしょう。これは、ブルーヤビーやフロリダ・ブルーの繁殖を手掛けてきて、同じ手法と判断基準で選別を行なってきたキーパーが往々にして陥りやすい部分ですが、意外と奥手の個体に大化け個体が見られることがあり得るのも、この体色個体の大きな特徴の1つです。流通状況に詳しい方であれば気づかれておられたことかも知れませんが、ネット系や自家繁殖系と異なり、商業ブリーダーが出荷する場合、青色だけは全出荷数における稚ザリの割合が低いという現象が見られるのは、こうした意図が働いているからだろうと推察されます。時折、あまり経験の豊富ではないと思われるキーパーの方から「不思議と、青ザリだけは成体クラスの個体だけしか入荷しないショップがある。あそこは品揃えが不親切でダメだ」という話を聞くことがありますが、そうしたショップは「品揃えが悪い」のではなく、むしろ、それなりの目を持ったブリーダーを抱えていて、そこから入れている高品質なショップである可能性があると考えてよいでしょう。事実、その方が指摘したショップは、改めて調べたところ、20年以上出荷経験のあるブリーダーさんを抱えていました。こういう細かい部分から、個体を購入するショップの実力を見極めて行くことも、この体色の個体と真剣に付き合って行く上では意味のあることです。




おことわり


 このページで用いております「新潟系ブルー」「埼玉系ブルー」の呼び方は、区分に関する説明をわかりやすくするために、古くから使われている言葉を便宜上用いているものです。この呼び方は、あくまで商業ブリーダーや青ザリデビュー当初から取り扱っているペットショップ同士、あるいは古参キーパーなどが、電話や会話などで体色の違いをわかりやすく判断するため、いわば自然発生的に使われている呼び方であり、科学的あるいは統計的根拠に基づく地理的特徴を示す名称ではありません。従いまして、佐倉ザリガニ研究所並びにJCCとしては、この呼び方を推奨するものではありませんし、ましてやその個体に対し、何らかの付加価値を示すような名称でもないと考えています。要は「新潟ブルー」だろうと「ニューブルー」「マーブル・ブルー」「ワイルドブルー」だろうと、その呼び方には何の優劣もなく、個体の価値的善し悪しを示すものでもない・・・ということです。
 一般のキーパーからすれば、こうした部分についてはさほど重要視する必要もないことでしょう。もし、一般キーパーの立場から、強いてこれを何らかの「情報源」として活用するのであれば、こうした呼び方を日常的に使っている店員さんを見掛けた時、「あぁ、このショップは、個体の仕入れ先としてそれなりの出荷歴と実績を持ったブリーダーさんを抱えているんだろうなぁ・・・」というような、ショップの実力やルート状況を補完的に判断する材料程度ではないかと考えています。
 ちなみに、これら2グループの体色相違に品質上の優劣はありません。「新潟系の方が流通量が少ない=稀少、高品質」ではなく、あくまで「好み」の違いです。埼玉系ブルーであれば、よりクリアで鮮明な体色が尊ばれ、新潟系ブルーであれば、青地の濃さと橙色の発色コントラストがきちんと出ていればよいわけです。




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