白ヒゲ赤色個体



撮影 佐倉ザリガニ研究所

   佐倉ザリ研の独自データによる  この体色個体の特徴   
   観賞魚界における発見(報告)年と発見地域   平成7(1995)年・愛知県  
主な発見(棲息)状態 個体群型 突然変異型
固定度(形質の安定度)
流通量及び頻度
戻し交配の難易度 容易 困難





 聞き取り調査などにおいては、かなり古くから見られた体色バリエーションですが、白色個体と違って、ザリガニに興味がない一般の方でもすぐに気づくような、非常に目立つハッキリした違いではない分、明確かつ充分な記録や報告、調査・確認作業などがほとんど行なわれておらず、いつ、どこで見つけられたケースが最初か・・・という点についても、今となっては、もはや確かめようがない状況です。ただ、昭和50年代後半には、観賞用として選り分けられ、取り扱われたことを示す情報が残っていますので、観賞魚界における「特別色」という点では、もしかすると白色個体よりも先輩なのかも知れません。ちなみに、きちんと記録が残っている形でブリーディング流通のルートに乗っている個体は、平成7(1995)年、愛知県東部で発見された個体群と、その直後に静岡県西部で発見された個体群が最初の報告となっています。
 また、その後も神奈川県、千葉県、大阪府、埼玉県、新潟県、長野県、岡山県などから続々と発見事例の報告があり、現在では少なくとも26地点以上で、棲息の確認や発見の報告がなされています。流通状況などから、発見エリアは関東〜中部、しかも千葉県、神奈川県、静岡県、愛知県の4県に集中しているように思われがちですが、他の地域からも比較的頻繁に報告があることから、地域的な外的要因だけによる体色変化というよりも、生体の内的要因を含めた複合的要因によって起こっているのではないかというのが、今のところまでの考え方です。実際、このうちいくつかの棲息エリアに直接入って状況を確認してみますと、その環境にも何らかの共通点や統一性が見られるとは言い難い部分があります。



 白ヒゲ個体の魅力といえば、やはり凛とした白色の第2触角・・・ということになりましょうが、むしろこの体色個体の最大の特徴は、白色の触角ではなく、第1胸脚部の小突起(スパイン)にあります。上の写真は、通常色個体と白ヒゲ個体との第1胸脚を表と裏から見比べたものです。それぞれ左側が通常色個体、右側が白ヒゲ個体になります。白ヒゲ個体の場合、ここが赤斑ではなく白斑になり、これが大きな特徴となります。なお、頭胸甲部については、通常色個体でも白斑が出てくる場合がありますので、判断基準にはならないといってよいでしょう。
 ひと口に「白ヒゲ」といっても、この体色個体について累代繁殖を考えるのであれば、その素性は大きく2つのグループに分かれていることを、まず知っておかねばなりません。それは「外観上は全く同じ形質であっても、棲息地や個体発見状況によって、個体群型と突然変異型とに分かれる」ということです。一部に「白ヒゲ=個体群型」という考え方もあるようですが、突然変異型の個体は厳然と存在しています(ベタ赤個体と同じく、比較的頻繁に「餌ザリの中から、偶然に1匹だけ白ヒゲを見つけた」という報告が聞かれるのも、そうした典型例の1つだといえましょう)。一般的に、個体群型では愛知県、静岡県、神奈川県産の個体、突然変異型では千葉県匝瑳郡、神奈川県平塚市産個体などの事例が代表的ですが、同じ千葉県内、神奈川県内でも個体群の存在が明らかになっていますので、これは地域特性ではないと考えてよいでしょう。この素性の違いは、累代繁殖を目指す場合、大きな違いとなりますので、その際の個体選びには注意が必要です。
 また、地域によって若干の体色差がある・・・とした上で、特に白スパイン(第1胸脚部のスパイン)の揚がりが強い個体を「スターダスト系」「スノースパイン系」などとして差別化を図り、特別視するような傾向も一部に見られますが、これらは地域差ではなく、すべて個体差の範疇である・・・と考えてよいでしょう。実際に数多くの個体を繁殖させ、採れた仔の状況を見て行くだけでも実感できるとは思いますが、産地、事例別で個体を細かく見比べた際にも、特にこれを特徴化し、差別化するだけの違いは見当たりませんでした。また、個体群型での発見事例を見てみますと、その棲息域によっては、実に様々な白スパインの揚がり方をした個体や、微妙な体色の違いを見せる個体が一度に出てくることも決して珍しいことではありません(これは、数多くの棲息域で、白ヒゲ個体と色抜け個体とが同時に採れたり、棲息域自体が非常に近接していることからも容易に理解できます)。従って、白スパインの揚がり方や微妙な体色差などについて、その個体自体の善し悪しを論ずるのであればまだしも、これをある種の「血統的な付加価値」である・・・とするのは現実的でなく、累代繁殖の場合、こうした要素を種親個体の選別基準にするのは、かなりの無理がありましょう。
 一方、突然変異型の場合、一部の個体はその形質を全く仔に受け継がないケースのあることが知られています。ともすると、こうした形で発見された個体は「1匹だけの特別個体」的な扱いをされて、もてはやされる傾向もあるようですが、現実に用いてみても、掛け戻しはおろか、同色個体同士の交配でも色が戻らない危険性もなくはありません。そういう意味で、累代繁殖の種親選びという観点では、どう考えても個体群型の出自を持つ個体に軍配が上がります。ただ、前述の通り、外見だけで、その個体の出自(個体群型か突然変異型か)を見分けることは事実上不可能です。
 そうなりますと、「じゃあ、外見上から資質の状況を見極め、何らかの判断をすることは不可能なのか?」・・・という話になってきますし、少なくとも出自を確かめること自体は不可能なのですが、プロ・ブリーダーの中で用いられている判断基準のうち、最も一般的な判断基準の1つに「欠損後の再生肢色抜け度合い」というものがあります。これは、一度欠損し、その後再生した胸脚など(元々の色抜けではなく、あくまで「一度欠損した後の再生」であることがポイントです)が、右の写真のように広く色抜けし、まだら模様のような状況になるケースが見られる・・・ということです。すべてのケースでこれが当てはまるわけではないので、即断は危険ですが、一般的にこうした個体が出てくる場合には、比較的強い白ヒゲの資質を持つ個体であろうと判断するわけです。
 たまに、ショップ関係などの方から、「ずっとアメザリをやっているベテランの常連客が、別に値切り狙いというわけでもないのに、白ヒゲの稚ザリだけは欠損個体ばかり選んで買って帰るけど、いったいどうして?」というお尋ねをいただくことがありますが、これは、そういう買い方をしているそのお客さんが、何らかの情報源によってこの判断テクを知っているからだろうと想像されます。アメリカザリガニは、他の生体と比べれば価格も手頃なため購入もしやすいですから、実際に育てて欠損部を再生させてみることで、その資質の状況をチェックしているのではないかと思います。好きこのんで欠損個体を選ぶ必要はないと思いますが、白ヒゲ個体に関してだけは、こういう資質チェックの方法もあるのだ・・・ということを知っておくと便利でしょう。





 この体色の個体は、他色個体と比べると流通量が少ないため、まず、上質な個体を、できれば成体で手に入れることから考えておく必要があります。ネットオークション上などでは、「稚ザリ20匹まとめて」というような売り方をされているケースもあるようですが、上の項目でも取り上げた理由などから、少なくとも種親候補として考えるのであれば、値段の手頃さ云々とは関係なく、避けた方がよいでしょう。
 また、上の項目でも少し触れましたが、この体色の個体には「個体群型」と「突然変異型」という、2つの素性を持つ個体が1くくりにされて販売されているのが現状です。見た目では全く変わらず、また、その個体単独では違いを判断できる手立てもないのですが、実際に繁殖させてみると、その違いは歴然としてきます。当然、個体群型の出自を持つ個体の方が、その資質は確実に仔へ受け継がれますから、種親として選ぶのであれば、やはりそうした個体を選ぶことが基本であるといえましょう。よく「ネットオークションで稚ザリをまとめて購入したが、全く白ヒゲにならなかった」とか、「ショップで稚ザリを買って育てたが、大きくなっても白色の出方が不自然な個体が多かった」という話を耳にしますが、こうした場合、その個体ではなく、掛け合わせた親の方に問題があったと考えるのが妥当です。アマチュアやセミプロ・ブリーダーの場合、大半が「かき集めてきた個体をとりあえず掛け合わせて仔を採る」という状況でしょうから、そうやって得られた稚ザリが販売されれば、そのような「予想外のトラブル」が起こる危険性が出てきてしまうのも仕方ないかも知れません。そのような意味でも、種親候補を稚ザリから集めてくるのは、決して上策でないと思います。ある程度信頼のおけるショップなどで、出自のきちんとしている個体を成体で選ぶことがポイントです。その際、個体の入荷状況を経時的にチェックするのも、そのショップの実力をチェックする1つの方法かも知れません。
 掛け戻しについてですが、基本的には通常色個体でなく、同色または白色個体を用いるのが一般的です。特に突然変異型個体の場合、通常色個体と掛け戻すと、ほぼ100%白ヒゲの資質は戻りません。個体群型の個体でも、通常色個体が相手ですと、ケースにより、戻る場合と戻らない場合があります。産地の異なる個体群型の個体同士を掛け合わせるのも1つの方法でしょう。白スパインの揚がり方については、あくまで個体差による要素ですので、親の特徴が必ずしも忠実に受け継がれるとは言い切れません。この部分にこだわりをもって作出させて行く場合、親個体の資質にばかり目を向けて行くと、思わぬ遠回りをする可能性もあります。こうした資質は、あくまでもその個体単位で判断して行くことが基本といえましょう。




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