白色系個体
撮影 佐倉ザリガニ研究所
佐倉ザリ研の独自データによる この体色個体の特徴 |
観賞魚界における発見(報告)年と発見地域 昭和63(1988)年・千葉県 |
主な発見(棲息)状態 |
個体群型 |
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突然変異型 |
固定度(形質の安定度) |
弱 |
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強 |
流通量及び頻度 |
少 |
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多 |
戻し交配の難易度 |
容易 |
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困難 |
「色ザリ」という飼育ジャンルを確立させ、観賞魚飼育の世界で第1次ザリガニ・ブームを引き起こし、それまでは「子どもの遊び相手」でしかなかったザリガニを、大人の飼育対象種の1つに押し上げる先導役となったのが、この白色個体です。この体色の個体は、かなり以前からその存在自体は知られていましたが、観賞魚界における個体は、昭和63(1988)年、千葉県木更津市の養鯉業者さんが自ら管理していた養鯉池を池揚げした際に発見したオス5匹、メス7匹の計12個体が、その源流になっています。
右の写真は、当サイトの目次ページに、開設当初から使われているものですが、これが、その時木更津で発見された個体のうちの1匹です。当時は、極めてセンセーショナルなニュースであり、発見個体から採られた仔には、1匹数万円という、現在の販売価格からは考えもつかない非常に高い値段がつけられ、しかも、その個体ですら簡単には入手できない状態でした。前述の通り、いわゆる「色ザリ」ブームの嚆矢であり、第1次ザリガニ・ブームの牽引役となったのが、このザリガニたちなのです。
その後、こうした個体の子孫たちが様々なブリーダーの手で繁殖され、安定した流通量を維持するようになりましたが、その他、完全な白色としては観賞魚関係のルートだけでも19例が発見され、導入されています。ただ、これらはすべて突然変異事例として1〜数匹ずつの発見であり、体色、体型なども、木更津産個体と比較して、さほど大きな格差は見受けられなかったといってよいでしょう。そのため、大半が出荷用ではなく、ブリーダーによる掛け戻し維持用として残される傾向があります。
通常色個体との掛け戻しで充分リカバーできる以上、仮にこれらの個体が何らかの形で差別化されて販売されたとしても、取り立てて大きな意義があるとも思えないことから、一般的なルートでは、この特性を際立たせた形で販売されることも少なく、また、発売する意味合いも小さいであろうと思われます。実際、流通開始後2〜3年が経過して以降は、新たな発見事例が出てきても大きく話題にされることはなくなりましたし、現時点までの間で、こうした要素を際立たせて付加価値化させているのは、ネットショップ、ネットオークション系の販売ルートに限られているのが実情です。
白色個体については、長年、個体群型か突然変異型かで意見が大きく分かれていました。確かに、木更津などでの事例を考えれば、個体群型に近い発現形態を持つと考えるのが妥当です。しかし、発見事例を総合的に検討する限り、個体群型として考えるには、あまりに1エリアごとの発生個体数が少なく、また、同じ地点での継続的な発見事例も皆無に等しいことから、かなり突然変異型に近いものと思われます。体色的に見て非常に目立ちやすく、仮にその地点である程度の個体数があったとしても、外敵から捕食などによって個体が残りにくい側面も考えねばなりません。
この体色個体について「木更津系統の個体は、他の系統の個体に比べて寒色(蛍光系白色)が強いという特徴を持つ」とする説がありますが、実際に相応数の個体を見比べてみる限り、これを地域ごとの特徴だとするには、かなり無理があると言わざるを得ません。実際、どの系統にも大きな差はなく、雑誌などで最初に紹介された時の個体写真の色や、自分の見た感覚などから、こうした認識が生まれただけのことだと考えられます。従って「オフホワイト系=木更津系個体を避ける」という見解や技法には何の根拠もなく、また、その体色傾向から「木更津系個体は外殻が薄い」という推論も全く根拠がありません。
ザリガニに限らず、通常、こうした事例(特殊色や特異体形などが発見される事例)では、その時点での高価売却による個体散逸と消耗という現象が起こりがちですが、この白色個体については、発見した養鯉業者さんの賢明なご判断とご努力により、販売開始に先立ち、充分に時間を掛けた丹念な保護飼育と繁殖維持がなされました。現在、他色の個体に比べて多くの個体が安定的に出回り、誰でも気軽に入手できる背景には、単に、アメザリの繁殖が容易だからというわけではなく、こうした「最初の段階での判断」が大きく影響しているはずだと思います。
この体色の個体は、アマチュア、セミプロのブリーダーによる繁殖個体がかなり高比率で流通している他、ショップなどでの販売用個体が、ストック水槽内で抱卵したりした結果、そこで得られた仔がそのまま販売される・・・などという事例も日常的にあるため、弱化という点では非常に脆い状態にあるといえましょう。
きちんとした個体を得て、累代繁殖を目指そうと考えるのであれば、基本的に購入個体同士の掛け合わせは避けるとともに、まずは通常色個体との掛け戻しからスタートさせるのが常識です。白色個体は、他の色ザリに比較して色の戻りはよい部類に入るので、掛け戻し期間を短縮させたいという理由以外、複数系統の白色個体を維持する必要は全くなく、青色個体などと比較して、系統別の管理調整がほとんどされないのはこのためです。複数系統の個体を所有するブリーダーの場合をみても、万が一の際のバックアップやタイムロス防止のために、販売目的とは別に所有しているケースが大半です。
掛け戻しの対象となる通常色個体の選定についても、棲息個体数の多い場所で採取した、できるだけ丈夫な個体を用いるように心掛けて行けばよいでしょう。もちろん、その個体の体色まで気にする必要もありません。また、一部には「白×赤の掛け合わせをして行く際には、白オス×赤メスのペアよりも赤オス×白メスの方が好成績である」という説明がなされているようですが、これには今のところ何の科学的根拠もないといってよいでしょう。白オス×赤メスのペア組みよりも赤オス×白メスのペア組みが多いのは、その方が色が出やすいというよりも、オスに通常色個体を用いた方が、より活動的でコントロールしやすい・・・という要素が大きく、そうした部分から、こういう説明が生まれてきたのではないかと思われます。
累代繁殖にチャレンジしているキーパーの方々の話を聞いていると、他人より多くの系統の個体を持っていることが1つのステイタスのように考える傾向が少なからずあるようで、実際、「俺は同じ色で3血統ずつ持つようにしている」などと得意気に話しているシーンに出会うこともありますが、他色はともかくとしても、少なくとも白色個体の場合、こうした労を費やすよりも、丈夫な通常色個体を見つけて掛け戻す方が、手間や費用の面のみならず、品質的な面でも、よほど上策です。プロ・ブリーダーの場合も見ても、形質を上げて行くための掛け戻しには、他系統個体ではなく通常色個体を用いているのが普通です。上の項目でも触れましたが、白色個体に関してブリーダーが複数系統を所有するのは、あくまで出荷個体数維持を目的としたバックアップや、欠品期間の発生によるタイムロスを防ぐため・・・という「商業的理由」によるもので、形質向上やステイタスとなどとは全く無関係であり、少なくとも10年以上商業ブリーディングをされている方の中で、クオリティの問題を解決するための掛け戻しで通常色個体を使わない・・・という方は1人もいらっしゃいません。
基本的には、1代目で生まれてくる仔同士、または、1代目で得た仔と別の白色個体を掛け合わせて戻しますが、1代目でいきなり白色の個体が出てくるケースも少なからず聞かれることです。
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