白化(ゴースト)系個体



撮影 佐倉ザリガニ研究所

   佐倉ザリ研の独自データによる  この体色個体の特徴   
   観賞魚界における発見(報告)年と発見地域   平成8(1996)年・埼玉県  
   白化個体としての発見(報告)年と発見地域   平成21(2009)年・愛知県  
主な発見(棲息)状態 個体群型
棲息地により大きく異なる
突然変異型
固定度(形質の安定度)
棲息地や個体ごとに大きく異なる
流通量及び頻度
戻し交配の難易度 容易 困難





 特定外来生物法による指定以降、一気に冷え込んでしまったザリガニ飼育というジャンルの中で、久しぶりの大ヒットとなったのが、一般的に「ゴースト」と称される、この白化個体ではないかと思います。ムーブメント通り、非常に新しいグループであると思われがちですが、こちらもフェイド系個体と同様、その存在自体は比較的古くから知られたものでした。特に、昭和60年代前半、観賞魚界において「白ザリガニ」が鮮烈なデビューを果たして以降、青やベタ赤など、様々な体色の個体が注目を浴びるようになり、それに合わせて、採取や販売に携わるプロたちの間でも「子ども相手ではなく、大人のアクアリストに対しても価値を訴求できるもの」として、アメリカザリガニの存在価値が大きく変わって行ったのです。そうした流れの中で、「変わりザリガニ」というものにも目が行くようになり、この時点ですでにいくつかの個体が話題になったり、雑誌などの誌面を飾ったりするようになっています。業界を代表する雑誌の1つである「アクアライフ」誌でも、平成2(1990)年9月号にて、現在の白化個体の源流と同じ赤系褪色個体が取り上げられており、同時期に活動していた採取業者さんの中にも、現在、白化個体が採取できる棲息地と同じエリアで、白化個体を確認した記憶をお持ちの方が何人もいらっしゃいます。
 こうした部分を踏まえれば、確認と初報告は平成元年〜2年・・・という記述にしても間違いではないだろうと思いますが、他のグループと同じく、出荷としての記録をベースに判断して行くとなると、残念ながらそのタイミングはまだまだ先であると言わざるを得ません。平成2(1990)年に青色個体が、平成6(1994)年にベタ赤系個体がデビューして以降、しばらく「新色」のニュースが途絶えていた中、平成7(1995)年になって「白ヒゲ」個体が新しく仲間入りすることになるワケですが、この「白ヒゲ参入」こそが、白化個体にとってもデビューに向けた大きな動きの契機になった・・・と考えてよいでしょう。
 当該解説ページにもありますように、白ヒゲ赤色個体は、この年、愛知県と静岡県でほぼ同時に発見され、ちょっとした話題になって以降、採取業者さんやブリーダーなどによる新棲息地発見報告が次々ともたらされるようになりました。そんな中、埼玉で活動していたトリコさんが、翌、平成8(1996)年春の採取活動の中で、白化した白ヒゲ個体の稚ザリを数個体(ご本人の記憶では3匹だったそうですが、個体数を正確に示す記録は残っていません)発見し、「突然変異の白ヒゲ個体」として都内の業者さんに出した記録がありますので、今回はとりあえず、これを「初報告」とすることにします。
 少し笑える話ですが、当時は、この他に「白まだら」「白化け」などという珍妙なネーミングもありました。業界に詳しい方ならば、ある程度の想像はつくと思いますが、一般的な採取を生業としている方は、ある一定以上の年齢の方が少なくはなく、結果的に日本語風の、ある意味「見た目そのまんま」の通称で呼ばれることが多いものです。今の「ゴースト」という絶妙なネーミングと比較すると、あまりに貧相な名前ではありますが・・・。
 名称の問題はさておき、せっかくこういう形で「第一歩」を踏み出したこのザリも、実際には、華々しくデビューすることもなければ、話題になることもありませんでした。それは、当時からそれらの個体が体色的に不安定であったことが最大の理由であったはずです。実際に携わった関係者の方々の話を総合すると、「ストック段階で白ザリに変わってしまったり、ただの白ヒゲに戻ってしまったり、いずれにしてもハッキリと特殊性が認識できない」ということで、結局のところ「商品にならなかった」という判断になったことは想像に難くありません。
 白ザリとして売るのであれば、基本的に赤が出てしまっては困るワケですし、逆に白ヒゲとして売ろうと考える場合でも、当時すでに白ザリの価格は数百円台まで下がっていましたので、「高いカネで白ザリを掴まされた」・・・ということになってしまうのです。その結果、どちらで売ろうにもリスクを避けることができず、「白ザリでも白ヒゲでも売れない、どうしようもない駄ザリ」ということになってしまったのでありました。トリコさんとしても、同じ出荷するのであれば、確実に白ヒゲの資質を持った個体が採れる場所の方を優先するのは当然のことで、結果的にこうした場所から揚がる白ヒゲ個体には、何の価値も見出せなかったのです。実際に興味を示すのは、専業でザリガニのブリードをしている方や、体色に強い関心を持っているキーパーくらいで、それでも業界の事情をよく知っている人などは、情報が入ってきても、最初から小バカにしていまい、全く取り合わないというケースも少なくありませんでした。
 こうした状況により、このザリガニに対する評価は極めて低いものだったため、商品としては全く対象にされないばかりか、中には、餌用として確保する必要に迫られた時だけ、こうした棲息地に出向き、揚がってくる白ヒゲ個体のうち、白化の傾向が少しでも見られたものについては、通常色個体と同じく「ハネ物」として餌用に出荷していた業者さんもありました。今から思えば、とんでもなく高価な「アロワナの餌」だったワケで、血眼になって白化個体の棲息地を探し回っている今のキーパー諸氏からすると、まさに卒倒しそうな逸話です。
 このことは、いわゆる「ゴースト旋風」によって、初めて白化個体と出会ったような方々からすれば、俄に信じられない話かも知れません。信じ難いレベルだけならまだしも、中には「どう考えても現実性のない作り話」と一笑に伏されたキーパーもいたと聞きます。もちろん、そうした考えをお持ちになるのも理解できますし、これほど綺麗で、魅力的な体色を持った個体が、商品として見捨てられるはずがない・・・とお考えになるのも、心情的に当然だといえましょう。しかし、これは、実際にこうした個体の棲息地に自らの足で出向き、一度でもこうした個体の採取に取り組んだ方であれば実感できるはずですが、体色的に非常に目立つ分、厳しい自然環境の中で様々な危険に晒されながら、成体まで育つことは極めて難しく、そのため、実際に見つけることができるのも、ほとんど稚ザリ〜亜成体の個体に集約されるという事実を知っておかねばなりません。採取活動している人間からみても、辛うじてわかる特徴は「白いヒゲである」ことと「普通の個体より白っぽい体色であること」くらいだったのです。こうした状況でもって、出荷先からはクレームしか来ない・・・とすれば、当時の方々に「商品としての価値を見出せ」ということ自体、無理であったことがおわかりいただけることでしょう。
 では、そんな「ハネ物」という扱いだったこのザリガニが、どうしてここまで脚光を浴びるようになったのでしょうか? 確かに、それまでも、一部のブリーダー同士のやり取りや、極めて限られたネット流通の世界では取り扱われていましたが、2011年になって、突然、ドイツを中心としたヨーロッパ圏に、「ゴースト」という名前のカラーバリエーション個体が登場しました。ネット上などで、クリスの撮影したハイ・コントラストの個体写真をご覧になり、あまりの美しさにビックリされた方も多いことでしょう。当時、一斉に寄せられた問い合わせなどから総合すると、少なくともこの個体が「日本発」という触れ込みであり、それがヨーロッパの特定の人物の手に渡った上で、そこから広まり、新たなカラーバリエーションとしてデビューした・・・という経緯が見えてきます。なお、この部分の細かな経緯に関しては、その後、ヨーロッパの友人や学術関係の方々より様々な情報が入ってきましたが、一般的な飼育に関する情報としては特に必要とされないことも含まれておりますので、ここでは省略させていただきます。ただし、少なくともこうした白化個体のデビューに関する一連の経緯において、砂川個人ならびに当時のジャパン・クレイフィッシュ・クラブは一切関与しておりませんので、くれぐれも誤解ございませんよう、書き添えさせていただきます。
 さて、このようにヨーロッパで火がついてしまうと、情報化時代となって久しい日本のことですから、当然、それがもたらされないはずなどありません。まさに「情報の逆輸入」といった形で、日本でも一気にその存在が知られるようになって行きます。しかも、そうした過程の中で「ゴースト」という名称は極めて魅力的なものであり、それまで使われていた名称は一気に駆逐され、売る側も買う側も、同じような体色の個体も含め、すべて「ゴースト」の名前に収斂されて行きました。いくら「売るつもりではない通称」であったとはいえ、確かに、同じ個体を流通させるのであれば「白化け」だの「白まだら」だのという名前など、あまりに野暮ったい・・・というものです。
 こうした個体の素性を紐解いて行くと、そのルーツは愛知県の棲息地に行き着きます。平成21(2009)年ごろ、愛知県内で活動している業者さんとトリコさんが、当時、マニアの間で少しずつ注目され始めた色抜け系個体を調達する過程で揚がってきた、こうした不思議な体色を持つ個体の存在をクローズアップさせるようになりました。そして、こうした方々が従来のトリコさんたちと最も大きく違った点は、捕獲してきた個体をただちに出荷してしまうのではなく、手元で一定期間キープし、ある程度の大きさまで育てることにより、この個体の「本来の魅力」を開花させてから初めて紹介した・・・ということです。このことは、意図的であったかどうかという部分とは別に、このザリガニを大きくクローズアップさせる上で、極めて有効であり、かつ賢明な方法でありました。さらに「インターネット」という、1980年代と決定的に違う情報共有手段が、このザリガニを一気にスターダムへとのし上げることになったのです。現在、白化個体といえば「ゴースト」ということになりましょうから、先ほどの平成8年の記録とは別に、このタイミング、平成21(2009)年の愛知県での事例を、白化個体の初報告タイミングとして併記したいと思います。


 


 2012年5月号の「アクアライフ」誌では、小特集として白化個体に関する記事を書かせていただきましたが、その際、よりよい記事内容にするべく、編集者の方とも話し合った結果、採取業者さんの特別のご厚意により、棲息地の写真についてご許可をいただき、掲載させていただきました。ただ、誌面スペースの都合上、より踏み込んだ内容までは掘り下げられませんでしたので、今回、ご覧のみなさまに少しでも彼らと向き合うヒントとしてお役立ていただければ・・・と思い、再度ご許可をいただき、もう少し具体的な情報も交えて、棲息地の写真を掲載させていただきたいと思います。なお、掲載に当たり、当該地域の特定を防ぐための配慮をしなければならない関係上、写真の一部を加工しての掲載となりますことをご了承下さい。
 これらの写真ですが、左の写真の棲息地はゴースト旋風が沸き起こるよりもかなり以前より確認されている非常に古い棲息地であり、一方は、いわゆる「青ゴースト」が揚がる棲息地です。写真を見比べていただいておわかりの通り、決定的な共通点として特筆すべき要素は見当たりませんし、これは、その他の棲息地を調べ歩いても同じことですので、こうした部分から考えると、白化という現象の発生は、必ずしも外的要因だけによるものではない・・・ということが推察されます。ただ、そうした部分以外で1つ、強いて「共通項目として気になること」を挙げるとするならば、「水の色と見た目の水深」ということになりましょう。確かに、実際の採取調査でもって得られる個体の大半は稚ザリ〜亜成体に掛けての個体ばかりであり、その体色上、外敵に襲われることなく寿命を全うすることは非常に難しいことも想像に難くありません。様々な方と出会い、話をさせていただく中で「ゴーストは突然変異である」「ゴーストは人工的な作出以外に作り出せない」というような説を未だに支持している人々に出会うことがあるのも、自然環境における常識的概念に照らして行けば、ある意味、そう考える方が自然であり、当然だ・・・といえましょう。実際、水槽下でも仔を採ってみれば同じ状況が再現されますし、話題になっている分、一生懸命に向き合っているブリーダーさんもいらっしゃるワケですから、そういう方々との付き合いの方が深い方であれば、なおのことそう考えるはずです。
 自然下において、白化した個体が棲息し続けるためには、環境の厳しさや状況とは一切関係なく、少なくとも複数以上の雌雄個体がそこに存在していなくてはなりません。そのためには、どういう要素であっても「そうした個体が生き延びられる環境」が用意されていなければならないのです。こうした条件を念頭に置いた上で、改めて様々な棲息地をチェックして行きますと、たとえば左の写真の場所のように、充分以上待避スペースと水深をもっていることや、右の写真のように、水深に加えてかなり透明度の低いグリーンウォーターである・・・など、こうした目立つ個体が生き延びて行けるだけの「特別な要件」が存在していることがわかります。白化個体自体は、グリーンウォーターでない棲息地からも発見報告があるので、必ずしも「緑水」が必須条件ではないと思われますが、いずれにしても「生き残れるための条件」が満たされていることが読み取れます。
 また、この写真だけでは充分に理解しづらいこととは思いますが、傾向的に見て、大きい道路際など、一定以上の人通りがある場所であったり、あるいは地形的な性質上、コイなどの大型魚が侵入してきづらい場所であるなどといった、ある種の「捕食生物にとって棲みづらい場所」であるケースが比較的多く見られます。こういう状況を総合すると、白化個体が発生し、存在し続けて行くためには、何らかの内的要因はもちろんのこと、様々な外的要因が複合的に絡み合い、時には、ある種の偶然とでもいうべき要素が加わり、重なり合って行くことによって、初めて構築されて行くのではないかとも思えるのです。
 カネにならない駄ザリとして不遇な目に遭いながらも、ふとしたきっかけから思わぬ形でブレイクし、「国際派バリエーション」として市民権を得たこのグループですが、興味をもって行けば行くほど、様々な課題が見えてくるものです。そして、そうした1つ1つを解決することこそ、飼育や繁殖という点でも大きな成果があらわれてくることでしょう。




主なカラーバリエーション


 このグループの中で、代表的なバリエーションをいくつかご紹介しましょう。フェイド系個体の解説と同様、ほぼ無限であるといってもよい体色構成に対し、これらに派生する細かい分類まですべて網羅するのは事実上不可能ですので、自らの調査や信頼できるプロの業者さんからの情報を元に、あくまでも棲息地ごとに特徴がハッキリしていて、しかも一定以上の流通が見られているバリエーションの中から、主なものだけを取り上げさせていただくことをご了承下さい。




ブリード個体(ドイツ)

ヨーロッパ圏の愛好家のみならず、日本のザリ好きに対しても多大なインパクトを与える契機となったのが、まさに「ザ・ゴースト」とでもいうべき、有名なこの個体写真であろう。単色の個体ばかりだった従来の体色バリエーションに一石を投じる形となったこの1枚は、その後のアメザリ飼育シーンに大きな変化を巻き起こして行くことになったはずだ。撮影したのはクリス・ルクハウプ! 彼の卓越した撮影技術はもちろんのことながら、最も魅力的で特徴ある個体を撮影対象としてチョイスした選別眼は、まさに出色。出会ったころはハードロック・バンドのベーシストとして活躍していた彼も、甲殻類に関する深い造詣を元に、今や世界を舞台に活動するアクアリウム・フォト・ジャーナリストであり、その活躍は甲殻類のみに留まらない。

(この写真の掲載に当たっては、クリス氏本人より直接ご許可をいただいております)




ブリード個体(イタリア)

イタリアの甲殻類研究家であるクリスチャン・ジア氏が撮影した、ヨーロッパにおける最も典型的な「ゴースト」の個体。白、赤、青の3色発現を基調にしている・・・という点は日本と変わらないが、ヨーロッパにおいては、どちらかというと3色のコントラストがハッキリ発現している個体が好まれるようだ。なお、ヨーロッパにおいては、アメザリの棲息地自体が少ないこともあり、観賞用として流通している個体に関しては、そのほとんどがブリード系のものであるといえよう。これも、日本のシーンとは大きく異なる点の1つである。一方、当然ながらアメリカには棲息地も多いが、絶対数の多い爬虫類系に比べてシーンの小さい観賞魚のジャンルだけに、今後の動きに注目したい。

(この写真の掲載に当たっては、クリチャン氏本人より直接ご許可をいただいております)




愛知県産ワイルド個体

ゴースト人気がネットを中心に広まったことはすでに知られていることだが、その立役者となったのが、愛知県の2ルートからリリースされた個体たちである。両者の間には直接の関係はないようだが、いずれも採取活動の過程で少しずつ揚がってきた個体を選り抜いてリリースしたもので、「ゴースト」という名称が冠される以前より「白化個体」「白ヒゲ色抜け」などの名前で、少数ずつではあるが出回っていた。その後の「ゴースト旋風」によって、ブリーダーやキーパーの手により様々な細分化がなされて行くことになるが、この個体は、ある意味「現在のゴーストの元祖」とでもいうべき位置づけとなろう。




ブリード個体

ゴーストの飼育に力を入れているキーパーは、その好みによって「青ゴースト」「白爪」「色抜け」などの趣向に分化し、自ら目指す個体作出に精を出しているようであるが、その中でも、愛知の棲息地をルーツに持つ個体は、特に「色抜け」の作出に対して非常に重宝がられているようだ。この個体は、上記の愛知県産ワイルド個体と同じ系統から選り抜かれて作出された3代目の個体で、頭胸甲側部や各胸脚などがグレーに近い色合いになる、典型的な「ゴースト色抜け」の個体だ。ただし、白化個体の基本的な特性上、「何代掛ければ固定する」という目安は存在しないので、安易に「これで固定した」と考えるのは危険である。あくまで1個体1個体の資質によって、その都度判断し、見極めて行く必要があろう。




埼玉県産ワイルド個体

今でいう「ゴースト旋風」が起こらなければ、永久に「カネにならないハネ物」であり続けたであろう個体が、この埼玉県産の個体である。現地の採取業者さんの話によれば、すでに1980年代後半には存在が確認されていたそうで、少なくとも1996年には「白ヒゲ」としての出荷記録がある。ただ、脱皮で突然色が変わったり、繁殖させても仔に色が受け継がれないなどの様々な理由から「商品」としては不適格の烙印を押され、長いこと不遇な状態におかれていたのは皮肉な話だ。当時は「白ヒゲのストレス変色個体」と見なされていたようで、体色に青が混じっていたことも、そう判断された理由の1つではないかと思う。強いて特徴を挙げるとすれば、愛知県などの個体と比較して、第1胸脚の色乗りが薄く、反面、頂部の青色が強めに揚がるなどの傾向がある。スパインに入る色合いなどは、ともに棲息している白ヒゲ個体の影響をかなり強く受けているといえよう。出現確率は稚ザリでも0.5%程度と、非常に少ない。




ブリード個体

同じデジカメで撮影していても、水槽にセットされている蛍光灯の光質などによって、撮影された個体の色味には若干の違いが出てしまうものだが、クッキリとした濃淡のコントラストが好まれるヨーロッパなどと比較し、日本ではこの個体のように、どちらかといえば柔らかなグラデーションの色味が好まれるようだ。パッと見の色合いだけで見ると、上記の埼玉県産ワイルド個体に酷似しているが、これを孵したキーパーの話によれば、愛知県の採取業者から直接譲り受けた個体を親にしているとのことであった。仮に棲息地が違っていて、それが距離的に大きく離れていても、その経緯が同じであるとすれば、同じような発現をするであろうことが、この個体からは充分に示唆されている。そういう意味でも、広い視野で様々な棲息地を調べて行くことは、決して無駄ではないはずだ。




茨城県産ワイルド個体

茨城県の中央部、つくば市から水海道市(現常総市)にかけて4ヶ所ほど点在している白ヒゲ個体棲息地から揚がってくる白化個体は、成長した段階でも赤色がほとんど揚がらず、白と青黒色のモノトーン体色になってくることが多い。こうした体色を身にまとう個体自体は、他地区で採取される物の中や、そこから繁殖させた個体の中からも少数ながら出てくるため、そうした個体を、別に「青ゴースト」として区分する考え方も見られる。こうした体色が主流の地域の個体であれば、比較的維持は容易なはずだが、そうでない個体の中から意図的に作り出そうとなると、元来の「不安定さ」がネックとなり、なかなか思うように作出できない苦労もあるようだ。




ブリード個体

「青ゴースト」の作出を目指すキーパーが、赤色の揚がりにくい特徴を持つ茨城県産の個体と、爪色の薄い埼玉県産の個体とを掛け合わせて作出中の個体。青色はそれなりに揚がってきているものの、それに合わせて、どうしても赤色が揚がってきてしまう・・・とのことで、未だ完成の域には達していないようである。ザリガニの甲殻に関する体色という面を科学的観点から考えると、絵の具の選り混ぜがごとく、足し算、引き算の感覚で調整できる類いのものではないことが如実にわかる1コマであろう。一見、同じような体色をしている個体であっても、そうなる過程には様々な要因があることを理解しておく必要がある。




ブリード個体

ザリが好きなキーパーが集うイベントで出てきた話を聞いていると、最近では「青ゴースト」に対し、赤みの体色が特に強い個体を「赤ゴースト」として呼び分けているそうである。正直なところ、個体の持つ元来の資質をあまりに越えた細分化に対しては、素直に賛同できない部分もあるが、棲息地に限らず、一定数以上の個体を繁殖させていることによって、こうした特徴を持った個体が出てくることは珍しいことではない。あくまで「不安定な資質の中における1つの発現事例」という範囲内において考えて行くのであれば、非常に興味深いことであろうと思う。この個体は、ネット上で販売されていた個体を入手した上で、好みの色味の個体同士で掛け合わせた仔を育て上げたものだそうだ。




茨城県産ワイルド個体

一方こちらは、「青ゴースト」「ゴースト色抜け」などとともに、もう1つのカテゴライズ化がなされつつある「白爪」の典型的な個体だ。確かに、価値として考えるには非常に魅力的であり、早くも「ゴースト・ホワイトクロウ」などという魅惑的な名称もチラホラ聞こえつつあるもの、表記にもある通り、この個体自体は、いわゆる「青ゴースト」が採取できる茨城県つくば市の棲息地から揚がってきたワイルド個体である。こうした状況からもわかる通り、特別なものとして細分化する以前に、「元々、かなり広い体色レンジを持っている」ということを充分に踏まえておく必要はあると思うし、そういう観点で向き合う限りにおいては、非常に楽しいものであると思う。この個体も、採取時点では「心持ち色が明るめ」という特徴しかない稚ザリであったが、成長させるに従って、こうした体色に育ってきたのは興味深いことだ。




ブリード個体

白爪個体の作出を目指してブリードされている中で出てきた、典型的な「思い通りに行かなかった」ケースが、こうした個体だ。全体的に薄めの体色に仕上がっているものの、ごく薄いオレンジ色という形で胸脚の端部に色が残ってしまっていて、白爪と呼ぶにはまだ途上の状況であるといえよう。実際、ブリードによって白爪の個体を作った人の話を聞いてみると、体色は赤→青→白の順で褪化したという証言が一番多く、しかもそれは科学的に見て、ザリガニの基本的な体色変異の経過にも符合している。そういう意味で考えると、少なくとも胸脚部に関しては「まず、薄い青色にする」という手順で考えて行く方が現実的であろう。




ブリード個体

白爪個体というと、「とにかく薄い個体を探して、合わせて」・・・という単純な発想に陥りがちだが、それを地で行った結果、ある意味「行き過ぎた」状況になると、こうした個体ばかりが出始めるようになってしまうものだ。雰囲気としては、稚ザリ時の体色そのままに大きくなってしまったようなもので、元々不安定な体色要因を持つ彼らの場合、単純に親個体の体色ばかりで考えるやり方は充分ではないはずだ。ただ、今でこそ「失敗作」とされるこうした個体も、今のような「ゴースト」という新価値が生まれてくる以前の段階では、白色個体の掛け戻し相手として、むしろこうした個体の方が重宝され、意識して作出されていたという皮肉な実績もある。もし、彼らに心があるとするなら、今回の「ゴースト旋風」を、最も苦々しい想いで眺めている個体なのかも知れない。




茨城県産ワイルド個体

体色的には上記の白色系ブリード個体と酷似しているが、白化個体の体色的な不安定さを最も端的に象徴しているのが、この個体であろう。この個体は、上記の茨城産ワイルド個体とほぼ同時期に、同じつくば市の棲息地から揚がってきた稚ザリで、成長の過程や体色の変遷も上記の個体とほぼ同じ状態であった。ところが、一度繁殖に使って後、オス個体とのケンカによって頭胸甲前部に大きな傷を負ってしまい、水温変化による強制脱皮をさせたところ、一気に色抜けしてしまったものである。ここまで来ると、知らない人には「白いザリガニ」と説明しても何ら不審がられない状況になってしまっており、以前の体色の名残りは、腹節下端部にしか残っていない状況になってしまっている。こうした個体でも、次の脱皮で突然色戻りしてしまうことは少なくない。




埼玉県産ワイルド個体(稚ザリ)

白化個体は、稚ザリの段階から様々な体色を見せているものだが、そのうち最もベーシックな体色といえるのが、こうした体色の個体、あるいは、もう少し白色味の強い個体であろう。いわゆる「ゴースト」に関しては、ネット上でも様々な情報が出ているが、実際に様々な棲息地に出向き、地道に水へ入って調査してみるとわかる通り、こうした体色の個体が成体のサイズで揚がってくるケースは極めて少ないものだ。採取業者さんの話によると、実際の棲息地における出現確率と水槽飼育下における発生状況とに開きがあり過ぎることを根拠に、そこでの棲息報告自体を訝しがる方向に進んでしまう人もいるそうだが、自然下においては、独り歩きを始めてから成長して行く過程において、相当数の個体が淘汰されているであろうことは容易に推察できるはずだ。観賞目的という観点で見れば極めて魅力的な体色も、過酷な自然環境下となると、生き延びて行くためには極めて不利な体色であることを忘れてはならない。




茨城県産ワイルド個体(稚ザリ)

ネットなどの情報を洗って行くと「白化個体の稚ザリは白色をしている」という認識が当たり前のように出回っているが、棲息地へ何度も通い、丹念に調査を続けながら個体の経過を追って行くと、こうした説が必ずしもすべてて当てはまらないことがよくわかる。この個体は、茨城の棲息地で揚げたばかりの状態のものを写したもので、パッと見は白ヒゲの稚ザリであるが、隻腕であり、かつ他の胸脚に充分な体色が出ていないことから、持ち帰って経過を見たところ、成長して行くに従い、赤と青の発現が見られ、約1年で白化個体らしい体色へと育って行った。水槽の中で起こることも、1つの「事実」であることは間違いないが、それを以て「真理の法則」とすることの危険さを思い知らされた事例であるともいえよう。地道に、丹念に、そして幅広く丁寧に、何度も諦めずに現場へ通い続け、さらにはそこから得られる情報と真摯に向き合うことは、極めて大切であることに違いない。




ブリード個体

この個体を見て、思い当たる経験をお持ちの方は、白化個体に対してそれなりの取り組みをされている方であるに違いない。体色に基本をおいたアメザリの繁殖に取り組む場合、ともすると「この色とこの色を掛け合わせて、この色を作る」的な発想にのみこだわるケースを見受けるものの、そうした足し算、引き算的な発想のみでは上手く行かないことも多いものだ。この個体は、白色個体と白化個体との掛け合わせから生まれたもので、典型的な「元の資質に戻っちゃった」ケースである。この組み合わせにおいても、それなりの体色の仔を得られる場合はあるものの、一見、同じ体色を身にまとっているからといっても、それがすべて同じ経緯、同じ要因でそういう体色を発現させているワケではない・・・ということをきちんと理解しておく必要があろう。ただ、この個体、「ゴースト」には程遠い体色であるものの、従来の青色個体とはひと味違う、涼やかな魅力はあるように思う。「失敗もまた楽しみなり」・・・といったところか。




白化個体棲息地で確認できる白ヒゲ個体



 

 

 「ゴースト」という魅惑的なネーミングによって、こうしたザリガニはいかにも特殊で、しかも特別な印象を受けるものだが、冷静に経緯を見つめ直し、本気でじっくりと向き合いながら考察を深めて行くと、こうした特殊性や、煌びやかなスター性とは別に、このザリガニの素性は、あくまでも白ヒゲ個体がベースであり、こうした部分をしっかりと踏まえた上で検討して行かねばならないことがわかるはずだ。同じ白ヒゲ棲息地でも、こうした個体が全く揚がってこない場所があるという事実や、逆に、「白ヒゲ個体」と定義付けるには必ずしも充分ではない個体しか揚がってこない場所もあれば、充分に「ゴースト」の名を冠せられるような個体が出る場合もあるという事実もある。となれば、白ヒゲ個体の棲息地や、そこでの環境や状況などをしっかりと見極めて行くことは、白化個体を極めて行く上で非常に重要であるはずである。
 一番上の拡大写真をご覧いただくとわかる通り、白化個体の揚がる棲息地で採取できる白ヒゲ個体の中には、ところどころに微妙な褪色や青化を起こしている個体が出てくることがある。これは「白ヒゲ個体という商品」としては好ましいポイントではなく、どちらかといえば明瞭な紅白のコントラストが出ている方がよいはずだから、ある意味「B級品」であることは間違いない。ただ、裏を返せば、こういう個体こそが、白化個体発生の素地になっているかも知れないだろうことは容易に推察できよう。
 その下の4枚は、上段が左から愛知県産、埼玉県産、下段が茨城県産(左右それぞれ別棲息地)の白ヒゲ個体である。愛知県産の個体は、パッと見では普通の白ヒゲ個体に見えるが、胸脚にはハッキリと褪色が出始めており、かつ頭胸甲や腹節のグラデーションは、すでに「ゴースト」と呼ばれる個体と同じトーン構成を見せている。こうした個体同士が自然下で代を繋ぐ中で、何らかのインパクトが起こったとすれば、それが「ゴースト」になり得たとしても、決して不思議ではないだろう。
 一方、埼玉県産の個体は、色味こそ充分な雰囲気を醸していながらも、第一胸脚スパインの色でもわかる通り、逆に「白ヒゲ」と名乗るには不充分な要素が見られる。確かに、白ヒゲの定義として「第一胸脚の白色スパイン」という要素は極めて大きな要素の1つであり、「白ヒゲ」という名称を好まない人々の中には、この定義を用いる形で、あえて「白スパイン」などの名称に読み替える傾向も見られる。さらには、ヒゲだけ白い個体などを全く別にカテゴライズしようという考え方もあるようだが、それは各々の価値観や判断基準に任せることとして、もし、そういう経緯の中からだけで白化個体を考えようとすると、今度は、そうした個体と今の「ゴースト」との間における整合性に難が出てきてしまうのだ。ヨーロッパにおいてクリスの写真が大きな話題となり、その人気が日本へ飛び火し始めたころ、そんな情報や写真、さらには日本で見受けられる白化個体などを眺めながら、アメリカザリガニに取り組む多くのキーパーやブリーダーが口を揃えて指摘したのが、まさにこの「整合性」に関する部分だったのである。見た目のインパクトや色合いの妙味などではなく、第1胸脚のスパインという微細なポイントに視線が行ってしまい、それが重大な解決課題になり、様々な意見が闘わされるようになってしまうというのも、一般社会の通念から見れば、正直どうか・・・とも思うが、それもアメザリに本気で向き合い、じっくりと細かく観察しながら突き詰めて行こうとするがゆえの「性」なのかも知れない。
 「ヨーロッパはハード路線、日本はソフト路線」というように、ゴーストに関する嗜好の違いは、確かに、そうしたコントラストや発色のトーンという部分で対比されることが多い。体色も、頭胸甲や腹節、そして第1胸脚全体などの色合いだけで区分され、語られることが多い。しかし、大事なことは本当にそれだけであろうか? そして、飼育という観点でいえば、さほど重要でもないであろう、こうしたどうでもよい対比という部分にも、彼らと向き合う上で重要なヒントは隠れていないだろうか? そういうことを考えると、まさに、多くのキーパーやブリーダーが一斉に指摘した「色味どうこう以前に、まずスパインの色について、きちんと検証すべきではないか?」という着目点は、慧眼だったように思える。
 ヨーロッパにおける「ゴースト」を改めてよく見直してみると、クリス、クリスチャン両氏の写真でもわかる通り、第1胸脚スパインの白色は、不完全であったり全く出ていなかったりするものも少なくはない。そういう点から考えると、少なくとも「白スパイン」に依存しない、あるいは深い関連性をもたない状況下での白化は充分に起こり得るワケで、それは、この埼玉県産の個体でも立証されている。しかし、茨城県や神奈川県、愛知県などにおける棲息事例を見てもわかる通り、白化個体と白ヒゲ個体とが密接な関連性を持っていることは否定しようのない事実でもある。そしてさらに、実際の飼育・繁殖現場に目を向ければ、こうした部分で組み合わせを考え、白ヒゲ個体と白化個体との組み合わせで結果を出している事例も数多く報告されているのだ。こうした事実を1つずつ丹念に積み上げ、組み合わせて行くと、ひと口に「白化個体」と呼ばれるザリガニたちも、いかに多くの経緯と要因を持っているかが推察されよう。これは、このザリガニに取り組んで行く上で、きちんと踏まえておくべきことではないかと思えてならない。
 さらに検証作業を深めて行くと、こうした部分は単純な「白ヒゲ」「白スパイン」という要素だけで解決できない事例が次々と出てくるものである。下段の個体写真から見てもわかる通り「そうした資質を持った個体の血統」という言葉で片付けられないケースも出てきているのだ。そして、こうした個体がどういう経緯や要因によって発生し、そしてそれらがどうして白化個体の棲息地においては、一般的な棲息エリアよりも高確率で起こり得ているのか・・・という部分も考えなければならない。こうした現実を踏まえた上で、白化がある種の「突然変異」であるとすれば、それには必ず何らかの理由があるはずである。こうした部分に目を向けぬまま、彼らの持つ「真実」に辿り着くのは、逆に無謀な方法でもあるかも知れないのだ。
 白化個体としっかり向き合い、自分なりの夢や狙いを実現させて行くためにも、白ヒゲ個体を含めた様々な個体をじっくりと見つめるとともに、様々な棲息地に足を運び、自らの手と目で丁寧に見極めて行くことこそ、最も近道なのではないかと思う。

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「ゴースト旋風」に対する、ちょっとしたホンネ

 最後に、個体自体の解説からは少々ずれますが、少しばかり思うところを述べさせていただきます。趣味の世界は「その人の価値観が最も大事」ということを踏まえた上で、あくまでも砂川個人なりの価値観・・・ということでご覧下されれば幸いです。なお、これからの記述は、どちらかというと砂川個人や佐倉ザリガニ研究所の情報発信に対して快く思っていらっしゃらない方に対してましては、非常につまらないものだと思いますし、そうした方が、こんな未熟な人間の文章によってお心変わりすることもございませんでしょうから、あしからずご了承いただきまして、お読み飛ばし下さいますことを強くお薦め申し上げます(笑)。

 今回、一連のゴースト旋風を傍から見させていただいて、古くからお付き合いのある何人かの友人と一緒に強く実感したのは、その出自や経緯などを含め、このザリガニに関し、大きな意味で「情報の階層化と隔絶化が起こっているんだろうなぁ」ということでした。同じザリガニと向き合い、そして極めようとしているにも関わらず、あまりに背反する「通説」の多いこと・・・。それらの1つ1つは、それぞれの立場から見た、まぎれもない「真実」でしょうし、また、それぞれの実践や経験の中における「確固たる根拠」に基づいたものでしょうから、それはそれで、素晴らしい成果だと思いますし、尊重されるべきことでしょう。そして、そうした信念をお持ちである分、自らの方向性にそぐわない情報に対しては、「ウソ」「作り話」という稚拙で下卑た括りにまではしないにせよ、社会的常識に照らし合わせてみても、俄には納得できないものでございましょうし、余計に懐疑的になってしまうのも無理からぬことです。しかし、それが何も生まないことだけは間違いありませんし、となれば、余計にそうした経緯を謙虚に受け止める必要がありましょう。
 改めてこうした現状を考えて見ると、今回、このザリガニが「大変身」を遂げる上で絶対的なパワーとなったのは、やはり何といっても、インターネットの存在だろうと思います。確かにインターネットは、非常に便利で有効な情報共有手段です。これは何もザリガニの世界に限ったことではありません。趣味も仕事も、学業も政治も、インターネットによって相当便利になり、充実したものとなったはずです。今までなら、絶対にできなかったことも、どんどん、それこそ「当たり前」のようにできるワケですから・・・。
 ただ、その陰で、インターネットの普及は、私たちから、ある種の「労力」を奪ってしまったことを否定できません。画面を開き、ちょちょいとキーワードを入力しさえすれば、それっぽい情報はいくらでも目の前に現れてきます。自らの足を使う必要もなく、情報を得るために頭を下げる必要もなければ、よけいなお金を払う必要もない・・・。一見、情報をたくさん集められるようになったつもりが、結果的に、それが情報収集の矮狭化を招き、ひいてはザリガニ飼育の世界ですら、こうした情報の階層化と隔絶化を招いているのではないかと思えてならないのです。
 ガラス越しに個体とニラメッコすることも、利益を共有しているキーパーやブリーダー同士で情報を交換することも、身の回りの狭い範囲で仕入れた棲息情報の範囲内でそれらを共有したり考えたりすることも、決して無意味ではありませんし、非常に素晴らしいことです。でも、課題もヒントも、そこだけに転がっているワケではありません。「現場百遍」のたとえではありませんが、何より数多く、しかもできるだけ多くの地域の棲息地に足を運び、実際にそこで「自らの目と手と足で」情報を得た行くことは重要です。もちろん、そうだからといって、ひとたび目新しい棲息情報を耳にするや、手みやげ片手に飛行機や新幹線に飛び乗ってしまうようなドコぞの変人みたいになってしまうのも考えもの(苦笑)ですが、生活圏にある池や水路などから、少しずつ動いて行くのも悪いことではありません。そして、ただ「採って、数える」だけでなく、水の様子、底の様子、周りの様子・・・と、アンテナを目一杯張り巡らせながら調べ、考え、記録して行くことが大切なのではないでしょうか?
 よく「俺の家の周りには白も青も白ヒゲもいないから・・・」という声を耳にしますが、それを口にする前に、果たしてそれを断言できるまで調べ尽くし、足を運び尽くしたのかどうか、もう一度、自らに問い掛けてみましょう。そして、たとえ通常色個体しかいない場所であっても、丹念に、丁寧にチェックする作業を繰り返して行きましょう。きっとその先に「何か」が見つかるはずですから・・・。目指す綺麗な色の個体は見つからずとも、水の様子、底の様子、岸辺の様子と、実に様々なヒントを感じ取れるハズですし、そうしたことの繰り返しの先に、必ず「涙が出るほど嬉しいザリとの出会い」があるハズです。
 それは、プロだろうとアマだろうと、趣味人だろうと専門家だろうと、何ら変わるものではありません。私たちから見れば、プロのトリコさんも一流のブリーダーさんも、そして、学術目的の研究者も、自ら足を運んで実際にお会いし、信頼関係を築いて一緒に現地で行動してみれば、そこで得た成果の最終的な使用目的が違うだけで、やっている作業は、そうした地道な作業の積み重ねなのだなぁ・・・ということが実感できるはずです。
 私たち趣味人と専門家との関係でいえば、よく「学者なんて所詮、頭だけであり、机の上だけの世界だ・・・、俺たちは目の前の現実だけを信じる」などという、一見もっともらしい説を唱えている方に出会うことがあります。でも、そういう「現実こそ最も大切」とおっしゃる方に限って、いかに現実を見ていないことか・・・を実感する機会は少なくありません。いや、そういう方が最も尊重している「現実」に向き合う目を、そしてチャンスを、自ら狭めてしまっているのではないかと思えてならないのです。
 そういう方は、きっと、そうやって軽蔑し、見下してみせている学者たちと徹底的に意見を戦わせたこともなければ、自らをさらけ出し、そうした方々と信頼関係を築いたこともないのでしょう。ましてや、そういう方々と手を取り合って何度も何度も棲息地に出向き、必死になって泥水に立ち向かい合った経験もお持ちではないのだろうなぁ・・・と思います。もちろん、私たち趣味人の世界にもいろいろな人がいるように、学術界にもいろいろな人がいることでしょう。すべての人間が、すべての相手と上手く関係性を築けるとは限りませんし、そうした活動の中で不快な経験をすることもあると思います。しかし、そんなことは、一般社会で生きて行く中でも、日常的にあり得ることなのではないでしょうか? 仕事だろうと趣味だろうと生活だろうと、それを乗り越えて行く中でしか「人とのつながり」はできてこないのだと思います。
 学術界に限らず、様々な人々と出会って行く中で、仮にそうしたことがあったとしても、結局は私たちと全く同じ「ザリ馬鹿」なんだということは間違いありません。じっくりと時間を掛けて、丁寧に信頼関係を築いて行けば、必ず、手を取り合う道は見えてくるものです。そして、一緒になって、散々な苦労をしながら棲息地に足を運び、泥水に嬉々として浸かり、手をたたいて大喜びしたり悔しがったり、時には酒を酌み交わしながら「ザリへの想い」を語り合ったり・・・。結局、立場はどうあれ、そこで得られた成果を趣味に生かすか、論文に生かすか・・・だけの違いなのですから。「ザリガニが大好きで仕方ない」という熱い想いは、趣味人だろうと学術関係者だろうと、専門的な学業を修めていようといまいと、何ら違いはないのです。どこまでもザリガニが好きで、どこまでもザリガニのことが知りたい・・・、そんな「熱きザリ馬鹿」同士、協力し合わないテなどありませんよね! 私たちは、ザリガニが好きなのです。ザリガニのことならば、どんなことでも知りたいし、どんな情報でも欲しいのです。その相手が「センセイ」だろうと「トリコのおっちゃん」だろうと、そんなことは一切関係ないのです。少しでも広く、少しでも多くの方々から、少しでも具体的な情報を知り、それを自分の活動に活かして行きたいのです。だとすれば、自分の考えや立場、価値観にそぐわない情報を頭から否定し、「机上の空論」という、もっともらしい逃げ口上を連発しつつ、狭い仲間内で、限られた仲間内の情報だけを必死になって守り、「聖なるもの」にするよりも、広く、様々な世界へ飛び込んで行くことで、もっと多彩で、もっと視野の広い情報が数多く入ってくる方が、よっぽどいいのではないでしょうか?
 それは、トリコさんやブリーダーさん、卸系列を含めた業界関係者の方々に対しても同じです。トリコさんであれば棲息地情報、ブリーダーさんであれば繁殖技術、業界関係者の方々であれば「流通状況」というものは、それこそ「自分の存在価値すべて」といっても過言ではないほどの大切なものです。そんな大切なものを、おいそれと他人に丸投げして公開するはずがないことくらい、誰でもわかることでしょう。それを手に入れるために必要なことこそ「信頼関係」なのです。一般的なアクアリストと接する機会自体、少ない方々ですから、ともすれば「知り合うこと」にすら、労力を使わなければいけないくらいの方もいるはずです。もちろん、そんな方とめでたく知り合いになれたとしても、それで完成ではありません。何かの情報を求める前に、その方が喜んで下さる情報をどんどん差し上げ、口を噤むべきところは確実に噤み、時には飲みたくない酒席にもお付き合いをし、3年、5年とじっくりお付き合いをさせていただき、その方から「コイツは人間として信用できる」と思っていただいて初めて、「じゃあ、今度採りに行くから、一緒についてくるかい?」「3年以上掛けて作っているのがあるんだけど、今度見に来ないか?」「こういう個体の荷が届いてるんだけど、見に来てよ」という言葉がいただけるのです。トリコさんにしても、ブリーダーさんにしても、そうやって初めて「その方が地道に築き上げた努力の現場」に立ち入らせていただくことができるのです。
 今回取り上げた棲息地の中には、トリコさんと知り合ってから10年以上経って、初めて連れて行ってもらった場所がありますし、10年までは行かないものの、それに近い年月を経て、初めて見せてくれたブリードルームで得た情報もあります。そうした方々からすれば、それくらい「かけがえのないもの」なのです。そうした方々に対して浮かんでくる感情は、感謝と敬意以外の何物でもないはずですし、そうした方々のご厚意を大切にしながら情報を発信することは、むしろ当然の礼儀なのではないでしょうか?
 このサイトでは、こうした形で得た情報を、あくまでもそうした方々のご迷惑にならない範囲で公開していますが、それができるのは、決して私が特別な人間だからではありません。最初から、何かもの凄い情報ルートを持っていたワケでもありません。中には、そうしたところまで「妄想話」だと判断してしまうようなメルヘンたっぷりな方もいらっしゃるようですが、そういう方々が蔑む対象である砂川という人間は、確かに、その方々が蔑むに足る程度の人間でしかありません。しかし、他人様から嘲笑されても仕方ないほどの、才能も知識も、カネもコネもない人間だからこそ、ここまで時間を掛け、どんな立場の方々に対しても、自らの力不足を曝け出した上で、勇気を持って積極的に飛び込んで行かないと、築いて来れなかったのです。こんな私のようなレベルの人間でも作り上げられたのですから、時間をじっくりかけて取り組む覚悟と、人間としての誠実さ、そして、自らが未だ発展途上であることを晒せるだけの勇気があれば、誰しもが必ずできることだと思いますし・・・。そのための方法は、インターネットが普及しようとしまいと、一切変わりないことだと思います。
 やはり、自らが動き、自らの足や手を使い、時には、私みたいに粗悪な脳味噌をフルに使い、苦労して得られる情報は大切です。足と手と頭だけでなく、時には「顔」も使いましょう。ネットでの情報交換も大切ですし有効ですが、人間というもの、最後は「顔と顔」でのコミュニケーションに勝るものはありません。自ら出掛け、出会い、時には頭も下げて信頼関係を築くことは、ザリガニを極めて行くためにも必ず役に立つことだと確信しています。「お前は何も知らないなぁ」と笑われたって、その先に自分が身につけられる「何か」があれば、それでいいではありませんか!「知らないこと」は、決して恥ずかしいことではありません。しかし「知らないことを取り繕うこと」ほど恥ずかしいことはありません。私のような人相と性格の悪い、程度の低い人間でも、時には笑われ、時には叱られ・・・しながら、こうやって多くの方に信頼していただき、1銭のカネも生まぬようなつまらぬホームページの取材のために、様々な棲息情報や個体情報などを教えていただくことができているワケですから・・・ね(笑)。たかがアメザリの色変わり・・・といってしまえばそれまでですが、そんなつまらない趣味であっても、その気になって取り組めば、本当に楽しく、そして奥深い世界が開けてくるように思えてなりません。

 ずいぶんと大仰な物言いで本当に恐縮ですが、新時代の風を私たちにもたらした「ゴースト」は、まさに私たちの1人1人の「人間としての総合力」が問われるザリガニでもあるのです。それでも、私自身や私の考え方すべてを否定したい方からすれば、ここの画像も文章も、やはり「砂川の妄想」にしか見えないでしょうし、そう見ないとやって行けないのだと思います。私自身、そうした方々のお心まで解きほぐして差し上げるだけの器量は持たない未熟者ですので、そういう方は、どうぞこの記事を「壮大な妄想話」として楽しんでいただき、嘲笑していただければと思います。でも、もしこの中に1つでも「確かにそうかも知れないなぁ」とお感じになられた方がいらっしゃいましたならば、もう一度、ザリガニとの向き合い方について、想いを馳せていただけましたなら、叩かれ覚悟であえて自分の考えを出させていただいた意味もある・・・というものです。
 ザリガニと向き合う道は、本当に楽しく、奥深い道です。まだまだ、わからないことだらけの遠い道です。でも、進み甲斐のある大きな道です。さぁ、一歩一歩、地道に極めて行こうではありませんか! そのためにこのサイトが少しでもお役に立つことができるのなら、一生懸命調べ、まとめさせていただいた意味もあるというものです。私たちから「情報の真の価値概念」を奪い取ってしまったインターネットだって、決して無意味ではないかも知れませんし・・・ね!(笑)