ブラウン系のグループ




ブラウン系個体

Brown form

 ヤビーの場合、血統の違いを問わず、稚ザリから成長してくる段階で、一時的に茶色っぽい体色を発現させることがよくあります。だいたい生後半年ころ、大きさにして3〜4センチ程度のころに起こりやすいのですが、それを過ぎて性成熟するころになると、それぞれ独自の体色へと変わるのが普通です。
 ところが、中にはそれが見られず、この写真の個体のように、そのまま大きく育ってしまう個体がおり、濃褐色のウチダザリガニを思わせる独特の風貌を持った個体となるわけです。もちろん、繁殖して仔を採ると、その仔たちは、大半が元の体色に戻ってしまうのですが、選り抜きを続けながら累代繁殖をして行きますと、かなり魅力的な個体が数多く目にできるようになります。この写真の個体も、体長13センチ程度、3+の個体ですが、御覧の通りどっしりとした濃褐色は、とても通常のヤビーと同種とは思えない迫力を感じます(成体特有の太い第2触角が、これまたしっかりと濃褐色になっている点が見逃せません)。非常に魅力的だとは思うのですが、やはりグリーン系同様、維持の難しいグループで、しかもこうした体色は人気がないらしく、ヤビー・キーパーの中でも、実際に飼育している人は数少ないようです。






ブラウン系ライトブラウン個体

Brown form(Lightbrown type)

 1996年前半ごろまで、いわゆる「混じり」として時折見ることができたのが、この体色の個体です。ヤビーにしては目が覚めるような明るい体色で、とにかく各節部の赤色がバッチリ揚がるため、ストック場でもひときわ目立ちましたが、青系全盛であったために、完全な「ハネ物」扱いであったこと、さらには、繁殖での維持が難しかったことなどから、結局定着することなく、今に至っています。当時の輸入状況を思い出す限り、相当数の個体は入ってきていましたから、現地に行けば、こういう体色の個体群がある可能性は高いと考えてよさそうです。また、少なくとも当時、(意図的に作っていたかどうかは別として)こうした体色の個体を食用として出荷している養殖業者がいた可能性も、容易に推察できましょう。
 最近でも、これに近い体色は見ることができますが、いずれも近親交配の連続による弱化個体で、甲殻に充分厚みがないことに起因する薄色個体ですので、キーパーにとっては少々厄介なのが実情です。当時の個体は、写真を御覧いただきますとおわかりの通り、甲殻もバッチリ厚みを持っており、繁殖・脱皮なども一切障害なくクリアできたのですが、このタイプの輸入が完全にストップしている以上、再現が非常に難しくなっており、惜しまれるところです。






ブラウン系ブルーチップ個体

Brown form(type "Blue Tips")

 全般的な色合いはブラウンで、しかもかなり強めの出方をしている個体の中に、胸脚先端や尾扇部など、非常に強い青が揚がってくるという特徴を持っているのがこのタイプの個体です。この部分については、どの個体も薄く青味がかったり緑色っぽくなることが多いので、色が変わって行く傾向自体は決して珍しいものではありませんし、こうした傾向はグリーン系の個体でも僅かながら見ることができます。このため「グリーン系ブルーチップ」も存在しないわけではありませんが、グリーン系の個体では、色合いが近いこともあって、写真の個体のように黒色に近いほどの濃紺個体がなかなか出てこないことが多いようです。従って「ブルーチップ」といえば、一般的にブラウン系のバリエーションであり、実際には、ブラウン系個体の中から探して行くケースが大半です。この個体は、他の通常色個体と比較して、この強い青色を受け継いだ仔が多く採れやすいという特性があることから、青系個体の掛け戻しには実に好都合であることを多くのキーパーやブリーダーが経験的に知っており、こうしたキーパーの間では、古くから重宝されてきました。青系キーパーのストック水槽の片隅に、どういうわけかこんな体色の個体が飼われているのを見て、不思議に思う方も多いと思いますが、彼らが意図的にこの個体をキープしておくのは、こうした理由によるものなのです。「ブルーチップ」という名称は、プロのブリーダーによる繁殖が始まったころに、誰彼ともなく自然とそう呼ばれるようになったものですが、レッドクロウなどのように、パッチ状の明確な濃青色部が出てくるわけではありません。このため「どこまでハッキリ出ればブルーチップと呼ぶのか?」という点については、ブリーダーによっても基準が少しずつ異なりますが、写真の個体のように、可動指付け根部分まで綺麗に濃紺が揚がっていれば、大抵のブリーダーは合格とするはずです。最近は、青系個体だけでも相当な数になっていますので、わざわざブルーチップを探して1から掛け戻すことも少なくなりましたし、中には、ブルーチップの名前すら知らないブリーダーもいるかも知れませんが、青系に使うかどうかは別としても、ハサミの青と濃いブラウンとの微妙なコントラストは、充分に魅力的なものです。ヤビーの「青」は、体躯の全体に乗せて楽しむだけでなく、こうしたアクセント的に楽しむということもできるわけです。


なお、この個体ですが、西オーストラリア州のダムで収穫された粗放養殖個体です。もし、学名に準じ2種としてタイプ分けしなければならないとするならば、文献上、そしてルート上、完全にアルビダス種の産地から出てきた個体であり、名目上「アルビダス・タイプ」でなくてはならない・・・ということになります。ところが、この個体は、ボディーに比較してハサミが非常に大きく、しかも全体における腹節部の大きさが小さい逆三角形のボディーをしていることや、第一胸脚がラウンド型をしており内側にも裏側にも全く毛が生えていないなど、俗説として「デストラクター・タイプ」と称されるすべての条件を兼ね備えています。反面、この上に紹介してありますグリーン系「クリーム」個体にあるような「アルビダス・タイプ」と呼ばれる体型的特徴は全く持っていません。このルートでは、毎回、この体型と全く同じ体型の個体がコンスタントに入ってきますので、西オーストラリア州から産出されるヤビーのうち、この個体だけが特殊であると考えるのは、あまり現実的ではないといえましょう。結論がついているかどうかということは別としても、「アルビダス」「デストラクター」というのは、あくまでも学術的な裏付けや提唱される学説に沿った生物学上の学名であり、「コロ」「ポチ」というような、単なる違いを示すだけの便宜的名称ではありません。「アルビダス」「デストラクター」という名前をわざわざ用い、それぞれ特徴ある違いとして意図的に使い分けるとするならば、それを満たし、納得させるだけの充分な学術的裏付けが必要となります。様々な思惑により、どうしてもタイプ分けしたくなるのは、趣味としてのザリガニに接する人間の悲しい性なのかも知れませんし、単なる違いでも、学名をさり気なく使うことで、専門家気取りをしたくなる気持ちもわからなくはありませんが、やはり、こうした厳然たる事実があり、しかも、両者の違いを学名を用いて語るにはあまりに不充分な現実がある以上、あくまでも、個体ごとの特徴として捉えるべきでしょう。無理なタイプ分けや、ましてやそれに学名を当てはめて使うなどは、結果として余計な混乱を招くことが多いことを踏まえた上で、私たちは、しっかりと個体を観察し、適切な判断を心掛けて行く必要があります。




今後も続々登場予定! どうぞお楽しみに!

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