ブルー系のグループ




ブルー系スタンダード個体

Standard form (Blue type)

 一般的に「ヤビー」と称される場合に指される体色が、これにあたります。ただ、ヤビーの場合、もう一つのスタンダードとして、緑が比較的強いグループもあることから、今回、スタンダードと呼ばれるものを大きく2つに分け、青系・緑系それぞれに設定することとしました。
 ヤビーは、棲息地でも体色の個体差が激しいため、論文などでも様々な体色の表現が載っていますが、非常によく使われるのが「モルティー・ブルー」という言葉。これは、この個体にあります通り、「多少褐色がかった青緑色」みたいに考えればよいでしょう。青の乗り方は、一般的にオスの方が濃いとされ、なおかつ頭胸甲よりも胸脚部(特に第一胸脚)の方が濃いとされています。この体色よりもさらに青みが強くなればブルー系、さらに緑がかればグリーン系、さらに褐色がかればブラウン系・・・ということになりますが、当然、その間は無段階的なものですから、スタンダードとその他のバリエーションとの線引きをどこに設けるかは、キーパー一人一人によって微妙に違うところです。






ブルー系個体

Blue form

 ヤビーの中でも、古くから抜群の人気を誇っているのが、この体色の個体だといえましょう。青という色自体は、決して特殊色ではなく、通常のスタンダード個体からもかなり多く出てくるものですが、ヤビーの場合、成長するに従ってどうしてもくすんできてしまうので、ブルーマロンとは異なり、成体までこうした色合いを維持する個体は極めて少ないのが実情です(ま、あのくすんだブルーも、ヤビーらしさという点では充分以上に魅力的なのですが・・・)。特に、くすみのない濃青色を出すのは難しく、各キーパーとも、様々な工夫をこらしながら、こうした個体の作出を目指しています。「ヤビーって?」のページに写真を載せてございますが、上手く育ってくれますと、この写真の個体のように、ブルーマロン顔負けの鮮やかなダークブルーを発現させる個体もいますから、そういう意味でも、育て甲斐のある血統だといえましょう。
 最近、「ブルー」というと、一連のライトブルー系個体を指すことが多くなりましたが、これはひとえに、こうした濃青色の個体が少なくなってしまったからで、こうしたブルーが「幻の個体」扱いされるのは少々寂しいことですし、「青=ライトブルー」という認識が定着するのは、ヤビーと付き合う人間として、ちょっと悲しいことです。こうした体色は、弱化に気をつけながらていねいに累代繁殖をさせることで作り出せるはずですので、ぜひともキーパー1人1人の手で、ド迫力の個体を育て上げて欲しいものです。






ブルー系ライトブルー個体(B型)

Blue form(Lightblue type "Version B")

 往年の「濃いブルー」がめっきり少なくなってきている中、最近は「ブルー」といえば、この体色の個体を指すようになってきました。ヤビーにしては、少々明るすぎるかなぁ・・・という感じもしますし、この体色の是非については、キーパー間でも評価の分かれるところですが、とても鮮やかで涼しげな色合いは、やはり魅力的なものであることに違いはないでしょう。問題は、「この体色が、どういう経緯で発現したのか?」ということです。薄い体色同士の計画的な累代交配であれば問題ないのですが、中には、連続的近親交配によって弱化した個体(弱化によって甲殻が薄くなったり、体色の発現に異常をきたした個体)も少なからず混じっているのが実情です。こうした個体の場合、突然死や脱皮不全の発生頻度が高いだけでなく、甲殻の硬化に時間が掛かったり、繁殖に使えなかったりといったトラブルに見舞われる可能性が高いので、注意が必要だといえましょう。必然的に、体力・運動能力ともに弱い個体が多く、こうしたことが「ブルーヤビーは弱い」という説を生み出す原因になったのだと思います(ヤビーに限らず、ザリガニの体色が強弱に影響することは、ことザリガニ同士という要素で見る限り考えにくいことですし、現にスタンダード個体を喰い殺してしまう強いブルー個体など、いくらでもいるものですからね)。なお、このタイプの個体では「脱皮したら体色がくすんでしまった」という嘆きの声を時折耳にしますが、これは、甲殻の状態が元に戻ったことを示すわけですから、むしろ喜ぶべきことだといえます。現に、多くのベテランキーパーは、それを目指して脱皮をさせているくらいです。

なお、この写真は「Tokyo Blue Claws」の矢尾井さんよりお借りしたものです。



ブルー系ライトブルー個体(A型)

Blue form(Lightblue type "Version A")

 ライトブルーといいますと、最近出始めた新しい傾向であるかのように思われがちですが、実際には、ブルーマロン旋風が吹き荒れていた1994年前半ごろの一時期、これと同じような体色の個体が、まとめて輸入されていたことがありました。そこで、当時の写真を色々と見比べましたところ、現在の個体とは多少違った感じをしたものが多かったので、今回、これを2種類として分けてみた次第です。
 この写真は、その当時に雑誌で掲載された個体で、当時の個体の特徴を最も端的に表した1枚ですが、同じライトブルーでも、「水色」ではなく「薄い群青色」であることがおわかりいただけましょう。手元の記録を調べましたところ、当時、このタイプはイギリス便のみで入ってきたことがわかっており、ルートも現在とは少々違うようです。また、繁殖も難なくできていましたが、この体色が忠実に受け継がれる性質のものだったかどうかについては、残念ながら手元の記録ではわかりませんでした。現在では輸入が完全に止まっているタイプではありますが、ある程度きちんとした繁殖を繰り返せば、再現できるのではないかと思っています。






ブルー系「ヨーロピアン・ブルー」個体

Blue form(type "Europian Blue")

 まさに「ブルー系の最高峰」といえるのが、このグループです。1993年に輸入され始め、1995年夏ごろを最後に輸入が止まったままになっていますが、当時は、1匹20000円もの値札を付けるほどの「超高級」個体でした。もちろん、これには「偽ブルーマロン」という意味合いでの価値も含まれており、これについては別のページにて詳しく触れておりますが、いずれにしても、購入には勇気が必要だったことは間違いありません。「最高峰」といっても、それは「青さ」という部分ではなく、繁殖時の「青体色再現性」で、体色自体は通常のブルー系個体に劣ることもありますし、繁殖で得られた仔の中には、成長するに従ってスタンダード体色が出てきてしまい、キーパーをガッカリさせることもよくありました。ただ、青い体色の仔をとるためには打ってつけの血統ですから、基本的には、累代繁殖をメインに飼育しているキーパー向けのタイプだといってよいでしょう。
 また、このタイプの場合、メス個体での色の揚がり方がいいのも特徴で、こればかりは通常のブルー系と比較になりません(この写真もメス個体です)。輸入がストップして以降、何人かのキーパーによって細々と守られてきた血統も、近年、弱化が避けられない状態になってきており、当時の純血個体を維持することは、ほぼ不可能な状態になっているのが残念なところです。






ブルー系「パール」個体

Blue form(type "Pearl")

 ヨーロピアン・ブルーに代わる形で、1997年夏ごろから数年間に渡って断続的に輸入されていたのが、このタイプです。現在出回っているライトブルー系の源流であるとされていますが、輸入個体の段階から、弱化特有のトラブルを頻発させたために、ずいぶんとキーパーの不評をかい、問屋にはかえってスタンダード系のオーダーが多く入ってしまうという珍現象が発生しました。しかも、この当時、スタンダード系個体は全く輸入されていませんでしたから、この動きは国産個体の乱発という現象を招き、かえって弱化個体の増加につながってしまったのは皮肉なところです。小さめの卵を産む個体が多かったため、ショップの中には「別種である」として売り出すところも現れましたが、既飼育個体との累代繁殖が順調に続いていることを含めて考えても、この説を裏付けるものは何もありません。
 現在のライトブルー系個体との一番大きな違いは、やはり薄青色の乗り方で、上のライトブルー個体写真と比較してもわかる通り、こちらの方がかすみ気味で、しかも全身に乗っています。「白色とのコントラストがしっかりと出ない」という言い方が適切でしょうか?
 当時入っていた個体には、「パール」と呼ばれるものと「パールブルー」と呼ばれるものがあり、後者の方が、現在のライトブルーにより近い体色をしていました。






ブルー系「新ヨーロピアン・ブルー」個体

Blue form(type "Europian Blue #2")

 平成15年秋、輸入が完全に途絶えているはずの「ヨーロピアン・ブルー」血統が、突如一部のブリーダーやショップなどからリリースされ、大変話題になりましたが、これについて追跡調査をしたところ、以前のヨーロピアンの血統を受け継ぐ別のブリーダーが生産し、ドイツ便の特定ルートだけでごく稀に入ってきていることがわかりました。これは、平成16年春に6個体だけ輸入された中の1匹で、体長15センチに近い大型個体です。
 以前のヨーロピアンに比べると、同じ濃青でも、色合いが心持ち藍色に近くなり、また、ハサミの形状もかなり長爪で、しかもボックス型に近くなっている(上項目の旧ヨーロピアン個体写真でもわかる通り、従来のヨーロピアンのハサミは、かなり幅広で短爪のラウンド型が主流でした)など、いかにも「最近のテイスト」が感じられるスタイルになっていますが、写真でもわかる通り、上部が漆黒に近いミッドナイト・ブルーであることや、どの個体もハサミ内側の毛が全く生えないなど、以前のヨーロピアンの香りも色濃く残っているのが特徴です。こうした特徴に加えて、関節部の赤の出方は、以前のヨーロピアンよりしっかり出ているものが多く、コントラストの妙味という点では、さらに進歩を遂げているといってもよいでしょう。また、ヨーロピアン独特の育成法もしっかりと続けられているため、一般的なブルー個体よりも脱皮や環境変化などによる体色の飛びや落ちなどが少なく、かなり落ち着いた強さを持っているようです。こうした青の強さが、ブリーダーの需要を高める要因だろうとは推察されますが、それが再現性の強さまで連関できるものかどうかについては、そうした個体の血を引く個体と接する私たちキーパーが厳しく見極めて行く必要があるでしょう。
 ヨーロッパ圏内におけるヤビー人気自体が下降線をたどっている今、現地でも、この血を保ち続けているブリーダーは1人しかおらず、しかも、一貫して「完全に成体まで育てて、充分なレベルに達したものしか出荷しない」という、一点豪華主義のスタンスを取っているようなので、輸入も年に1〜2回、しかも12〜3センチ強の完全成体のみで、来るのは一度に5〜6匹と極めて少数のようです(値段も、入り値としてはブッ飛ぶような高さです。もし小売りベースで値付けしたら、いわゆる「ブランド・ヤビー」の倍近い値段になる・・・と考えて下されば、いかに入り値が高いかはご理解いただけると思います)。そうした状況から、せっかく輸入されても、ほとんどすべての個体がブリーダーによって押さえられてしまい、直個体が問屋〜ショップのルートに上ってくることはほとんど皆無といってよいでしょう。一般のキーパーが入手できるのは、こうした個体をベースにしたブリード個体が中心となりますが、手にしたブリーダーの技量によって、体色や形状、そして血統としての強さに大きなバラつきが出てしまっているのが現状です。技術的にもレベル的にも後進国の日本ですが、近い将来、こうしたレベルの個体が安定供給されるようになれる日が来ることを祈りたいですね!






ブルー系ライトブルー個体(ニューブルー)

Blue form(Lightblue type "Newblue")

 入管・検疫チェック体制の強化と、アマチュア、セミプロ入り交じった国産個体の大幅流入によって、大手輸入ルートからの個体は平成15年ごろから大幅に激減して行きましたが、その最終期に、上項にある「新ヨーロピアン」と同じ業者のルートから、数回にわたって断続的に入ってきていたのが、この個体です。写真でご覧の通り、非常にしっかりした成体で、育成時のストックがよかったのでしょうか、写真のように触角なども非常によいコンディションで入ってきていたので、相当数の個体がそのままの状態でショップに流れ、販売されてしまったのも、当時入ってきていた他のバージョンの個体とは違うところです。
 当時、すでに「濃青色至上主義」みたいな風潮が出始めていたこともあり、キーパー側から見ても、人気は今ひとつといったところで、ともすると「B級」扱いされかねない傾向はありましたが、当時、無計画に濫造されていた国産個体とは異なり、仔持ちが非常によかったことや、奇形などの発生率が非常に低かったことなどもあり、種親用としては極めて優秀なものでありました。実際、これらの個体からも数多くの濃青色個体が採れており、当時、一部で語られていた「青血統理論」が、いかに心許ないものであったかを物語る事例でもありましょう。いずれにしても、こうした個体が、その実力を存分に発揮する前に規制が掛かってしまったことは、飼育という面で考える限り、残念なことではあります。
 この個体は、体色面でこそ他の国産ライトブルー系個体と大差ありませんでしたが、実際の輸入が成体のみであったことと、写真でご覧いただける通り、第一胸脚前節に乗ってくる斑紋が極めて薄いか、あるいはほとんど識別できないくらいの状態であったことなどから、(流通ルートから見るのが一番確かなことではありましたが)比較的簡単に見極めることができていました。また、同じような体色の国産個体とは異なり、脱皮後のくすみも少なく、体色面での好みさえ合致していれば、非常に高品質な個体であったといえましょう。ワイルド系の荒々しさこそありませんが、非常に丁寧かつ計画的に「作り込まれた」印象をもったヤビーでした。改めて、欧州のプロ・ブリーダーの実力を痛感させられる個体です。





今後も続々登場予定! どうぞお楽しみに!

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