ヤビーの「ハサミ」を考える


ヤビーのハサミ(第1胸脚前節・指節部)形状は、個体によって大きな違いがあるにも関わらず、この部分の相違を「2種説・複数種説」の根拠に置こうという考え方が未だに多く、特に初心者キーパーにとっては、大きな混乱の原因になっているようです(実際、この件に関する御質問メールは既に160件以上寄せられています)。今回は、この部分につきまして、別コーナー「SNIP! x SNIP!」用にと準備した何個体かの写真を中心に、実際に様々なハサミの形を御覧いただきながら、御一緒に考えてみましょう。



    

写真1                    写真2


    

写真3                    写真4


    

写真5                    写真6



まず、最初に申し上げますが、ヤビー2種説、複数種説は、あくまでも生物学上において、専門的かつ高度な知識を有する学術研究者が、総合的な比較・検証作業に基づいて提唱し、論議されているものであり、我々のような趣味界の人間が、単に「ハサミの形状が少し違う」というような程度のレベルによって論じられているものではありません。しかも、2種説の代表的な例として挙げられるdestructor種とalbidus種の場合、それぞれハサミの形状は千差万別であり、少なくとも「こっちはアルビダスのハサミで、こっちはデストラクターのハサミである」と判別することは不可能に近いことは間違いのないことです(実際、2種説を提唱している学術研究者によれば、2種を判別する基準は、ハサミの形状以外の部分が重視されています)。一部「デストラクター・タイプ」「アルビダス・タイプ」という区分で個体を見分けるキーパーやJCCメンバーもいますが、これはあくまでも便宜的なもので「自分なりに個体血統を区分するための一時的判定基準」に過ぎないものなのです。仮に真相が2種であったとしても、両種のハサミ形状には、各々にかなりの個体差が出てきますので、「デストラクター・タイプのハサミ形状を有するアルビダス種」や「アルビダス・タイプのハサミ形状を有するデストラクター種」が出てくる可能性は、かなり高いはずです。キーパーのみなさんは、この部分をしっかり把握する必要があるでしょう。

それでは、以上のことを踏まえた上で、さっそく写真を見ながら考えて行きたいと思います。まず、多くのみなさんから寄せられた数々の質問や、そこに添付された画像データなどから類推すると、一般的に「デストラクター・タイプ」は写真1、「アルビダス・タイプ」は写真4のような形状を指していることが多いようです(全く逆の説明をされる方もいますが・・・苦笑)。これは、以前から知られている有名な文献に掲載されている2種の個体写真が判断の源流になっているためであろうと容易に推察できますが、要は「アルビダスの場合、ハサミはボックス型で爪は短く、デストラクターの場合、ハサミはラウンド型で爪は比較的長い」・・・という判断になるようです。もちろん、
これは何の根拠もない「俗説」で、ここに写っている個体は、すべて佐倉で維持している、同じ血統の個体ですが、この「俗説」に従えば、さしずめ写真2・3・4はアルビダス種、同1・5・6あたりはデストラクター種・・・ということになりましょうか? ホント、笑えるような笑えない話です。

さて、2種説とハサミの関係はこれくらいにして、実際に見られるハサミのスタイルについて考えてみましょう。キーパーの好みは多種多彩で、写真1のように、内側のギザギザが大きく弧を描きながら、幅広なハサミを構成する「ラウンド型」をよしとするか、写真2や4などのように、全体的に四角張った細長で、可動部分の短い「ボックス型」をよしとするかは、判断が大きく分かれるところです。ヤビーらしさ・・・という点では、やはりボックス型の方に軍配が上がりましょうが、実際に数多くの個体を累代繁殖させてみますとおわかりの通り、より大型化して迫力が増してくるのは、圧倒的にラウンド型のハサミでありましょう。中には、写真3のように、クーナック顔負けの、ほとんど円形とでもいうべき、ハッキリした「ウチワ形状」を見せる個体も出てきますし、内側のギザギザも、一般的にラウンド型の個体の方が、よりハッキリと出てくるのが普通です。
ヤビーのハサミには、各個体ごとに固有の斑紋が入ることが知られていますが、老成個体になりますと、その斑紋もかなり薄れてきます(写真2・4など)。この時期になりますと、ハサミの形状も、かなりハッキリとその特徴を見せるようになるのです。なお、内側に発毛するかどうかについて、一部で「アルビダス・タイプは発毛しない」というような主旨の説明がなされているそうですが、佐倉における飼育状況及びJCCの主要メンバーから得られている情報を総合する限り
「特定の形状だからといって、毛が生えたり生えなかったり・・・ということは考えにくい」ようです。佐倉でも、写真4・6のように、かなりビッシリと毛が生える個体もいれば、写真1・2・5のように、全く生えない個体もいますので、特定のタイプに応じて発毛が決まるのではなく、あくまでも「個体ごとの資質」というような考え方でよいのではないでしょうか?

確かに、説明のしようによっては混乱を招きかねない部分ではありますが、写真1と写真4など、非常に対照的な形状の個体が渾然一体となって育ってくるのが、ヤビーの魅力であり、そうした個体の中から自分の気に入った形状を探し、育てて行くことが、ヤビー飼育の醍醐味であろうと思います。大きさや体色にばかり目が行きがちなヤビーですが、こういう視点からじっくり見つめてみるのも、また楽しいものではないでしょうか?




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