その6 無事に明けさせるためのテクニック(1)


 地方によっても多少異なるとは思いますが、雛祭りを過ぎるころになると、それまでの厳しかった寒さも少しずつ和らぎ、陽射しにも暖かさを感じる日も出てくるようになってきます。ドキドキしながら見守ってきた稚ザリの無加温越冬水槽ですが、春の訪れとともに、その苦労からも解放・・・と思いたいところですよね? ところが、特に稚ザリ〜亜成体の無加温混育水槽の場合、一番大きなダメージを負いやすいのが、この「明け」の時期なのです。水槽の底で無惨にも転がる稚ザリたちの骸を前に呆然とすることのないよう、この時期の注意点と、トラブル回避テクニックについて、2つの項目に分けて触れておくことにしましょう。

 今まで、大きなトラブルや個体減耗もなく維持させてきた混育水槽で、しかも、水質の急変を伴うような大規模換水などをしたわけでもないのに、なぜ、急に深刻なトラブルが発生するのか・・・? もちろん、それには様々な理由が考えられますし、それでなくても換水を抑え気味にしてきた分、そのダメージの蓄積が一気に破裂してしまうというケースもなくはありません。水の傷みというものは、誰もがはっきりと見極められるような「明確な変化」が測りづらい分、難しいところもあるはずです。しかし、そうした要素などを除いたとすれば、その最も大きな要因は、やはり
短時間に起こる水温の不規則かつ大きな上下にあることが多いといわれています。
 水温の上下というものは、自然下においても充分に起こり得ることですし、一般的に淡水域の場合、海水域と比較すればその幅は大きいとされています。ましてや、外気温の上下も大きい季節の変わり目など、変化が起きない方がおかしいと考えてよいでしょう。そうした意味で考えれば、いくら稚ザリといえども、少々の水温変化で大量斃死を引き起こすことなど、まずあり得ません。
 しかし、それは、あくまでも自然下にける水温変化のことであって、
水槽という極めて閉鎖的かつ限定的規模な水環境下においては、水質、水温いずれもが、自然下とは比較にならないほど急激な変化を見せることもあるのです。屋内、特に居間などといった家人が日常的に生活するエリアにおける水温の日格差は、軽く5度を越える場合も珍しくはなく、特に、寒さの和らぐこの時期は、暖房などの使い方も安定しない分、こうした状況も起こりやすくなるといえましょう。自然下では到底考えられない、まるでジェットコースターのような水温上下が、基礎体力の乏しい稚ザリたちにとって致命的なダメージとなることは、容易に予想できるというものです。実際の明け時期に入る前に、もう一度、水槽が設置されている場所の環境をチェックし、こうした可能性が充分想定できるようであれば、収容個体に刺激を与えないよう気をつけながら、より安定した水温の場所へと移動しておくのは大切なことです。あえて、陽の当たりにくい北側の部屋、通常の生活では使用していないエリアなどに避難させるのも一考です。

 しかし、これで「一件落着」とするには当然、無理もあることでしょう。「そんな程度の初歩的なトラブルなら、別に春先でなくたって、屋内でストックする場合には真冬でも起こり得るトラブルだ! 屋外や、屋内でも温度変化の小さい場所でストックしていても起こり得るという現象の理由説明になっていないじゃないか?」・・・という反論も、聞こえてきそうです。
 確かに、その通りですね。水温の不規則かつ急激な上下は、時期に関わらず稚ザリにとってよくないことなど、実のところ当たり前の話です。そのために「水槽の設置場所」に配慮すべきであるということは、すでに本編TRY-5の項目でも触れてある通りですものね。ですから、今回の大量斃死の原因は、もちろんこのことだけではありません! それに、
明けの時期の大量斃死は、水温の上下に充分配慮している水槽でも起こることがあるというのは、もはや常識といってもよいくらい、よく知られていることです。こうなりますと、単に「水温の急激な上下」という理由だけでは説明がつかないといってよいでしょう。

 そこで、もし、こうした大量斃死を経験した方であれば、もう一度、その時の個体の様子を思い出してみましょう。普通とは違う、たとえば、水質の急変などで起こる大量斃死とは異なる「何か」にお気づきにはならなかったでしょうか?

 実は、この、一般的な大量斃死とは違う「何か」こそが、その原因と解決策を示唆する大切なポイントなわけです。その部分を充分に踏まえた上で、次項でその解決策へと進んで行きましょう。