その5 稚ザリのための換水テクニック
底床に対し、できるだけダメージの小さい投餌方法については工夫ができたとしても、複数個体を収容している状況下ですと、さすがに1シーズン無換水で乗り切るには無理があります。ただでさえ水質の急変には敏感な稚ザリの、しかも越冬中である混育水槽です。必然的に、換水という作業についても、できるだけ個体に負担の掛からない方法を考えねばなりません。
これについては、「少量・多回数」というザリガニ飼育における換水の原則通りに行なえば、取るに足らない問題である・・・と言ってしまうこともできます。しかし、現実には、なかなかその水槽ばかりに手を掛けるわけにもいきませんし、専業で四六時中付きっきりというわけでもありません。口では「少量・多回数」と言っても、それを忠実に実行するのは大変です。また、実際に越冬時の換水経験をお持ちの方ならおわかりの通り、少量といっても、全体量の2割を超えてしまう状況ですと、どうしても水温や水質の変化に反応してしまう個体が出てしまうものです。一方、これに対し1/10換水程度にとどめてしまうと、今度は底床部の汚れを取りきれないという問題が出てきてしまいます。ザリ飼育における換水には、底床クリーニングという大切な役割が含まれていますから、軽く底砂表面を撫でる程度ならばともかく、充分な汚れを取り除くためには、やはり最低でも1/4〜1/5程度の量は必要です。こうなると、普通のやり方では、中の個体への影響を避けることができません。「静かに抜いて、静かに注いだから大丈夫」などといえるレベルではないのです。稚ザリの育成水槽において、水を静かに注ぐなど、もはや論ずるまでもなく当たり前のことで、あとは「いかに個体への刺激が少ない、同じ感じの水」を用意できるか・・・ということになりましょう。(汚れや傷みという点で)水質的に同じ水を用意しても、底床クリーニングという点以外、ほとんど意味がありませんから、ここでは、それ以外について、合わせて行く方法を考えます。
ここでの基本は「同環境での汲み置き」ですが、半日や一日程度の汲み置きでは、せいぜいカルキが飛ぶ程度で、あまり効果がないのが実情です。同じ場所であっても、汲み置き槽の設置位置が異なれば、水温は平気で3〜4度変わってしまうものですし、もちろん、同温というだけで、条件をすべて満たしたことにはなりません。
傷みが少なく、でも、ある程度こなれた、刺激の少ない水・・・。
マロンやクーナックなどを長期飼育させた経験をお持ちの方や、最近であればニチザリ長期飼育の経験を積まれている方なら、このキーワードを聞くと「ピン!」と来ることでしょう。そう! ここで活用するのが「もらい水」なのです。一般的には、換水時供給用の貯め水専用水槽を1本用意し、常時それを回しておくことを考えがちですが、たとえ汲み置きであったとしても、ピンピンに尖った新しい水では、稚ザリの場合、刺激が強過ぎる可能性もあります。ある程度以上の体力を持った個体であればともかく、独り歩きを始めてからさほど時間が経過していない稚ザリの場合、この変化が様々なトラブルの引き金となり、水槽全体として、致命的なダメージとなる危険性もないとはいえません。そこで、そうした刺激の少ないこなれた水、すなわち「生きた水」を用意しよう・・・というわけです。
この場合、まず、水質の変化を含めた厳しい環境にも、ある程度までは耐えられる強い個体を用意します。同種の成体の中から、秋までの段階である程度絞っておくとよいでしょう。さらに、越冬中の個体間トラブルは、水の供給を受ける側の稚ザリにとっても何一つプラスにならないので、基本は単独飼育ですから、当然選ぶ個体も1匹ということになります。そして、その個体を収容するために、充分な水を確保できる大きめの水槽を割り当て、稚ザリ混育水槽と同環境、同水温が維持できる環境にセットしましょう。そこでは、先ほど選定した個体を実際に飼育して越冬させておきながら、なおかつ、できるだけその水が傷みにくい環境で維持します。当然、投餌量なども個体に支障が出ないレベルまでの範囲で抑えますし、同じく個体に支障が出ないレベルの範囲で換水頻度も維持して行きます。つまり、その1つの水槽に、収容個体の越冬と、換水に使える水源ストックという、2つの役割を担わせるというわけです。水を回しているうちに、水の傷みとは異なる、水質の基本的な変化が起こらぬよう、こちらの水槽に関しても、底砂や濾材、濾過システムなどは、稚ザリの混育水槽と同じセッティングにしておきましょう。
もちろん、もらい水用の水槽に収容される個体は、ただでさえ通常よりも換水の頻度が高い上に、稚ザリ混育水槽への飼育水供給という観点から、たびたびの減水、加水に耐えてもらわねばなりません。自らの換水と、稚ザリ水槽への供給という点で見れば、単純計算しても、水が入れ替わるタイミングは2倍となります。また、むやみな投餌で水を傷めてしまっては元も子もありませんから、その部分でも耐えてもらう必要があります。そういう意味で、キーパーに対しては、稚ザリだけでなく、こうした環境下でも個体を越冬させることができるだけの飼育技術が必要になってくるとは思いますが、越冬期間中、こうした水を常に用意できる状況になれば、それこそ自分の思い通りのタイミングで、水温面でも水質面でも極めて小さい負担で稚ザリ混育水槽の換水がクリアできるというわけです。
なお、当然といえば当然過ぎるポイントですが、排水の際、取り出す側の水はできるだけ底床から遠い、表層部の水を抜き取るようにすることが大切です。底床ゴシゴシ・・・という、いつものやり方では、稚ザリにとって有益どころか、とんでもないダメージを与えてしまうことになりかねません。ひと口に「水を抜く」といっても、何のために抜くかという目的によって、その基本的作業方法が異なることは、至極当然のことなのです。