その4 換水を見据えた投餌の方法とは?
投餌があるということは、換水があるということです。そして、稚ザリの無加温越冬については、これが大きな成否の分かれ目の1つになるということです。ここでの判断を誤り、それが最悪のケースで進行してしまいますと、水を換えた1週間後には、数匹を残して水底にオレンジ色に変色した骸がポロポロと・・・というパターンになってしまうことも、決してないとは言い切れません。これは、換水による急激な水温、水質などの変化が引き金となって一斉に脱皮が始まってしまい、共食いの餌食になったり、低水温による脱皮不全などが起こってしまうことが原因であるといわれています。また、ホースで底床部を掻き回すことによって、流木の陰などで「動かないモード」になっている稚ザリを表に引きずり出してしまう場合もあります。これは、見方を変えれば、動いている他の稚ザリに恰好の餌を与えてしまうのと同じ状況になるわけで、こうなると、まさに「喧嘩や共食いなどのトラブルを起こすようにキーパー自身が仕向けている」ことになります。
餌を与えないことによって起こる共食いに起因する個体数減耗であれば、数的にも見ても軽微ですし、強い個体の選別という意味合いで考えれば、それもアリかな・・・とは思います。でも、このパターンでは、最悪の場合、水槽内は短期間に、しかも壊滅的な状況に陥りますので、キーパーの無念さも計り知れません。
餌も与えないといけないし、換水もしないといけない。でも、環境を激変させるようなこともできないし、底床をガサガサ掻き回すこともできない・・・。こんなとんでもない矛盾を、私たちはどうやってクリアして行けばよいのでしょうか? この解決策を、ここでは投餌の観点から考えてみることにしましょう。
まず、底砂をかき混ぜたり、レイアウトを大きくいじれないという条件を考慮すれば、それは「かき混ぜたりいじったりしなくてもよい状況に底床部を保つ」という配慮が必要になります。さすがに、ザリたちにトイレの指定まではできませんから、そうなると大切なのが、「投餌の仕方」ということになりますよね? 排泄物の汚れまでは完全に除去できない以上、せめて残餌系の汚れくらいは最低限に食い止めておこう・・・というわけです。
ザリガニは、ビーシュリンプなどと異なり、テリトリー意識が格段に強く、その傾向は、軽微とはいえ稚ザリにもハッキリと見受けられます。実際、観察しているとわかる通り、水槽内に投入された餌に対し、仲良く群がって食べルビーシュリンプなどとは異なり、ザリガニは餌を盛んにその場から持ち去ろうとするものです。当然、そこではビーシュリンプでは見られないようなトラブルも起こるわけで、通常、稚ザリに対する投餌は、そうした餌の摂取時に起こる喧嘩を少しでも軽減させるよう、「バラバラ撒き型」といって、1箇所ではなく水槽内の広範囲にばらまく方法をとるのが一般的です。これを、成体飼育と同じような「投餌ポイント型」に変えるわけです。多くのブリーダーは、季節によって稚ザリに対する餌の与え方を変えていますが、頻度や餌質と並んで重要な変更ポイントが、この「与え方」なのです
越冬中は、水槽内の特定ポイント、たとえばガラス上蓋の切り欠き下部などに餌投入場所を設け、そのエリアだけは徹底的にレイアウトを少なくし、場合によっては底砂も除去し、底ガラス面が見えるようにしておきます。これを、収容個体数に応じて1箇所または2箇所用意し、投餌後一定時間を経過しても摂餌されないものについては、直ちに取り出してしまう・・・という方法をとります。もちろん、個体がそこから持ち去った上で喰い残してしまった餌までは除去できませんが、それでなくと低温下で個体の反応も鈍く、収容個体数に対して残餌が出やすい環境にあるわけですから、餌を与える段階から、底床やレイアウトに対する影響の少ない回収方法を考えておこうというわけです。沈降力がイマイチの餌については、投入後に水面上を漂い、別のポイントに落ちてしまうことのないよう、事前に水を含ませて重さをつけておくなどの手間を掛けることもあります。
こうした部分に工夫を凝らした上で、それでも換水は避けられないこともあるかとは思いますが、それは次の項目で説明することにしましょう。