その3 稚ザリのための投餌テクニック


 稚ザリを越冬させる時、ある程度の投餌が必要になってくる・・・ということは、前項で説明しました。こうなってくると、まず最初に私たちが気を付けなければならないのが「どんな餌を、どんな間隔でどれくらい与えるか?」ということになろうかと思います。
 本来であれば「このような餌を何日おきに、1匹につき(あるいは水槽1本につき)これくらい与えるとよい」というガイドラインを示すべきですし、これが一番アカデミックでかっこいいのですが、あいにく、その数値がありません。厳密にいえば「数値がない」のではなく
「投餌感覚にしても、その量にしても、各事例ごとにその数値幅が広すぎる」のが実情なのです。同じ種類で同じ大きさの個体を、同じ数だけ同じ大きさの水槽に収容し、同じ量の餌を与えてみても、余って水を傷めてしまう場合もあれば、足りずに共食いを起こしてしまう事例もある・・・と申し上げるのが、表現としては適切かも知れません。この内容をJCC機関誌上で発表した後も、この部分に関しては非常にたくさんのご意見や情報、そしてデータをいただきました。集まったデータからだけで見ると、アメザリよりもヤビーの方が若干投餌頻度(同温の段階における餌に対する反応・要求度)が高いかな・・・と読み取れますが、ブリーダーによっては全く逆の数値データを出してくる方もいらっしゃいますし、まさにその通りのことをいうベテラン・キーパーの方もいらっしゃいます。体色にしても飼育技術にしても、趣味の世界においては、ともすると、自分たちの水槽環境において何度か同じような事例が出たからといって「これはこうなる」みたいな主張が出てくることがあり、それが、いかにも真実であるかのように語られてしまうケースも少なくありませんが、それは、あくまでも1つの事例であって、それを鵜呑みにしてしまうのは、語る方も聞く方も避けたいものです。「実験」などという言葉を使うと、まるで100%の真実が導き出されたかのように誤解されがちですが、「実験」とするからには、環境から何から、100%数値化された公平なコンディションに揃えるところから始めなければなりませんし、その上でキッチリした数値データを提示できて、初めてそう呼ばれるわけです。小学生の自由研究ではあるまいし「同じようにしてやってみたら、こんな感じの結果が出ました」というのを「実験」と呼ぶのは、決して好ましいことではありません。「観察」は、私たちキーパーにとって何よりも大切で、これによって私たちは様々なことを学ぶことができますし、そういう形で真剣に取り組むからこそ、ある程度の「傾向」はつかむことができるわけですが、それを「実験」として、いかにも「確定結果」のように吹聴したり、また、受け取る側もそれだけを盲信してしまうと、後になってからとんでもない大きな失敗や後悔、そして勘違いが起こることもあるものです。情報に軽重はありませんし、どんな情報でも謙虚に、そして貪欲に取り入れ、噛み砕いて行く必要はありますが、情報の内容だけではなく、その性質を細かく判断した上で内容を吟味する冷静さを忘れたくないものです。ともすると、希望的観測に基づいた「感覚」でもって流されやすい部分のある私たちではありますが、こういう冷静さを持って初めて、目の前の個体が雄弁に語り始めてくれるのだと思います。
 情報に関する私たちの姿勢はさておき、ここでの事例に話を戻しますと、現実問題として、水槽の大きさ、収容個体数などの違いはもとより、その年その年、もっといえばその日その日の気候状況によっても違いは出てきますし、孵化してから越冬を迎えるまでの育ち具合にも差があります。生態学上、または体構造上、個体ごとに性格の格差が出てくるとは思えませんが、もしかしたら、そういう要素に近い何らかの相違点はあるかも知れませんから、すべての事例がイーブンのコンディションではなく、また、嗜好性や投餌基準量まで、結果もまちまちに出てきます。こうなると、ハッキリ言えることは
「越冬に入る前までの段階で、その対象となる稚ザリたち、、もっといえば、その各水槽全体の(各々の餌に対する)反応や摂餌量をキチンと把握しておくのがベスト」・・・ということになりましょう。ひと口に「投餌量を絞る」といっても、そのグループの「基本量」を把握しておくかおかないかでは、量や間隔などの設定難度が大きく変わってくるからです。「常温であれば、この間隔でこれだけの量を与える」ということを踏まえた上で、あとは下がり方に応じて、その違いを見極めつつ、調整して行くようにしましょう。成体の項目でも説明しました通り、越冬中の大換水は、それだけでトラブルの要因にもなり得る「禁じ手」とてもいうべき行為です。そして、餌量の調整ミスは、無用な残餌の発生や水質・底床の悪化を招き、結果的に「換水するしかない状態」へと進んで行ってしまいます。基本量を元に、「水温の低下状況と反応の変化度合いを見極めながら適切量を適切なペースで与える形をキーパー自身が取れるようにしておく」ということが大切なのです。少なければ共食いが起こりますし、かといって残餌が著しく出れば、水質や底床への厳しいダメージを及ぼします。多過ぎも少な過ぎもしない、その事例ごとでの「良い加減」な管理をできるようにしておきたいですね。
 間隔面でも、同じようなことがいえます。飛ばしも、キーパーによって「1回飛ばし」「2回飛ばし」と様々で、その各々の事例が成功に行き着いているわけですから、どちらが誤っているとも断ずることはできません。飼育している土地の気候状況や水槽の設置環境など、水槽の周囲の環境によって、大きく変わってしまう要素であることは間違いないようです。少しでも長く、数多くの経験をつみながら、ご自分の飼育環境における「良い加減」をつかまれることをお薦めいたします。
 与える餌の内容ですが、
万が一、残餌として出てしまった場合、できるだけ底床に影響を及ぼさない状態で除去できる方が安全です。そういう意味で考えれば、人工飼料ならハード系、天然餌なら生き餌の方が望ましいことになります。ただし、生き餌の場合、動きの機敏な魚などですと、ただでさえ活性の低くなっているザリガニでは追いきれない場合があります。また、低反応の餌では、投入する意味がなくなってしまいます。一概に「動物性の餌であるほど反応が高い」とは言い切れない部分もありますので、これも越冬に入る前に、ある程度の反応度合いをチェックしておくとよいでしょう。通常の餌ローテで考えれば、概ね「締め」傾向のラインナップが主体になるものと思います。
 なお、餌の与え方にもひと工夫が必要ですが、それは次の項目で説明することにしましょう。