TRY-8 卵を抱いたままの冬越し


 現在飼育できるザリガニに関して見る限り、抱卵越冬が基本になっている種は見当たりませんが、アメザリなどの一般的な種類でも、ふとした拍子で産卵が大幅に遅れ、卵を抱えたまま時間切れで冬に突入してしまうケースがないワケではありません。こうなると、基本的には「しょうがないからこの水槽だけは加温させて乗り切ろう」という判断に至るキーパーが圧倒的だと思いますが、中には「そのまま越冬させちゃえ!」という結論に至る猛者もいらっしゃるようです。そこで、この最後の項目では、卵という非常にデリケートな状態のものを、無事に春まで持って行くためにはどういう点に気を付けるべきか・・・ということについて考えてみましょう。

 基本的に、卵は環境変化の影響を非常に受けやすい状況のものであるということができます。自分で環境を調節したり、あるいは望ましい場所に移動したり・・・といったことはできません。従って、周囲の環境が自分の状態に合わなかった時に起こる現象は「死=落卵」しかないのです。
 こういう書き方をしますと、「それは大変! すぐに温度を上げなきゃ!」と思われるかも知れませんが、必ずしもそうではありません。細かいレンジは種類によって異なりますので、あくまでも一般論として話させていただきますが、卵は、ある程度までの低水温ですと、そのままの状態で生き延びることが可能だといわれているのです。アメザリなども、丹念に巣穴を掘り回っていますと、時折、こうした「子持ち越冬個体」を掘り当てることがあります。これらの卵は、もちろん生きているワケで、「卵の中での成長がほとんど止まった」状態・・・とでも申すべきでしょうか? 孵化に適した水温になるまで孵化せず、そのままの状態で春を待っているのです。
 アメザリなどの例を考えれば「早く温度を上げて、孵化させてやる方が安全」だという考えもありましょう。しかし、そうした温度まで上げる過程で卵に掛かるであろう負担は、成体へのそれとは比較になりません。成体でさえ、急な温度変化では体調を崩すのが普通ですから、卵の場合は、まず耐えられないと考えてよいでしょう。結果的に「卵のための温度上昇」が、卵にとっての致命傷になるという皮肉な結末を迎えるわけです。確かに低温下によって卵が死んでしまうリスクは少なからずありますが、無理な変化で卵にダメージを与えるくらいなら、むしろここは、じっくりと春を待たせる方がはるかに安全であることは間違いありません。
 卵が「環境変化の影響を非常に受けやすい状況のもの」であることは最初に述べさせていただきましたが、この点を踏まえ、最も注意しなければならないことは「環境の維持」です。無用な温度変化、余計な餌やりに伴う水質の悪化、そして卵を思っての余計な換水作業・・・。これらのどれもが、卵にとっては深刻なダメージとなり得ることなのです。確かに、卵にとって”寒いこと”は、決して歓迎できることではありません。しかし、どうせ寒いのなら「寒いまま」の方がよく、どうせ冬を越さねばならないのであれば「冬に徹して」もらった方が、よほど安全でありがたいことだといえましょう。「小さな親切、大きなお世話」にならないよう、バランスを考え、実情に即した世話をしなければ意味がありません。
 酸素は水温が低い方がよく水に溶けてくれます。しかし、同時にこの時期は、低水温状態のためにメス親個体自体の動きも鈍っていますから、卵への送気が充分に行われない可能性もあります。一般的に、越冬期間中は送気量を心持ち抑え、静かな環境を用意するようにしますが、卵がいる場合は、静かな環境を維持できる範囲内で、充分な送気を心掛ける方がよいでしょう。上部フィルター内にエア・ストーンを設置するなどといった「水槽外曝気」方式は、こうした状況の時だけでなく、神経質な種の繁殖活動時などでも案外好結果をもたらすことがありますので、検討してみる価値はあるかも知れません。

 越冬は、単にザリガニを長生きさせるためだけでなく、周期的な脱皮を促したり、適切な繁殖活動を行なわせたりするなど、ザリガニにとっては非常に重要な意味を持ちます。成体の越冬、幼体の越冬、そして卵の越冬と、様々な形での越冬を経験し、その技術を身につけて行くことで、飼育技術も格段にアップすることは間違いありません。慣れてくれば、こうした部分にも”勘”が働くようになりますし・・・ね。過度の危険回避は、自らの成長を阻害します。本格的なザリ・キーパーとして飼育を楽しむためにも、勇気を持ってチャレンジして欲しいものです。



TRY-8のまとめ

その1 無理して孵化させようと考えず、春まで待つ方が卵にとっては安全
その2 すべてにおいて「環境維持」「高酸素量維持」の2要素を優先する