TRY-7 春始めの留意点


 越冬の「明け作業」については、TRY-6で詳しく触れましたが、実際の飼育下では、水槽本数の関係上、単独飼育での越冬ができないケースが往々にしてあるものです。せっかく越冬させて、まさにゴール寸前といったこの時期になってからトラブルを起こすことのないよう、複数飼育での事例も含め、留意すべき点をいくつか考えてみましょう。

 TRY-6でも触れた通り、この時期に最も心配なのが「先に動き始めた個体による、他個体への攻撃」です。ザリガニ飼育では「1種1水槽」が鉄則ですので、越冬明けの温度が、個体ごとに大きく違う・・・ということは少ないのですが、やはり同じ種であっても、実際に活発な動きを見せ始める温度には微妙な違いが出ることは決して不思議なことではありません。実際に水槽を観察していても、この時期「早く目覚めた」個体が活発に動き回っている傍らで、シェルターから全く出てこようとしない個体がいるものです。越冬期間中、個体はほとんど餌を食べていませんので、通常期以上に旺盛な食欲を見せる個体が多いのは当然のことで、必然的に「共食い」の危険性も高まります。こんな個体がウロウロしている中で脱皮でもされた日にゃ「どうぞみんなで襲撃して下さい」と言っているようなものですよね。だからこそ、この時間的・温度的格差が、「遅起き」個体にとっては非常に危険なのです。
 単独飼育であれば、それこそ「目覚めるまで待つ」だけでいいのですが、複数収容ですと、そうも行きません。動き始めた個体をピックアップして、別水槽に移してしまう・・・という方法もありますが、網などで掬おうとすれば、当然その個体は暴れますから、目覚め前の個体に対しても、多かれ少なかれ負担を掛けることになりましょう。第一、この時期になって単独飼育にするくらいなら、最初から隔離しておいた方がいいに決まっています。
 そこで、こうしたケースに応用したいのが、加温による”一斉起床”です。動き始めた個体が出てきた段階、あるいは「もう動き出してもいいころなぁ・・・」という温度になった段階で、ヒーターを入れ、一気に18度前後まで上げてしまおうというものです。越冬入りの段階で使った技法を、逆のパターンでもう1回行なう・・・という感じですね。遅起き個体にとってみれば、若干不自然な”目覚め方”にはなってしまいますが、収容している個体の活動をタイムラグなく一気に開始させることで、こうしたトラブルは、かなり防げるものです。
 次に換水についてですが、前項でも触れました通り、大規模換水は15度のラインを越えるまでの間は極力控えるようにし、その量も1/5程度までにとどめます。個体の様子を見ながら、底床の汚れを取り除く程度に換えて行きましょう。換水間隔も、温度変化を考えれば、1〜2日おきくらいまでにとどめ、急激な変化は避けるようにしましょう。
 もちろん、この時期の換水は、この後の脱皮を成功させるために大切なものです。ひと冬を乗り切った水は、目に見えない汚れで相当傷んでおり、放置するとバーンスポットなどの甲殻病を発生させやすくなります。特に、水温も上がり、個体の動きも活発になってきますと、こうした甲殻病も一挙に表面化して行きますから、そうなる前に手を打っておく方が無難です。水温計とにらめっこ・・・ではありませんが、あくまでも無理をしない範囲で換えて行くのがポイントです。
 この「越冬明け加温」飼育は、単に個体同士のトラブルを避けるだけでなく、個体のコンディション維持にも効果はあります。この時期、外界も「三寒四温」といって、気温変化の激しい状態が続いています。この気温変化は、水槽内の水にも影響を及ぼし、秋口同様、かなり大きい水温の上下が発生してしまいます。ザリにとって、これは非常に厳しいものでして、一気に体力を消耗させてしまうことも少なくありません。ですから、この時期を加温状態で一定させ、ある程度水温が安定する時期まで乗り切ってしまうわけです。温度設定は種によっても大きく異なりますが、アメザリであれば17〜18度程度といったところでしょうか? 水温を下げた時と同様、1日1〜2度くらいの幅でゆっくり上げて行きましょう。間違っても”一気上げ”は禁物です。ある程度の経験を積んでしまいますと、無加温でも上手にバランスを取りながら乗り切れるようになれますが、複数飼育下である場合や、とにかく安全策で行きたい場合などには、ぜひ使いたい方法です。

 トラブルは、越冬期間中に比較すると、こうした「越冬前後」の期間に起こる場合が圧倒的です。また、越冬とは関係のない原因で個体を死に至らしめてしまうことも多いものです。配慮や留意に「し過ぎ」はありません。だからこそ、完全に越冬が明けるまでは、万全の注意で臨みましょう。脱皮が終わり、繁殖などがスタートすれば、越冬も無事終了。細心の注意を払って越冬させた個体が繁殖を成功させてくれた時の喜びは、ただの繁殖の何十倍も何百倍も、嬉しいものですから・・・。



TRY-7のまとめ

その1 心配であれば、加温して「全員起床」させてしまう方法が安全
その2 温度の急激な上下による体力の消耗には充分注意しておく