TRY-6 さぁ、越冬明けだ!


 地域にもよりますが、暦が3月を迎え、桜の便りが聞かれ始める時期にもなりますと、それまで1ケタのラインにはりついていた水温も、少しずつの上下を繰り返しながら上がって行きます。いよいよ越冬も最終段階、「明け」の作業を始めなければなりません。ここでは、何といっても「タイミングの見極め」が大切! ここでは、そのタイミングの見極め方と、そこでのとるべき方法などについて考えてみたいと思います。

 一般的に「明け作業」といわれるものは、水温にして10〜15度の段階で、ザリたちをスムースに「目覚め」させ、春モードへと変えてやるための作業を指しますが、この温度的な部分、すなわち「何度の段階で作業を開始すべきか?」という部分は、実のところ個体によってかなりの差があると言わざるを得ません。同じ種類のザリでも、10度を越えたあたりから盛んに動き出す個体もいれば、13〜4度になっても相変わらずじっとしたままの個体もいるからです。現在では飼育できませんが、ウチダやマロンなどといった「冷水系」諸種は、比較的低い水温から活発に動き出すケースが多かったですし、アメザリでも13〜4度くらいになれば、それなりに動き始めるものです。従ってそれらはあくまでも「一般的に」というラインなので、注意が必要です。何度も越冬を経験しているキーパーならば心配もありませんが、そうでない場合には「その個体が昨秋、何度くらいの時から動きが鈍り、何度くらいでほとんど動かなくなったか?」というデータを活用するとよいでしょう。あまり気持ちのよい話ではありませんが、これをミスすると、様々なトラブルが待ち構えています。ざっと挙げるだけでも、水質悪化による甲殻病の発生、脱皮ミス、餓死に共食い・・・。今までの苦労がすべて水の泡になるようなトラブルばかりですので、充分注意して観察しておきましょう(共食いに関する注意点につきましては、TRY-7で詳しく御説明いたします)。個体が少しずつ動き始めたり、じっとしている場所が変わり始めるころが、作業開始のポイントです。また、餌を与えてみて、反応がよくなり始めた時も、格好のタイミングです。
 さて、その「明け作業」ですが、大きく「投餌・換水・脱皮」の3つをクリアさせるようにするのが主眼です。これも個体によって動きが違いますので一概には言い切れませんが「まず餌を食べさせ(投餌)、次に水を換えて気分を新たにし(換水)、最後に脱皮を済ませて(脱皮)春モードに入る」という形が普通です。
 餌は、個体の様子を見極めながら、少しずつ量を増やし、投餌間隔を狭めて行きましょう。最初は嗜好性の高い動物質の餌を中心に与え、体力をつけて行きます。餌を順調に平らげ始めるようになってきたら、頃あいを見計らって植物質の餌を与えてみます。これに対して普通に反応してくれるようになれば、まずは成功と考えて問題ありません。配合飼料でのパターン例としては、キャット2粒(3日開け)キャット3粒(2日開け)キャット3粒(1日開け)キャット3粒(1日開け)プレコ1枚(1日開け)キャット3粒・・・みたいな感じでしょうか?
 次に換水についてですが、大規模換水は15度を越えるまでの間は控え、多くても1/5程度の量にとどめます。個体の様子を見ながら、底床の汚れを取り除く程度に換えて行きましょう。換水間隔も、温度変化を考えれば、1〜2日おきくらいまでにとどめ、急激な変化は避けるようにします。観賞魚の換水に見られるような「1/4ずつ12時間おき4回で総量分換水」みたいなやり方は、この時期、お薦めできません。
 もちろん、この時期の換水は、この後の脱皮を成功させるために大切なものです。ひと冬を乗り切った水は、目に見えない汚れで相当傷んでおり、放置するとバーンスポットなどの甲殻病を発生させやすくなります。特に、水温も上がり、個体の動きも活発になってきますと、こうした甲殻病も一挙に表面化して行きますから、そうなる前に手を打っておく方が無難です。水温計とにらめっこ・・・ではありませんが、あくまでも無理をしない範囲で換えて行くのがポイントです。
 最後に越冬後の脱皮についてですが、基本的には水温が15度前後になってから脱皮させた方が失敗も少ないので、早い段階で無理をさせない方がよいでしょう。15度程度で水温が落ち着き、個体がとりあえずどういった餌でも受けつけるようになってから考えても遅くはありません。
 春の脱皮は、栄養価の高い投餌ローテーションを組み、多少強めの換水を掛けてやることで、一気に脱いでくれることが多いようです。もちろん、これにも個体差があって、5月近くまで古いまま粘る個体もいれば、動き始めた途端に脱いでしまう個体もいるのですが、この部分の見極めは、かなりの経験を積んだキーパーでも難しいものなので、春始めのうちは、動物質中心の餌ローテーションを組んでおいた方が無難です。また、脱皮を万全にクリアさせるため、水槽内に充分な脱皮スペースがない場合には、水槽内に設置してあるシェルターや流木の数を調整し、個体の大きさに応じた「広場」を作っておいてあげましょう。

 一連の明け作業を進めて行く段階で、同居個体がいる場合は、その動きにも気をつけてあげて下さい。水槽内の全個体が同じ動きであれば問題もないのですが、片方の個体が、まだ完全に「春モード化」していない段階で強めの換水を掛けたりしますと、繊細な種などの場合、かなりの負担が掛かってしまうことがあります。「越冬は、単独飼育の方が望ましい」としたのは、こういう理由があるのです(これに関する注意点につきましては、TRY-7で詳しく御説明いたします)。いずれにせよ、1つ1つの作業を「やり急がない」ことは、明け作業をする上での鉄則といえそうです。



TRY-6のまとめ

その1   作業を開始する水温の見極めは万全に!   
その2   1つ1つの作業を「やり急ぐ」のは失敗のもと