TRY-5 越冬期間中の注意点


 いわゆる「1ケタ水温」といわれる水温レンジは、それまで熱帯魚飼育しか経験のなかったキーパーからしますと、まさに「氷の世界」。水槽に手を突っ込むのもツラい状況でしょう。ザリはもちろん、同居させている小魚でさえも、すっかり動きが鈍ってしまいます。地域にもよりますが、通常、この状況は最低でも1〜2ヶ月間程度続きます。ベテラン・キーパーにもなると「今はやることがないから、他の趣味にいそしむ」なんていう猛者もいますが、慣れないうちは、多少の注意も必要です。ここでは、この期間の注意点をまとめてみましょう。

 まず、一番最初にも触れましたが、ザリガニの場合、ヘビやカメなどといった爬虫類・クマなどの哺乳類などでいう「冬眠」とは異なり、「完全な眠りに入る」わけではありません。特に、飼育下で巣穴を掘れない場合では、この傾向が顕著であり、「眠る」というよりは「動くに動けなくなる」と表現した方が正しいのではないかとさえ思えます。ですから、個体によっては、鈍くなりながらも動き回る場合はありますし、餌を食べる個体もいます。キーパーは、ここの部分をよく理解しておかないと「越冬中に脱走」「越冬中に共喰い」などという、シャレにならない事故を起こしてしまうことがないともいえません。
 そういう意味で、越冬中であっても、1〜2週間に1度は、軽い投餌を施してみることは悪くないでしょう。動物質でにおいの強い餌を少量与えてみて、個体の反応を見てみて下さい。さすがにすぐに飛びつくことはありませんが、気をつけて観察していると、塩ビ管からノソノソ出てきて、少しずつ餌を食べる光景が見られることもあります。10分くらい経過して、それでも反応を示さない場合は、ただちに取り除くようにしましょう。
 越冬期間中、キーパーが気をつけるべき最大のポイントは「水温・水質の維持」です。特に水温の上下は、個体に対して強烈なダメージを与えることが多いことを忘れてはなりません。個体からすれば、「暖かくなったり、寒くなったりする」よりも「致死温度にまで下回らない限りは、強烈に寒いまま」の方が安全なのです。具体的な事例は報告されていませんが、「急激な温度差は、個体に食滞障害を発生させてしまう」とするキーパーもおり、事実、そうした症状ではないかと思われる個体はいるようです。
 一部の南方種を除き、現在日本で飼育されているザリガニは、そのほとんどが氷結でもしない限り”低水温が直因で死ぬことはない”とされています。もともとの棲息地域から見れば、アメリカザリガニの場合、1ケタ水温では絶対に乗り切れないはずなのですが、今までの飼育事例を見る限りでは、難なく乗り切ってしまうケースも少なくはなく、1ケタ水温でも10度に近いラインであれば、まず問題はないといえましょう。
 水温を維持するためには、まず第一に「水槽の設置場所」を事前に考えておくことで、室内でも居間などといった気温差(日格差)が多いところに置くのは危険です。次に、意外と見過ごされがちなのが「エアーによる温度変化」で、総気量が多いと、その影響も受けやすくなります。冬場は、ザリガニの呼吸もかなり鈍くなってきていますので、ある程度水温が下がった時点で、エアーは絞っておいた方がよいでしょう。
 水温の維持という点では、換水も避けた方が賢明です。温度合わせをしたつもりでも、実際に換水みると温度は変わってしまうものですから、ここは、先ほどの残餌処理なども含め、水を傷めない努力が必要です。大幅な換水は、個体に対し脱皮を促してしまうという副作用もありますから、この時期の換水にメリットはありません。どうしても換水する必要に迫られた場合には、あらかじめ汲み置き、同じ場所に置いておいて水温を合わせるなどした水を使い、とにかく回数を分けて、少しずつ交換して行くようにします。
 さて、前項で「小魚を投入しておくとよい」としましたが、小魚は、こうした状況において、とても貴重な「水を傷めない餌」です。冬場の間、こうした餌だけで乗り切るキーパーもいるほどで、残餌処理などにも活躍してくれる・・・という点では、実に重宝します。しかし、こうした小魚を食べた直後は、当然ながら水は傷みやすくなりますので、その投入量は適宜調整して下さい。

 1ケタ水温になってから1〜2ヶ月間が経過し、桜の便りがボチボチ聞かれるようになりますと、越冬もいよいよ大詰めです。



TRY-5のまとめ

その1   必要であれば、動きを見ながら適宜餌を与えてみよう
その2   できるだけ小さい「水温幅」の設定が成功の秘訣